第7挑☆深夜のバトル! 銀色の輝き襲来 前
俺の名前は大一文字挑。舎弟のカイソンといっしょにゲームの世界に飛ばされて、ダサい初心者Tシャツを着る羽目になった元不良だ。
俺とカイソンは、ゲームの開始地点の森の中を進んで、クマノ村っていう小さな村にやってきた。ザ・過疎地って感じの村だ。村人も老人ばっかりで、あとは子持ちのおっさんおばさん。といっても、子どもも片手で数えるほどしか見てねえ。若い奴らは、みんなほかの都会に出て行っているんだと。この世界に都会なんてあるのかね。
俺とカイソンは村のすみっこに酒場を見つけた。なんでも歌姫のコンサートが開かれるらしいから、夜に見に行ってみることにした。
で、宿にポワロンとモコを置いて、酒場ハヤタマに行ったところ、なんと小さな子どもが一人でうろちょろしてやがった! 白いふわふわのショートヘアに、オーバーオールを着た小さい奴。
なんだか俺は心配になって声をかけたんだが、この子ども、なぜか逃げやがった。だから、子どもを追いかけて行ったら、森の中でバカでかいおっさんに会ったんだ。
稲妻っていう、目つきの鋭いおっさん。黒いマントを羽織っていて、腰の両側に一本ずつ日本刀を差していやがった。なんで日本刀なんかあるんだ。こっちは虫取り網だってのによ!
しかも、めちゃくちゃ高圧的な態度だったし……同じムラサキ陣営だかなんだか知らねえが、気に食わねえおっさんだったぜ。
まあ、あのシロって子どもに大人がついていたことには、ちょっと安心したけどな。
「……でも、あんなガキまでプレイヤーって、どうなってんだこの世界は」
森から宿に戻る道中で俺がつぶやくと、カイソンが返事をした。
「そうっすねえ。どうしてこの世界に来たんっすかね」
「あのバタフライ野郎、人さらいをしていやがったのか?」
「かもしんないっすね」
「カイソン、お前、冷静だな」
「この世界に飛んできた時点で狂ってるんで、もう何が起きても納得するしかないっすわ」
「お前はそうかもしんねえけど、あのシロってガキ、大丈夫かな」
「なんでそんなに心配なんすか?」
「だってあいつ、女の子だったし」
「え!? 少年じゃないんすか!?」
「いや、女の子だろ?」
「ええ??」
俺とカイソンが、シロの性別について議論していると、後ろから声をかけてくる人間がいた。
「おい、そこのバカっぽい二人組」
バカ? 俺たちのこと、バカって言ったか?
「ああ?」
俺とカイソンが眉間にしわを寄せて振り返ると、黒のブルゾンに銀色のズボンを身に着けた、チャラそうな若い男が立っていた。両耳はピアスだらけだし、黒のロン毛にインナーカラーでシルバー入れてるし。
「なんだ、てめえ」
俺が訊ねると、男はへらっと笑って言った。
「俺は
「盗みか、それは許せねえな。薬盛られた奴って、どんな奴だ?」
「顔にあざのある男だよ」
「顔にあざのある男……」
そんな奴、いたっけか。俺が思い出すより早く、カイソンが「あっ!」と言った。
「あいつじゃないっすか? あの、カウンターにいた奴。シロに声かけたときに後ろにいた……」
「シロ?」
裏銀の眉毛がぴくりと動いた。
「シロって、白髪のちっさいガキか?」
「なんだよてめえ、シロのこと知ってんのか」
「知ってるも何も……へえ、そっか。あいつらか、犯人は」
裏銀の目が鋭く光る。
「その、シロってガキ、どっちの方向に行ったかわかる?」
「それは……」
俺が答えようとしたとき、突然カイソンが俺の口を手で塞いできた。それから裏銀に背中を向けるように俺の身体を動かして、耳打ちしてきた。
「ちょっとチョーさん! シロの行先言っちゃっていいんすか!?」
「え、なんで」
「あいつ、シロが盗みを働いたって疑ってるっぽいですよ! それなのにシロの行先教えたら、あいつ、シロに何をする気か……」
そういうことか。それなら、裏銀に聞かなきゃな。
「裏銀、シロの行先を聞いてどうするつもりだ?」
「どうするつもりって、そんなの殺すに決まっているっしょ」
裏銀がにやりと笑った。嫌な鳥肌が立ちそうな、悪魔的な笑みだ。殺すって、冗談じゃなさそうだな。
「シロは子どもだ。もしシロが犯人だとしても、殺すこたあねえだろ」
「なあに甘っちょろいこと言ってんの。あのガキはプレイヤーだよ? それも、ムラサキ陣営の……。てか、もしかして、あんたらもムラサキ陣営?」
「えっ、いや……」
カイソンは首を横に振りかけていたが、俺はうなずいた。
「そうだ。ムラサキ陣営の、チョーとカイソンだ」
カイソンが、「ああ……」とため息を漏らしたけど、どうしてだ。なんか嘘をついたり隠したりする必要があるのか?
裏銀はにやにや笑いながら、
「そっかあ、あんたらムラサキ陣営の初心者か。ちょうどいいや、地図取り返す前にあんたらぶっ殺しておこっと」
言い終えるや否や、裏銀が低くかがんだ。次の瞬間、弾けるように俺のほうに突進してきやがった!
男の右の拳が俺の顔面に向けて放たれる。
「ちいっ」
それを回避しながら、俺は理解した。こいつは敵だ。
「カイソン、こいつ、もしかして」
「そうだよ、アゲハ陣営の裏銀だ!」
カイソンではなく裏銀が答えながら、左の拳を出してくる。しかし、殴り合いの勝負を俺に持ち掛けるたあ、このチャラ男、たいしたことねえな。
俺は何度か裏銀の拳を避けたあと、裏銀のにやついている顔面に向けて右ストレートをお見舞いした。鼻が折れる音。裏銀の顔の真ん中が赤く染まった。
「うお……」
裏銀は動揺している。
「なんだあ、ぶっ殺すって言ったわりにたいしたことねえなあ。殴り合いはこっからだろ、来いよ」
俺が右手を差し出して「来い来い」と手前に振ると、裏銀は血まみれの顔で笑った。
「おもしれえ!」
再び裏銀が連打を仕掛けてくる。だが、俺には当たらねえ。こいつのスピードじゃ、俺の動体視力は超えられねえ。攻撃をかわしながら、顔やボディにカウンターを決めていく。気が付けば、裏銀のほうがボコボコになっている。
「ふわ~あ、ムラサキ陣営って言っちゃってよかったのかなって心配したけど、無駄だったみたいっすねえ」
カイソンはのんきにあくびをしながら、俺と裏銀のケンカを眺めていやがる。カイソンも眠たそうだし、そろそろ沈めっかな。
そう思ったとき、突然、裏銀が後方に飛び、俺と距離を取った。
「くくっ、初心者相手にバタフライを使うのはダセえと思ってたが、負けるのはもっとダセえよな」
ふいに、裏銀が黒く陰った。なんだ!? 裏銀の上に何か……。
「チョーさん、あれは!?」
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