第5挑☆流行りに遅れて異世界へGO!?後
「俺たち、今、どういう状態なんすかね」
「どういう状態って?」
「俺、今、ゲームしている感覚っていうより、この世界の中にいるって感じなんっすよね。ポワロン、さっき言ったよね。クリアーするまで、この世界からは出られないって」
「そうね」
「つまり、俺たちはゲーム世界に閉じ込められているってことっすよ」
カイソンは、何をそんなに深刻そうにしているんだ?
「そうみてえだけど、クリアーすれば戻れるんだろ」
「10年間、誰もクリアーしていないんすよ?」
「ほかの奴らがダメすぎるだけじゃねえの」
「でも、すぐ帰れそうじゃない感じじゃないっすか」
「ちょうどバイトクビだったし、こっちの世界にいても大丈夫じゃね? あ、あれか、家賃滞納とか気になるのか?」
「そうじゃなくて! もう、チョーさんはお気楽なんだから! ポワロン、もし俺たちがバトルで死んだりしたらどうなるんだ?」
「現実世界でも死ぬわね」
「ほらやっぱり! いやな予感がしたんすよ!」
カイソンが顔を青くして頭を抱えている。だから、何をそんなに怖がっているんだ?
「そんなの、負けなきゃいいだけだろ」
「チョーさん、現実世界ではケンカ負けなしでも、この世界じゃわかんないじゃないっすか! 負けて死ぬパターンじゃなくてもですよ。もしこのままこの世界でずっとクリアーできなくて、元の世界に戻れなかったら……」
「そんときはそんときだよ」
「えっ」
カイソンはじっと俺を見た。
「俺はさ、ケンカするときはいつだって、生き死になんて考えてねえ。いつだって本気で勝つことしか考えてねえからな」
「チョーさん……」
「とにかく、この世界に来ちまったもんは仕方がねえ。やるしかねえだろ」
俺がカイソンの頭をポンッと叩くと、カイソンはようやく落ち着いた様子で、「そうっすね」と返事をした。
「覚悟が決まったところで、あなたたち」
ポワロンが俺とカイソンに向かって言った。
「この子の名前、つけてあげてよ」
この子、とは。超巨大イモムシ、すなわち俺たちのペットバタフライ。
「名前~~~~?」
「モッスーラ」
「イモムシコ」
「ゲジゲジ」
「ウ〇コ」
「ぶっは、チョーさん、それ直球すぎ! それはさすがに可哀そうっすよ!」
俺とカイソンがゲラゲラ笑っていると、ポワロンとイモムシから何やら怒りのオーラが漂ってきた。
「ちょっと! これからずっと一緒に旅する大切なペットなんだから! いい名前つけてあげてよ!」
「えー、……じゃあ、イモコ」
「やっぱテキトーじゃないっすか!」
カイソンはまだ笑っている。イモコはちょっと真面目に考えたんだが。
「んー、じゃあ、イモコを縮めて、モコは?」
「モコ! いきなり可愛くなりましたね」
カイソンは「いいんじゃないっすか」と続けた。さっきまで不満そうだったポワロンとイモムシだが、「モコ」という名前には納得したようで、
「いいんじゃない。モコ」
と、うなずいた。
「じゃあ、これから一緒に旅するんだから、モコのことなでてあげて」
「え!!」
俺とカイソンは一歩ずつ後ずさった。
「なんでなでなきゃならねーんだよ!」
「ペットなんだから! 可愛がってあげてよ!」
ええーーーー! 俺、目がない生き物って苦手なんだよ。どっかにあるのかもしれねえけど、ぱっと見わかんねえし。あと、うねうねしている奴は気持ち悪い。軟体生物、無理。
俺はカイソンの背中を押した。
「カイソン、行け」
「ええ!? チョーさん、先に行ってくださいよ」
「いや、お前が行け」
俺は思い切りカイソンを突き飛ばした。
「えええーーーー!」
カイソンは勢いよくモコに飛びついた。なでるってもんじゃねえ、ハグだ。モコは触手を2本動かして、カイソンの身体を抱きしめ返した。
「うおおおおおおおお」
カイソンの顔が真っ青になった。うわー、はた目から見てもわかるわ、両腕両足、全身に寒イボ立ってるわ。
ふらふらしながら戻って来たカイソンは、恨めしそうに俺を見た。
「あははははは、どうだったんだ、イモムシの抱き心地は!」
「チョーさん」
「ん?」
「足元に諭吉!!」
「えっ!? どこ!」
万券どこだ!? 俺が前かがみになると、カイソンが俺のつま先に足をひっかけてきやがった!
「うおっ」
俺が態勢を崩すと、背中を突き飛ばしてきやがった! くそっ、不可抗力だ! 俺は踏ん張り切れず、モコにがばりと抱きついてしまった!
うおおおおおおお、なんだ、なんかあったけえ! ぬめぬめしているのかと思ったら、意外と固い……思っていた感触と違って、脳内バグるわ。
モコが俺を抱きしめ返してきた。
なんだよこいつ、キモイくせに、なんか可愛いぞ。
俺はゆっくりと身体を話して、モコの顔を見た。
やっぱり、目がない。
「無理――――! やっぱキモイもんはキモイ!」
俺がモコから飛んで離れると、モコが触手を鞭のようにして俺の背中を叩きやがった。
バシィ!
「痛ぇ!!」
なんだよ、こいつ結構力強ぇぞ!
「さて、モコの名前も決まったことだし、冒険開始しましょうか」
「お……おう……」
俺は背中をさすりながらうなずいた。
「とりあえず腹減って来たんだけど、食いもんないのか?」
「何か食べたいなら、近くの村に行きましょうか」
「こういうのって、お金とかってどうなってるんすかね」
カイソンが訊ねると、ポワロンが答えた。
「初期費用として150ゴールドあるわ。だいたい、あんぱん1個が100ゴールドね」
「って、あんぱん2個も買えねえじゃねえか! 金を稼ぐにはどうしたらいいんだ」
「とりあえず、あそこ」
ポワロンは、地面に転がったままのおっさん2人を指さした。
「あいつらから奪ればいいわよ」
……おお、たしかに。ゲームって、バトルに勝てばたいてい金がもらえるよな。いや、そうだけどさ。
俺とカイソンはおっさん2人の衣服のポケットや、ウエストポーチを漁って500ゴールド手に入れた。
「……なんか、すげー悪いことしている気分なんだが」
「チョーさん、これはゲームっす。あとは慣れっすよ」
心なしかカイソンの顔が悪く見える。
「2人とも、宿代は1泊150ゴールドだから、今夜は屋根のあるところで眠れそうね」
「金銭感覚おかしいー! なんであんぱん1個が100ゴールドで、宿代が150ゴールドなんだー!」
カイソンのつっこみは、無視だ。
「よし、とにかく近くの村に行くか! ポワロン、ナビよろしくな」
「ええ、この辺りのナビは任せて」
こうして、俺たちの冒険の旅が始まった。まだよくわかんねえけど、進むしかねえよな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます