第7挑☆深夜のバトル! 銀色の輝き襲来 中
カイソンも驚いている。俺もびっくりだ。
闇夜に広がる四枚の羽根の裏側――ちょうど地面側に向けられたほうは銀色に輝いている。金色に輝く目、二本の黒い触覚。
バカでかいチョウチョだ。
「てか、モスラだ! 今度こそリアルモッスーラ!」
「シルバーバージョン!」
俺とカイソンが興奮していると、裏銀が「馬鹿か、あんたら」と鼻で笑った。
「こいつは俺のバタフライ。ウラギンクロボシルリシジミだ。あんたら、可哀そうだな。こいつの能力使っちゃったら、死ぬしかないもんな」
裏銀が醜く笑ってやがる。何言ってんだ、こいつ。てか、さらっと腰からピストルを抜きやがったぞ。ブルゾンの下に隠れていたのか。銀色に光るピストルが。
「アース、力を貸せ」
アースと呼ばれた銀色のバタフライが、羽根を羽ばたかせた。銀色の鱗粉が裏銀にふりかかる。鱗粉は、ピストルを持った裏銀の右手に集約されていく。裏銀の右手もピストルと同じ銀色に変わる。
来る!
俺は、裏銀がピストルを撃つタイミングを見計らって右に飛んだ。裏銀の構えを見れば、弾の軌道は読めるからな。
俺の後方にあった古い家のレンガの壁に、弾丸の当たる音がした。
「へっ、そんなヘボい腕じゃ当たんねーよ」
「ちょ、チョーさん……」
笑っている俺に対して、ドン引きしているカイソンの声。ん? なんだ?
俺はふと振り返って、ぎょっとした。ピストルの弾が当たったところが、コンクリートで固められたみたいに固まっているじゃねーか!
「あはははははは、アースの能力は、攻撃対象を石化する! 俺の腕がヘボだって? 数撃ちゃ当たるんだよ!」
刹那、連続で弾丸が飛んでくる! この弾、かすっただけでもその周辺まで石化させやがる。当たったら終わりだな。
今まで俺だけに向けられていた銃口は、カイソンにも向くようになった。
「うわあああ」
俺とカイソンは弾を避けながら、宿に向かって走り出した。
「ちょっと、あいつなんなんすか! ヤバすぎでしょ!」
「くっそ、ただの豆鉄砲だったら多少かすってでも突っ込んでいくのによっ」
「ふつうの銃でもなかなか突っ込んでいけないっすけどねっ」
あいつの銃の腕がヘタクソでよかった。こっちが動いてりゃ当たらねえ……けどっ、まわりの家がどんどん石化していくぞ!?
「あ!!」
裏銀の放った弾丸が、道行く酔っ払いに当たった。酔っ払いは「がっ」と声をあげたかと思うとみるみるうちに石化した。
俺は足を止めて、裏銀のほうに振り返った。
「てめえ! 村の人に何しやがる!」
「はあ? ここ、ゲームの世界だよ? いつ攻撃されたって当たり前、死ぬほうが悪いんだよ!」
裏銀は一切の情も見せず、石化した村人を蹴り、粉々に砕いた。村人はただの石っころになって、路上に散らばった。
……なんてことしやがんだ、こいつは。いくらゲームの世界だからってよ、こんな簡単に、何にもしていない人を殺しやがって。
「てめえ、許さねえ」
「はっ、許さないって!? あんたに何ができんの? さっさと石になっちゃえよ!」
裏銀がピストルを構えたとき、頭上から怒鳴り声がした。
「ちょっとーーーー! 何やってんの!」
見上げると、ピンク色のひらひらした衣装を着た小さな妖精。
「ポワロン!」
「モコ!」
カイソンのほうを見ると、大きな体を上下にくねらせながらモコがこっちに近づいてきていた。
「ちょっと、私たちがいないのに、何勝手にバトルしてんのよ! しかも、相手はレベル56の裏銀じゃない! モコもいない、武器もない状態で、あんたたち死にたいの!?」
ポワロンに怒鳴られて、俺はしどろもどろになりながら答えた。
「いや、だってよ、あいつがいきなりケンカ売ってくるから……」
「そういうときは、せめて私たちを呼びなさいよ! 呼ばれたらすぐに駆け付けるんだから!」
「そうなのか?」
「そうです! ゲームの設定上、そういうものなんです!」
「うおお、なんて都合の良い説明」
「おい、話は済んだか?」
おお、ポワロンに怒られたせいで忘れてた。裏銀の存在を。てか、俺たちが話している間、攻撃しないでくれたんだな。
「あんたら、ヒューイットソンキララシジミなんて持ってんのか」
「なんだよ、モコのことわかんのかよ」
「わかるも何も、そいつSRだよ? これはついてるわ。あんたら殺して、もらってくわ」
裏銀がピストルを構えたとき、モコが俺たちの前に出た。
「ちっ、邪魔だ! どけよ!」
裏銀に怒鳴られてもモコは動かない。
そうか、裏銀はモコをゲットしたいから、殺せないのか。モコの後ろにいる限り、俺たちは安全だ。だが、それじゃあ勝てねえ。
「チョー、モコの能力を使うのよ」
ポワロンに言われて、俺はすかさず「どうやって」と訊いた。
「モコに、力を貸してって頼めばいいのよ」
「なんだ、それだけか。おっしゃ、モコ! 俺に力を貸せ!」
俺の声を背中で聞いたモコは、背中に生やした触手を俺の両腕に巻き付けて来た。
「おいおいおいおい、力を貸せと言ったのに俺を拘束してどうすんだよっ!」
「何言ってんの、ちゃんと力を貸してくれてるわよっ」
モこの触手がほどけたとき、俺は自分の目を疑った。
「ちょっ、これって……」
Tシャツの半袖から出ている両腕が、紫色に変色してやがる! しかも、爪の先から紫色の液体が滴り落ちているんですけど!
「やっべえ、チョーさんがゾンビになった」
カイソンが気持ち悪そうな顔で言った。
「うるせえ! ちょっ、これ、どういうこった。どういう能力だ」
俺が両腕を上げたとき、紫色の液体がちょこっとカイソンのシャツの裾にかかった。ジュッと何かが焼けるような音。見ると、カイソンの服の裾に穴が開いている。
「うわ! チョーさん、危ない。やめてくださいよ!」
カイソンは焦っているが、ポワロンは強気な笑顔を見せた。
「ふふふ、モコの毒は強力よ。レベルの差はあるけれど、バタフライの能力で埋められる。チョー、モコの力を信じて」
「ふうん。わかったぜ。モコ、お前を信じるからなっ」
俺はモコの陰から飛び出し、裏銀に向かって走り出した。裏銀はにやりと笑い、
「やっと的が出て来たあ!」
ピストルの引き金を引いた。同時に、俺は弾道に合わせて左手の指を弾き、紫色の液体を飛ばした。ピストルの弾と液体がぶつかる。思った通り、弾丸は溶けて消えた。
裏銀から笑顔が消える。
「なんだと!?」
「もうお前の攻撃は効かねえよ!」
「うわあああああああっ」
裏銀が放つ弾丸のことごとくを、紫色の毒液で消す。いっきに距離を詰め、俺は裏銀のぴストルを持つ右腕めがけて、紫色に変色した手刀を落とした。
「ぐわああああっ」
毒液をまとった手刀は、触れたものを溶かしながら切る。ピストルごと、裏銀の右腕が地面に落ちた。切り口も毒に侵され、じゅうじゅうと音を立てながら溶けていく。裏銀は苦悶の表情を浮かべながら、一歩後ずさりをした。
「……くそっ、こんなところで死ぬわけにはいかない。今日のところは引いてやるよ。次に会ったら絶対に殺すからな。アース!」
裏銀を包むように、銀色の鱗粉が降りかかる。さっきとは違う、銀色の目くらましだ! 眩しくて見えねえ!
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