第16挑☆努力の男・関根 勉強よりバトルで成り上がる!前
俺の名前は
俺はもともと、弁護士になろうと司法試験の勉強に励んでいた。
自慢ではないが、偏差値68の高校でトップクラスの成績を修め、偏差値70の大学に入った。
中学、高校、大学と勉強に明け暮れる日々だった。取得する成績のために、まわりからは「頭の良い人間」と見られていた。
だが、実際はそうではない。
本当に「頭の良い人間」は、一度見聞きしたら覚える。覚えた方法を使い、応用問題もすらすらと解く。教師が説明していない細かい部分まで記憶している。
俺には、そんな能力はない。この脳みそが覚えるまで、脳みそで覚えられないならこの手が覚えるまで、何度も読み、書き、解く。身体中にしみ込ませるまで、ただひたすら努力する。
「頭の良い人間」が1時間で終わることを、俺は10時間かけてこなすこともある。「頭の良い人間」からしたら、俺は頭が悪いし、効率も悪い。
だが、できるようになれば、得られる結果は同じだ。「頭の良い人間」と同じ土俵に立てる。努力してできるようになれば良いのだ。努力すれば、ときに「頭の良い人間」に勝つことだってできる。
俺は「頭の良い人間」に勝ちたかった。そのために、青春を犠牲にして、友達もろくに作らず、勉強に励んできたのだ。
それが、まさか、一番重要な司法試験でつまずくなんて。
大学生活でサークルや部活に励んでいた者、遊び惚けていた者たちが、なぜか次々と合格していく。
一浪して合格。二浪して合格。そうでなかった者は司法試験をあきらめ、有名企業に就職していく。
28歳にもなって、俺は無職のまま、司法試験にも合格できないまま。
努力しても、報われない。才能がない。センスがない。俺にはもともと何か欠陥があって、どう頑張ったってできるようにならないのではないか。
問題文が頭に入ってこない。正しい文章なのか、誤りなのか。誤っているとしたらどこがどのように誤っているんだ。
以前は解けたはずの問題でさえ、わからなくなっていく。自信を失うほどに、問題が読めなくなっていく。
苦しい。
だが、誰にも相談できない。
親はもう、俺をただの引きこもりと思っている。すでに成功者としての階段を上っている同級生には、どうせ見下されている。
誰にも俺のことなどわかるものか。司法試験に合格さえすれば、すべて解決するのに。合格できる気がしない。でも、今、勉強をやめて、俺に何が残る? 今から就職活動をしたとして、どんな良い企業に行けるっていうんだ?
人生、詰みだ。
今の俺にできることといったら、ネットのニュースに意見を投稿するだけ。
頭のおかしい政治家、芸能人、その他もろもろ。馬鹿ばっかりだ。馬鹿ばっかりのくせに。こいつらが成功者で、金を持っていて、弱者を見下しているなんて。
こんなクソな世の中、やってられるか。
そんなある日、紅紋べにもんあげはという学者から手紙が届いた。聞いたこともない大学の教授をしているらしいが、自分の研究を手伝わないかという打診だった。
研究内容は、幻の蝶について。詳しいことは直接会って説明したいと、説明会の日時と会場の場所の案内図が手紙に書いてあった。
何のいたずらだ。しかし、今のご時世で俺の住所を調べてこんな手紙を送ってくるなんて……どういうことだ。
疑問に思ったが、研究を手伝えば1年間で1億出すと書いてあった。
法外な報酬だ。1年間で1億。この研究を手伝いさえすれば、すでに勝ち組の人間たちに、俺は勝つことができるんじゃないか。
怪しい誘いだと思った。こんなうまい話があるわけがないとも思った。しかし、手紙に書かれていた研究所の住所を調べてみると、たしかにそこに建物がある。
行くだけ行ってみるか。
こうして紅紋あげはの研究所に行ったその日に、俺はファイナルレジェンドバタフライファンタジーⅩの世界に飛ばされた。
初期装備は、昆虫図鑑。
襲い掛かってくる悪徳プレイヤーに、昆虫図鑑の角をぶつけて撃退しようとしたが、反対にボコボコにされた。ゲームオリジナルのプレイヤーや、ムラサキ陣営のプレイヤーに遭遇するたび、倒された。
だが、なぜか、命だけは助かってきた。ギリギリのところで逃げたり、見逃されたりしてきた。
そうこうしているうちに、出会ったのが、赤鬼だ。
赤鬼は、ひ弱だった俺を鍛えてくれた。
俺は知らなかった。身体を鍛えれば、強くなれるということを。もともとひ弱だから、頑張っても無駄なんじゃないかと思っていたが、違った。
鍛えれば鍛えるほど、身体は応えてくれる。最初は枝1本を蹴折るのに苦戦していたが、鍛錬を積むことで大木1本なぎ倒せるようになった。
「いいか、関根。私たちがゲームをクリアするためには最上級レジェンドバタフライを見つけなければならない。最上級レジェンドバタフライの情報は、金を持っている権力者ほど知っている可能性がある」
赤鬼は俺に言って聞かせた。
「私たちはそうした権力者を狙う。民に酷政を強いている者については、情報を吐かせた後、始末する。ゲーム世界の中とはいえ、そうした下種は許せないのだ」
「はい」
俺は赤鬼の言っていることに共感を覚えた。
人を見下す「勝ち組」など、この世に必要ない。ゲーム世界の中であっても、だ。
俺は、この世界で権力者に勝つ。強いと言われる奴らに勝ち、俺が真の強者となる。
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