第15挑☆大統領の屋敷で大暴れ⁉ 誘拐犯の要求 前

 俺の名前は大一文字挑。ヘーアンの国の大統領の娘、藤花を助けるために関根という男と戦い……負けた。倒れたわけじゃねえが、藤花をさらわれてしまったということは、俺の負けを意味する。


 藤花をさらった奴について説明するために、俺とカイソン、ポワロン、モコ、そして藤花の友達である蕾は、今、大統領の屋敷に来ている。


 大統領の屋敷に到着したとき、俺たちを出迎えた黒服の一人が、俺に向かって液体をぶっかけてきやがった。




「何すんだよ!」




 怒鳴ったのはカイソンだ。俺は、藤花を助けられなかったから水をかけられたんだと思った。


 でも、違ったんだ。


 その液体が降りかかると同時、身体の痛みが消えたんだ。関根の蹴りを受けすぎて、痛みで重たくなっていた脚も、嘘みたいに軽くなった。




「やめろ、カイソン。これって……」




 黒服は面倒くさそうな表情を浮かべながら、液体の入っていた小瓶を見せて来た。




「回復薬だ。感謝しろ。ちっ、これだから何も知らない初心者は」




 やっぱり。


 カイソンは黒服の態度にいらだっていたが、俺は「ありがとよ」と答えた。




 大統領の屋敷は、外観は瓦屋根の和風の城みたいだが、中は床にじゅうたんが敷いてあって、壁にはよくわかんねえけど高そうな絵が飾られていたりして、高級ホテルのイメージと似ている。ふつうに客室が並んでいるフロアより、宴会場のあるフロアみたいな感じだ。


 俺たちは、会議室の札がかけられている部屋に通された。部屋の中央に長い楕円形のテーブルがあり、入り口から一番遠い、奥の席に大統領は座った。大統領に伴っていた黒服たちは、壁際に横一列になって立っている。




 黒服の中の一人が、胸元から携帯電話を取り出し、電話口に出た。そのとたん、顔色が真っ青になり、慌てたように大統領に耳打ちをする。大統領は、




「今すぐモニターを出せ!」




と、怒鳴った。




 黒服が並んでいる壁とは反対の壁に、巨大なスクリーンが降りて来た。そこに映し出されたのは、ロープで椅子に縛り付けられている藤花の姿だった。




「藤花!」




 蕾の悲鳴にも似た声が響く。


 どうも、藤花はどっかの建物の中にいる。古びたソファやテーブル、それにずっと使われていなさそうな暖炉が見える。今はボロボロだが、かつては金持ちが住んでいたような雰囲気だ。


 ふいに、画面に、俺が戦った関根と、もう一人。燃え盛るような赤く長い髪に、黒い道着を身に着けた男が現れた。




 その、赤い髪の男が口を開いた。




「私は赤鬼。大統領よ、こちらの声は聞こえているか」




 大統領は顔を赤くして叫んだ。




「聞こえているわ! 貴様、藤花をさらってどういうつもりだ」




「簡単な取引をしよう」




「取引だと?」




「ヘーアンの国の国民ひとりにつき100万ゴールドを配布してもらいたい。正確には、返せ、というべきか」




「は……」




「そして、米の売り上げの90パーセントを国民に渡すこと。大統領たち国側の取り分を10パーセントとすること。この法改正を全世界に向けて発表したら、藤花を返そう」




「ふざけるな! そんなことをしたら、国家の運営が……」




「何を言う。国民のほとんどは携帯電話も持たず、テレビもなく、ギリギリの食料で日々の生活を耐えしのぎながら働いているではないか。それに比べ、お前は、こうやって映像通話に応じ、高級な衣服に身を包み、広い部屋で大きな椅子に悠々と座っている。真に正しき為政者は、己を質素にするとも国民を豊かにするために励むべきではないのか」




「黙れ! 誘拐犯の分際で私に説教をするな! だいたい、貴様に政治の何がわかる。政治にどれほどの金が必要だと思っているんだ」




「私は無謀な要求をしているつもりはない。お前には、私が要求したことを実行できるだけの財産があるはずだ」




「そんな財産があっても、愚民どもに出すものか!」




「これは取引だ。応じないというのなら、藤花を殺すまで」




「そ、そんなことをしたら、貴様らにも命はないぞ⁉」




「明日の夜までに、国民ひとりひとりに100万ゴールドを返し、米の売り上げの90パーセントを国民の取り分とする法律を定め、世界に向けて発表しろ。いいな」




「おいっ……」




 大統領の返事を聞く前に、映像は切れた。


 大統領は額に青筋を浮き上がらせ、今にも噴火しそうな火山みたいな顔をしながら、俺たちに声をかけてきた。




「おい、貴様ら、この犯人たちについて知っていることを話せ」




 俺とカイソンは、ちらっとポワロンを見た。ポワロンはうなずくと、俺たちの前に、ふわりと飛んで出た。




「今、話していたのは赤鬼。アカオニシジミってバタフライをペットにしている、相当腕の立つプレイヤーよ。炎を操り、剣術に優れているわ。もう一人、髪が緑色の男は関根。セナキバネセセリをペットにしていて、足技に優れているわ」




 ポワロンは、カイソンの持っている、黄羽のバタフライの脚に近づいた。


 カイソンが、黄羽のバタフライの脚を大統領に見せるように、前に出した。




「この、キバネセセリの脚が示す方向に、犯人たちのアジトがある」




 黄羽のバタフライの脚がむずむず動き、光線を出す。その方向を見た黒服のひとりが、




「この方向には、前大統領の別荘があります」




と、言った。


 大統領ははっとしたように、




「たしかに、さっきの映像に映った部屋には見覚えがある。そうか、前大統領の別荘か。私も行ったことがある」




と、うなずいた。




「敵の居場所はわかった! 今すぐ手練れのプレイヤーたちを呼べ。すぐに藤花救出に向かわせろっ」




 黒服たちが「はい」と言って、動き出そうとしたときだった。


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