第2話 コロシアムへ、いざ出陣‼



ここにきてから、数日が経った。


ルーティンのように戦場コロシアムへ連れ去られる男たちを、もう何度見たことか。

それでも、弟のキトンと妹のパピーは、まだ一度も見たことが無かった。


私と違う階級なのか?

あの二人は、私と違って愛想のある美人だから、もう少し上の階級なのかもしれない。

だけれど、彼らはまだ10の年だ。姉として、無理はさせられない。


とは言っても、会えない人に一方的に気遣うなんて、意味がない話だ。


「1806番。お前の出番が来たぞ」


来たか………。


想定以上に遅かった、と言えば、どうせ警備に引かれるだけだ。

(前の警備には素を見せてしまったけれど)


それか、面白いと富豪に気に入られるか、のどちらか。


私は、富豪に気に入れられる為にここへ来たわけじゃないし、地位を得るために

来たわけじゃない。

ただ目立たず、地味に勝利を掴み取り、

10万ドルを抱いて三人で外の世界に出ること。

それが、私の願望だ。


「はい」


素直に牢屋から出て、コロシアムへと向かう。


「随分と利口だな」


それがどうした。利口だから何か貴方に影響があるんですか?

………という思いを胸に秘めながら、圧をかまし出し、華麗にスルーをする。


「………」


「ハハハ。スルーか。面白いな」


違う。そうじゃない。

想定外の展開に、内心戸惑う。


隣であざ笑うような笑みを浮かべる警備を横目でちらりと確認すると、小さくため息を吐いた。


目立たず勝利を勝ち取ると言った矢先、なぜか気に入られそうなんですが………。


「ここが出場者プレイヤーの控室だ」


ガラン


扉が開くのと同時、先に控室へと集まった同ランク達が、一斉にこちらを見た。

皆、殺意のこもった目でこちらを見ている。


これも日常茶飯事なんだろう。

だって、自分の生と死を決めるライバルが、目の前にうじゃうじゃいるんだから。

私だったら、今にでも投げ飛ばしたいくらいだ。


しっかも、流石D級の控室。監獄とほぼ変わらない汚さだな。


「詳しいルールはそこの掲示に書かれているからな」


GOODLUCK!と、控室を立ち去る警備。


誰のせいでここに来てんのか分かってんのか。


どうせ自分は富豪側だというのに、誰もに良い顔を見せるなんて、八方美人にも程がある。


途端に機嫌を損ね、床に崩れ落ちるように座り込んだ。



それから、数分が経った。


『試合の準備が整いました!各プレイヤーは、カプセルの中へ、LET'S~GO‼』


やけにノリが良いアナウンスが終わると、皆ゾロゾロとカプセルに入っていく。


空間魔法で人間の体をコロシアムへ転移させるのか?

こんなにも大人数を一気に………。


半信半疑で、渋々カプセルに入る。


『全員の準備が整いました!今から、試合を開始しま~すっ』


ビビッ………


突然、カプセル内が暗くなったと思うと、いつの間にか、目の前には違う景色が

広がっていた。


それと同時、何もない空気中に、文字が浮かび上がった。


『貴方の能力は〝鑑定士アプレイザーズ〟です』


鑑定士………?


『直径50m以内のプレイヤーのID・能力・体力を知ることができます』


へぇ………。


直径50m………ということは、相手のIDや能力、体力以外にも、少し大雑把だが50mの範囲に相手がいるか分かるということか。


まあ、とにかく。私がこのフィールド場を歩き回れば、大半の能力を知ることが

できるということだろう。


頭をフル回転し、素早く状況を整理する。

通常の人間よりも頭の回転が素早いのは、私の取り柄だ。


早速、移動を開始する。


よくよく見れば、このコロシアムは貴族が行き来するような街並みをしていた。


中央に位置する噴水。商店が立ち並ぶ道。街のシンボルであろう大きな時計台。

何もかもが、私には程遠い存在に見えたのが辛くて、さっと目を背けた。


ピコン


『ID:1403 能力:追跡 体力:♥♥♥♥♡』


耳元で聞こえた音と共に、またしても空気中に文字が浮かび上がった。


『矢を命中させたプレイヤーを追跡します。追跡対象者の位置を常に把握でき、

対象者から30m離れると、大幅に移動速度が上昇します』


これが、鑑定士の能力。


能力の詳細まで教えてくれるなんて、ご親切だな。


といっても、なんでコイツは私と違って、肉体的な強化もついているの?


これもまた、差別の一部なのか。

まあ、怒る……というより、日常茶飯事だから、何一つ気にすることはないけれど。


ん………?


プレイヤーの情報をまじまじと見ると、不審な点に気が付いた。

相手の♥が、一つ削れている?


ということは、相手が既に戦闘をしている………?


バッ


たちまち私はその場を立ち去ろうとするも、奥から聞こえた素早い物音に、

立ち尽くしてしまった。


「あ、も一人見~っけた♪」


ID:1403………。


彼が、追跡者トラッカーだ。

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