嘘つきの嘘
すみはし
嘘吐きの嘘
「ねぇ、私は今日あなたに嘘は吐かない」
嘘吐きの彼女は言う。
嘘吐きの彼女の言うことなんて信じられるものか。
「あら、疑ってるの?」
心外だわ、というふうにため息を着く彼女だが普段の言動が嘘でできたこの子にそれができるとは思えなかった。
「ねぇ、私が今日嘘を吐いたとしたら、お礼に何でもしてあげる。これは本当よ」
「何でもなんて思ってもないこと言うんじゃない」
何でもと言われると色々と考えてしまうのは仕方ないが、きっとこれも嘘。
何でもなんて何を言われるか分からないリスク、彼女は冒さないはず。
「私、いつもは嘘つきじゃない?」
「あぁそうだね、くだらない嘘から信じてしまいそうな嘘まで沢山聞いてきたよ」
「そうね、あなた信じやすいもの」
小学生の頃『明日の遠足夕方から雨らしい』と言われまんまと傘を持っていったこと、中学生の頃に『私高校は県外のところに通う予定なの』と言われ餞別を渡したらケロッと同じ高校だったこと、高校に入学したての頃は幻のパンがあり金曜日の昼1番にのみ3個限定で販売されると聞いて信じなかった時は実は金曜日限定10個の幻のパンだったという微妙な嘘をつかれたこと、色々覚えている。
積み重ねが積み重ねなものだから僕は彼女を信じられない。
だがそれ以上に信じられないのが僕が彼女を好きな事。
だって嘘を明かした時の彼女の笑顔はとても嬉しそうで、とても可愛いのだ。
だから僕は騙されてしまう。
「じゃあ、今日嘘吐いたら明日から僕と付き合ってよ」
「構わないわ、私あなたのこと好きだもの」
彼女はつんとすました声で軽く了承する。
これが本当ならとてもありがたいね。
まさかこんなに簡単にOKを貰えるなんてなんてことだ。
「私昔からあなたのことが大好きだもの、嘘なんかつかなくったっていつ告白されてもOKしてたわよ」
くすくすと笑う。
「ねぇ、本当は今日、私から告白しようと思ってたのよ」
「本当?」
「本当」
「そんな勇気ないくせに」
「失礼ね」
「エイプリルフールに乗っかった告白はずるいと思うよ、特に君はね」
「私だって出そうと思えば勇気くらい出せるかもしれないでしょう」
「小学生の頃、転校してしまう好きな子に告白するって言いながらそのまま何も言えず見送った君が?」
「昔の話を引きずらないでくれる?」
そんなことないよ、と言わないのが彼女の絶妙なさじ加減なのだなと思う。
「知ってた? カバの汗って赤いのよ」
「知らなかった、それは嘘じゃないの?」
「最近テレビで見たから嘘じゃないわ」
念の為調べるが、本当らしい。
「今日数学、あなたのクラス小テストがあるから気をつけてね」
「ありがとう、勉強しておくよ」
念の為勉強しておくと、小テストがあった。
「ねぇ、今日の降水確率は60%よ」
「傘がいるかもしれないね」
曇りはしたけど雨は降らなさそうだ。
「ねぇ、明日は私のクラスで席替えがあるの」
「今の君の席も知らないよ」
答え合わせをさせるなら学校が終わるまでに今の席を教えてくれないかな。
本当のことを言うかは知らないけど。
「ほら、私の言ってること本当のことばかりでしょう?」
「そうだね、珍しく本当のことばかりだ」
「ねぇ、どうして私がいつも嘘をついている前提でお話するの? 私今日は嘘をついてないわ」
「まさかだけど嘘をつかないということが嘘、なんてことはないよね」
「心配しなくてもそんな狡いことはしないわ」
「それじゃあ試しに家に帰れば今日の降水確率でも調べてみるよ」
「さぁね、うちの地域の具体的な数値まで後から辿れるかしら」
「もし嘘をついていたらよろしくね、彼女さん」
「嘘が分かればね、彼氏くん」
さぁ僕は知っている。
彼女は嘘つきだってことを。
ただ、先も言ったように、嘘を明かした時の彼女がとても可愛らしい。
だから僕は彼女の嘘を黙っている。
昔は騙されていたけれど、嘘を吐く時は決まって“ねぇ”ということも知っているけど黙っている。
彼女はいくつの嘘を吐いただろうか。
答え合わせは明日にしよう。
明日からよろしく。
嘘つきの嘘 すみはし @sumikko0020
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