第14挑☆屋上の激闘! 挑VS関根
俺の名前は大一文字挑。蕾といっしょにヘーアンフェスティバルに参加している、ムラサキ陣営の初心者プレイヤーだ。
突然、大統領の娘の藤花をさらった奴を追いかけて、学校の屋上に出た。男は、藤花を脇に抱えて、仁王立ちしている。
「馬鹿だな、屋上に出たら行き止まりだ」
俺が声をかけると、藤花をさらった緑髪の男は鼻で笑いやがった。
「何を言っているんだ。逃走経路を確保しないで屋上まで出ると思うか」
はっとして、俺は空を見上げた。迷彩柄のヘリコプターが一台飛んでいる。あのヘリ、こっちに向かってきているじゃねえか!
「んなもん、行かせるかよっ」
俺は緑髪の男に向かって、弾けるように飛び掛かった。まっすぐだ。フェイントなんか使わねえ。相手は藤花を脇に抱えている。俺のスピードについてこれるわけがね……。
「え……!?」
俺の右ストレートがかわされた!?
男は半歩左に避けただけだ。だが、カウンターを仕掛けてくるわけじゃねえ。俺はひるまず、連打を放った。
しかし、当たらねえ! 藤花を抱えている分、ハンデがあるはずなのに、紙一重ですべてかわしやがる!
「ふん」
ふいに、男の左足が飛んできた。俺の右太ももに衝撃が走る。耐えられねえもんではないが、なんて重てぇローキックだ。
それが一発じゃねえ。左足で連撃をしかけてきやがった。上段、下段、中断と、高さを変えて蹴りを放ってくる。俺は腰を落とし、上段・中段の蹴りは腕でガードする。下段は、俺の太ももの強さを舐めんなよ! 簡単には折れねえ。
だが、蹴りで俺を圧倒してくるとは。渡り廊下に飛び上がったことといい、脚力が半端じゃねえな。
でもな、何発かくらっているうちに慣れて来たぜ。
俺は蹴りが顔面に向かってきたのを寸でのところでかわし、男の足首を掴んだ。
「捕まえたぜ」
男が怯んだところで懐に入り込み、みぞおちに拳を突き出した。
「ぐっ」
男の身体が後方に飛ぶ。だが、倒れねえ。
「やるじゃねえか」
俺がにやりと笑うと、男が声をかけてきた。
「俺は関根。お前の名前は?」
「俺は
「挑、か。お前、バタフライの幼虫といっしょにいたな。……ムラサキ陣営のプレイヤーか?」
「そうだ」
「そうか。ならば……潰す」
突然、関根の頭上に緑色の太い身体のバタフライが現れた。茶色い羽根に、オレンジ色の脚が特徴的なバタフライだ。その脚が光ると同時に、関根の両脚も光った。
次の瞬間、俺はみぞおちに強烈な衝撃を感じた。関根の蹴りだとわかると同時、蹴りを受けた部分から全身に衝撃が広がる。内臓の位置がぐちゃぐちゃになるような感覚。身体が後方に吹き飛ぶ。なんとか踏ん張り、倒れないでみせる。
だが、これはきついぜ……。肋骨が何本かいったか。
俺は床に血を吹いた。
そのとき、学校中のスピーカーからカイソンの声が響いた。
「緊急事態だ。藤花ちゃんがさらわれた。警察でも自衛隊でもなんでもいいから、助けに来い。犯人は校舎の中だ!」
よし、これでここに人が集まってくるのも時間の問題だ。こいつを倒すのは面倒くさそうだが、ヘリに乗せないように足止めするくらいはできるか。
「なあ関根、いつまで藤花を抱えている気だ。それじゃあ戦いにくいだろ」
「余裕だ」
関根はちらっとヘリを見た。
「よそ見すんなよ!」
俺は地面を蹴った。
「時間がない。次で仕留める」
くそっ、ダメージの残る身体で攻撃をしかけてもダメだ。俺の拳は当たらねえ。じゃあ、蹴りを放ってみるか。しかしそれも片腕で防がれる。
結局、関根の蹴りの連撃を受けるばかりだ。強ぇ。こんな強い奴、会ったことがねえ。
「終わりだ」
関根の脚が再び光る。来るとわかっているのに避けられねえ。
さっきくらったところと同じところに、鋭い前蹴りをもらった。その衝撃は、さっき以上。身体が後方に飛んでいく。俺はなんとか受け身を取ったが、地面に転がった分、余分なダメージを受けた。
なんとか立ち上がったが、脚が震えてやがる。こんなこと、今まであったか。
「うぐっ」
身体の奥からせり上がってくる血を堪えきれず、地面に吐き出す。やべえ。この関根って奴、マジで強ぇ。
「チョーさん!」
……おお、カイソン。モコ、ポワロン、蕾……みんな来たのか。
カイソンが焦った顔をして俺に駆け寄ってくる。
「チョーさん、大丈夫っすかっ」
「……ああ」
カイソンが俺の身体を支えようとする。だが、まだ、それはいらねえ。まだ、関根と戦っている最中だ。
俺が関根を睨みつけると、関根は感心したように言った。
「俺の蹴りをまともにくらって倒れないとはな。初心者プレイヤーのようだが、たいした男だ」
バラバラとヘリのプロペラ音が大きくなる。ヘリが屋上に接近してやがる!
「今日の目的は藤花だ。……挑、決着は今度だ」
「待てっ」
関根がヘリに向かって跳び上がる! 藤花を抱えたままなのに、あんなに高く跳ぶなんて、人間離れしてやがる。
次の瞬間、関根を迎え入れたヘリに向かって、一体のバタフライが飛んで行った。あれは、黄羽が連れていたバタフライだ。そのバタフライが俺たちの頭上を通過するとき、なんとバタフライの脚が一本取れて落ちてきた。カイソンはその脚をキャッチした。
黄羽のバタフライが、ヘリに飛びつこうとする。
そのとき、突然、黄羽のバタフライの身体が炎上した。
「何!?」
黄羽のバタフライは空中で燃え、ヘリの機体に鱗粉を振りまきながら、力なく落下していく。身体は地面に着く前に燃え尽きて灰となった。
「そんな……」
蕾の呆然とした声が聞こえた。
くそっ、俺のせいだ。俺が、関根に勝てなかったから。藤花を助けられなかった。
「いいや、まだっす」
カイソンは、俺にバタフライの脚を見せてきた。
ふいに、バタフライの脚がむずむず動いて、黄色い光線を放った。その光線は、ヘリが飛んで行った方向を向いている。
「このキバネセセリの能力は、自分の鱗粉をつけた相手を追跡する能力です。黄羽のキバネセセリはレベル50で、それなりに追跡力高めみたいっすよ」
カイソンが説明してくれた。
「よし。じゃあ、さっそく関根を追いかけるぞ」
「チョーさん、手当てが先っす。それに、俺たちだけで関根を追うのは無理っすよ」
「じゃあ、どうすんだよ」
「国家権力に頼りましょう」
「国家権力?」
ふいに、屋上に黒服の奴らがばらばらと現れた。
「藤花様~!」
少し遅れて、太った偉そうな奴が出て来た。
「藤花!」
なんだ、こいつら。もうここにはいない藤花の名前を呼んでいる連中を見て、首をかしげていると、カイソンが教えてくれた。
「あの太ってるのが大統領で、その他は大統領のボディガードみたいっす」
「えっ、あれが大統領!? てか、藤花の親父!? 遺伝子崩壊してんなっ」
その、大統領って奴が俺を見つけると、顔を真っ赤にして近づいてきた。
「おい貴様、藤花はどこだ!」
「どこって……」
俺がうつむくと、大統領が怒鳴ってきやがった。
「まさか、藤花ごと、犯人を逃がしたのか! この役立たずがっ。弱すぎて話にならないのか。牛糞以下のカスプレイヤーがっ!」
「なっ、この……っ」
カイソンが大統領に飛び掛かりそうになった。俺は、カイソンの右腕を掴んで止めた。
大統領は鼻息荒く話し続けた。
「貴様たち、犯人についてわかっていることは洗いざらい話してもらう。一刻も早く、藤花を助けなければ」
大統領は頭を押さえている。二名の黒服たちが、大統領の両脇に立って、大統領の心配をしている。
ほかの黒服の中から、一人、俺たちに近づいてきて言った。
「貴様たち、ついてこい」
トップが偉そうなら、部下も部下だな。人を舐めた態度を取りやがる。
カイソンがブチ切れそうになっているが、俺はカイソンの腕を掴んだままだ。
ここは、切れられねえ。だって、俺が藤花を助けられなかったから。
今、大事なのは藤花を助けることだ。あの関根って奴から助けるには、今の俺一人じゃ厳しいもんがある。
とにかく、体勢を立て直さねえと。
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