第15挑☆大統領の屋敷で大暴れ⁉ 誘拐犯の要求 後

「おい、待てよ」




 俺はもう、黙って見ていられないぜ。




「なんだ」




 ギロリとこっちを睨んできた大統領の目を見据えて、俺は言った。




「赤鬼の要求はどうするんだ」




「そんなもの、聞くわけがないだろう!」




「聞かなきゃ、藤花の命はないって言ってたぞ」




「藤花は力ずくで助ければいい!」




 大統領の言い方は、声の圧でこちらの言葉を断絶するようなもんだ。これ、いつものことなんだろう。こういう言い方で、国民の声もちっとも聞きやしねえんだろうな。




「てめえ、そんな態度だから藤花が狙われたんじゃねえの?」




「何⁉」




「赤鬼も言ってたけどよ。てめえ、国民のこと、ちっとも考えてねえだろ。国民から金を搾り取るだけ搾り取りやがってよ。金がなくて、夢をあきらめなくちゃならねえ人間も出てくるかもしれねえって考えねえの?」




「何を言っているんだ。夢? そんなもの、愚民に必要あるわけがない! 生きているだけで十分だろう。




貴様らにはわかるまい。国が独立して平和を保つためには、金がかかるんだ。周辺の国に金をばらまくことで、侵攻を防ぐことができるんだ。金だけじゃない、交渉術だって大切だ。その交渉術に秀でているのがこの私。金をうまく使って周辺諸国をコントロールしているのもこの私。




結果、この国の平和を維持しているのもこの私なんだ! ほかの誰にもできないことをやっているんだ。それに引き換え、農民なんぞいくらでも代わりがいる。さあ、優遇されるべきはどちらのほうだ⁉」




 俺は黙って大統領に近づき、油でてかてかしている顔面に一発、拳をめり込ませた。




 一応、死なない程度に手加減はしてやった。目覚まし程度の拳だ。だが、大統領はボールのように床に転がった。




「その農民のおかげでてめえの立場があるんだろ! どっちを優遇するとかじゃねえだろ。誰だってなあ、心を持って生きてんだよ!」




 黒服に身体を起こされた大統領が、俺に向かってわめいた。




「貴様、この私になんてことを! 逮捕だ! こいつら捕まえろ!」




 部屋の中にいる黒服は、全部で7人。大統領の身体を支えているのが2人。こっちに向かってきているのは5人か。


 俺はテーブルを持ち上げ、5人の黒服たちに向かって、横にぎ払った。黒服の3人はテーブルと壁に挟まれて潰れた。


 テーブルをよけて隙を作った黒服2人には、カイソンの拳が飛ぶ。それぞれ一発で沈めるとは、さすが、俺の舎弟だ。




 5人の黒服を一瞬にして殲滅した俺たちに向かって、大統領の両脇にいる黒服2人が拳銃を抜いた。


 目にもとまらぬ速さで、カイソンが何かを投げた。それは片方の黒服の拳銃を握る手に命中した。黒服は痛みのあまり拳銃を手放す。それに面食らったもう一方の黒服には俺が飛び掛かり、側頭部に蹴りをくらわせてKOだ。




 床に転がっているのはピンセット。カイソン、初期装備をしっかり身に着けていたのか。俺なんか、虫取り網を蕾の家に置いてきちまったぜ。


 カイソンはピンセットを拾い上げ、短パンのポケットにしまった。




 俺は、ガタガタ震えている大統領に向かって言った。




「てめえは、赤鬼の要求に応じろ。藤花を無事に取り戻したいだろ」




「な……そ、そんなことして、結局藤花も返ってこなかったら……」




「俺たちは俺たちで、藤花を助けに行く。負けて終わるわけにはいかねえからよ」




 こうして、俺たちは大統領の屋敷をあとにした。


 さて、藤花を助けるために、敵のアジト――前大統領の別荘に向かうわけだが、蕾は連れていけねえな。危険な目に遭わせるわけにはいかねえし。




「蕾、お前は家で待ってろ」




 蕾は不安そうな表情で、




「でも……」




と、言った。




 俺は蕾の頭をなでまわした。




「心配すんな。絶対藤花を連れて帰ってくるからよ」




 蕾は、ムッとした顔をしたあと、言った。




「絶対……絶対だよ⁉」




「ああ」




「絶対、藤花を助けてね」




「任せとけって!」




 俺が胸を叩くと、蕾は頷いて、自分の家に向かって歩き出した。俺たちが向かう方向とは反対方向だ。




「……とはいえ、チョーさん、どうするんっすか?」




「どうするも何も、正面突破だよ」




「ですよねー。チョーさんは、そうっすよね」




 カイソンは軽く笑った。




「なんだよ。俺がまた負けると思ってんのか?」




「いいえ。だって、次は俺もいますし」




「なんだよ、そりゃ」




 まあ、心強いけどよ。




「でも、向こうにもやっぱり赤鬼がいるわ」




 ポワロンが口を挟んできた。




「ヘリからキバネセセリを攻撃したのは、きっと赤鬼だわ。赤鬼は攻撃対象を燃やすことができる。それに……」




「それに?」




「関根も、足技だけじゃないと思う。黄羽の首を飛ばした技……あれは、蹴りの風圧で攻撃対象を切り裂く技。風刃切ふうじんぎりよ」




「風刃切り?」




「そう。高レベルのセナキバネセセリの能力よ。ただし、戦闘中に使える回数は限られているはず」




「俺と戦ったとき、関根は風刃切りを仕掛けてこなかった」




「ということは、一回使うと、回復するまで使えないのかも」




 次に会う時には、絶対回復してやがる。すると、関根の全力は、屋上で戦ったときよりもっとヤバいってことか。


 俺の考えていることを察してか、カイソんが俺の肩を叩いた。




「屋上ではチョーさん、モコの力使ってなかったっすからね。次は、モコがいますから」




「そうだな」




 モコが触手をうねうねさせている。どうやらやる気のようだ。




「次は、絶対負けねえ」




 関根に買って、赤鬼も倒して、絶対に藤花を助ける。


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