第9挑☆モコ禁止!? 米の国ヘーアン 後

 おっさんと蕾が農作業に戻るのを見送ったあと、俺たちはヘーアン観光ホテルに向かった。ここに、シロと稲妻がいるのか?

 ホテルの中に入ると、受付に初老の男性が立っていた。俺は、


「なあ、ここにシロと稲妻ってやつ、泊まってねえか?」


と、ストレートに訊いた。初老の男性は、しゃがれた声で、


「お泊りになっているお客様の情報はお答えできません」


と言いやがった。ちっ、そういうところはしっかりしてんのか。


「どうする?」


 俺がカイソンに訊くと、カイソンが、


「ホテルに泊まって館内を見て回りますか?」


と言ったので、俺は初老の男性に向き直った。


「ここ、一泊いくらだ」


「おひとり様10万ゴールドです」


「高!! 宿泊料って150ゴールドじゃねえの!?」


「プレイヤーさま料金は世界一律150ゴールドですが、我がホテルは大統領が運営しておりまして、プレイヤーさま料金を採用していないホテルでして……」


「そんなんアリかよ!? てか、ここの大統領はとんだ金の亡者だな。どんだけぼったくる気だよ」


「俺たち、今の全財産5000ゴールドっすからね。一人も泊まれないっすね」


「まーた稼ぎにバトルしに行かねえとなんねえの? その間にシロたちいなくなるんじゃねえの!? こうなったら」


 俺は受付より奥にあるエレベーターを見据えた。


「強行突破だ!」


 俺はエレベーターに向かってダッシュした。エレベーターのボタンを見ると14階まである。あいつら、スイートに泊まってたりしないよな。まあ、とりあえず上から確認するか……。

 次の瞬間、天井から赤いレーザービームが降って来た。俺は感覚だけでエレベーターの前から飛びのいた。


「うおっ!?」


 レーザービームが当たった床が焦げている。思わず天井を見ると、黒いレーザー発振器が各所についていやがる。

 受付の初老の男性が「ふぉっふぉ」と笑った。


「不法侵入は許しておりません。まもなく、警備の者が来ます」


 突然、警報音がけたたましく鳴りだした。


「うわわわ、チョーさん!」


「カイソン、ポワロン、モコ! 逃げっぞ!」


 俺たちは一斉にホテルから飛び出した。警報音はホテルの外にも鳴り響いていやがる。ここ一帯の奴らに知らせているみたいだ。

 警報音が聞こえなくなるまで走ったあと、四方が田んぼに囲まれた場所で俺たちは立ち止まった。


「はあ、チョーさん、どうするんすか。あのホテル行きにくくなったっすよ」


「そうだな。……じゃあ、大統領に聞いてみるのはどうだ」


「へっ!?」


「あのホテル、大統領のものなんだろ」


「そーっすけど、どっちにしろあのホテルのほうに戻らなきゃならないっすよ。今行くのはヤバいでしょ」


 カイソンがつっこんできたとき、


「ちょっと!」


と怒鳴り声がした。なんだ!?

 声がしたほうを見ると、蕾が立っていた。


「なんで戻って来てるのよ。早く出てってよ」


「なんだよ、そんなカリカリすんなよ。モコは悪さはしねえよ」


「どうだか」


「ほら、見てみろよ。うねうねして気持ち悪ぃけど、だんだん可愛く見えてくるぞ」


 蕾はちらっとモコを見た。モコはおずおずと触手を蕾に伸ばした。蕾は組んでいた両腕をほどいて、モコの触手に触れた。握手だ。蕾の表情がふわっとほころんだ。


「何この子。可愛い、優しい、頭いい!」


「だろ!」


 蕾に褒められて、モコも嬉しそうだ。目がないからよくわかんないけど、雰囲気的に。


「……あんたたち、プレイヤーなの?」


 蕾に訊ねられて、俺とカイソンはうなずいた。


「そうだ。今、シロと稲妻ってプレイヤーを追いかけているんだ。お前の親父さんが、ヘーアン観光ホテルに入っていくところを見たらしいんだが、あのホテル、めちゃくちゃ高くて泊まれねえよ」


「あはは、そりゃそうよ。大統領のホテルだからね。お金持ちしか泊まれないもん。あんたたち、見たところ初心者プレイヤーでしょ。そんなにお金持ってなさそうだし」


「うるせえ!」


「でも、この国の宿泊施設はヘーアン観光ホテルしかないからね。野宿も可哀そうだし、よかったら家に来る?」


「えっ、いいのか?」


「うん。たいしたおもてなしはできないけど」


 気が付いたら空はオレンジ色に変わっている。もう夕方だ。シロと稲妻を追いかけるにしても、ホテルに直撃は失敗したし。大統領に会うにも、ちょっとは作戦練ったほうがよさそうだし。


「カイソン、行くか」


「っす」


 俺たちは、蕾の家に邪魔することにした。



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