第5挑☆流行りに遅れて異世界へGO!?中

「なんだ!?」


 草むらから現れたのは、カウボーイかぶれの汚いおっさんの2人組。


「おうおうおうおう、ヒューイットソンキララシジミの幼虫がいるたあ、こりゃあラッキーだぜ」


「こいつを捕まえて売ったら大金になるな」


 顔周りにもしゃもしゃしたひげを蓄えたおっさんが、鞭を手にしてにやにや笑っている。もう一人のスキンヘッドのおっさんは、ダガーナイフを手にしている。


「お前ら、この幼虫の飼い主か」


「えっ、違いま……」


「そうよ!」


 否定しようとした俺の声を遮って、ポワロンが返事をした。ポワロンは、俺とカイソンに向かって言った。


「こいつら、悪徳バタフライハンターよ。やっつけて!」


「ええ?」


「あいつら武器持ってるけど、俺たちは素手?」


 カイソンが訊くと、ポワロンは「大丈夫よ」と言った。


「あなたたちにも初期装備があるわ。今、出してあげる」


 ポワロンがつまようじサイズの杖をふるうと、俺たちの手の中に光が集まって来た。


「おお、なんだなんだ?」


「ファンタジー世界っぽいし、剣とか槍とか弓とか?」


 俺たちがわくわくしていると、手で何かを掴む感触を得た。


「これは……!」


 光の輝きが消えると、俺たちの手の中に武器が……!


「って、これ、虫取り網!」


 俺の手の中には、黄緑色の柄の先に白い網がついた、どう見ても小学生が野山で振り回している感じの虫取り網が握られていた。

 一方のカイソンは……。


「これ……」


 銀色に光るピンセット。


「ふざけてんのかあ!」


 俺が虫取り網を地面に叩きつけると同時に、おっさん2人が俺たちに向かってとびかかって来た。


「はっはあ、初心者プレイヤーはカモでしかねえ!」


「安心しな、すぐにヘブンに送ってやるよ!」


 俺はおっさんどもを睨みつけた。


「なめんなよ」


 俺は、ヒゲ面の鞭を持っている手首を左手で取り、右手で手刀を落とした。


「ぎゃっ!?」


 ヒゲ面はあっさり鞭を手放しやがった。開けっ広げの腹に右肘を打ち込み、相手が前かがみになったところで顔面パンチをお見舞いする。

 あっさり失神したヒゲ面を見て、スキンヘッドのほうは目をパチパチさせている。


「へ……え……?」


「なんだ、楽勝じゃないっすか」


 カイソンはダガーナイフに一切ビビることなく、スキンヘッドに正面から突進していく。


「うわああ」


 スキンヘッドがダガーナイフを振り上げると、カイソンは素早くピンセットをスキンヘッドの左目に突き刺した。


「ぎゃあ!」


 スキンヘッドが怯んだところで、カイソンの右ストレートがスキンヘッドの顔面に決まる。スキンヘッドもあっさりと地面に転がった。


「お前、相変わらずエグいな」


「チョーさんこそ」


 カイソンはスキンヘッドの左目からピンセットを回収した。


「あ……あなたたち、すごいわ!」


 ポワロンは興奮した様子で拍手をしている。


「相手はレベル5のハンターだから、たいしたことない相手ではあるんだけど。こんなにあっさり勝つなんて!」


「なんだよ、レベルって」


「この世界に存在する人間とプレイヤーには、戦闘レベルがあるの。戦えば戦うほど経験値が入って、レベルが上がっていく仕組みよ。今の戦闘で、あなたたちのレベルは1から2になったわ」


「しょぼっ!」


「ゲームを始めたばかりなんだから、仕方ないじゃない」


 ポワロンは肩をすくめた。


「でも、あなたたち、持ち前の能力が高そうだから、序盤はさくさくレベルアップしていけそうね」


「戦闘にレベルアップ……このゲーム、バトル要素もあるんすね」


 カイソンは何やら情報を整理している。


「ポワロン、バトルについてもう少し詳しく説明してくれない?」


 カイソンが言うと、ポワロンは「もちろんよ」と答えた。


「バトルは、バタフライをめぐってプレイヤー同士で戦うわ。といっても、出会うプレイヤーすべてと戦うわけじゃないわよ。この世界にはマスターが二人いるの。一人は、ムラサキツバメ」


「ムラサキツバメって、あのバタフライ野郎か!」


「あなたたちは、ムラサキツバメ陣営のプレイヤーよ。もう一人のマスターが、ベニモンアゲハ。ムラサキツバメとベニモンアゲハが、幻の蝶をめぐって争っているの。あなたたちは、ベニモンアゲハ陣営のプレイヤーと戦って、よりレア度の高いバタフライをゲットしていくのよ」


「なるほど」


「あとは、さっきの悪徳バタフライハンターみたいなゲームオリジナルプレイヤーがいるから、そういう相手とも戦うことがあるわね」


「じゃあ、同じムラサキツバメ陣営のプレイヤーだったら」


「基本的に仲間だから、戦うことはないと思うわよ。むしろ、強い敵と対戦するとき、こちらが不利だった場合、助けを求めることができるわ」


「助けを求めるだって!? そんなかっこ悪ぃこと、できねえよ」


 俺が言うと、ポワロンは呆れた目で俺を見つめた。


「レベル2の分際で何を言っているの。所有しているバタフライだって、まだレベル1の幼虫なのに」


「所有しているバタフライ?」


 俺とカイソンは、ふと、後ろにいる超巨大イモムシを見た。体から生やしている触手は半透明で、長く伸びたり縮んだりしている。うーん、気持ち悪!

 ちらっとカイソンを見ると、カイソンもカレーの中に入っていた半生のニンジンを噛んだような顔をしている。


「ポワロン、まさか、こいつが所有しているバタフライなのか?」


 俺が訊くと、ポワロンはイモムシの頭の上に座ってうなずいた。


「そうよ! この世界では、プレイヤーは必ず1体以上のバタフライを所有するルールなの。最初に出会うバタフライはランダムなんだけど、このヒューイットソンキララシジミはSRだから、あなたたち相当ついているわ」


「SRって、バタフライのレア度ってこと?」


 カイソンが訊ねると、ポワロンは「そうよ」と言った。


「バタフライは、ノーマル(N)、レア(R)、スーパーレア(SR)、スーパースペシャルレア(SSR)の順にレア度が高くなるの。もちろん、レア度が高ければ高いほど出会う確率は低くなるわ」


「その上が、最上級レジェンドバタフライってことなんだな」


「そういうこと。バタフライにはそれぞれ特殊能力があって、バトルで力を発揮するわ」


「そうなのか!? さっき、こいつ、何もしなかったけど!」


 俺がイモムシを指さすと、イモムシは驚いたようにもぞもぞと小さく身体を丸めようとした。イモムシはダンゴムシみたいにはならなかった。ただキモイ動きをしているだけにしか見えないんだが。


「こら、怒ったら可哀そうでしょ! それに、バタフライの力は特別なんだから、乱発できるものじゃないの」


「そうなのか」


「バタフライの能力は、1回のバトルにつき1回しか使えないの。最初から傍にいるペットのバタフライは、バトル後休ませるとまた次のバトルで能力を使うことができる。でも、今後捕まえるバタフライに関しては、一度能力を使うと消えてしまうの」


「えっ、じゃあ、ほかのバタフライの能力は1体につき1回ぽっきりってこと? バトル後復活しないのか?」


「そういうこと。だから、バトルを有利に進めるコツとしては、


1、 野生のバタフライは出会ったら捕まえる。

2、 強い相手とバトルする前には、バタフライをなるべくたくさんストックしておく。

3、 ペットのバタフライの能力は、使ってもバトル後に回復するので、優先的に使う。


……ってことかな。初心者はまずこのくらいわかっていたらオッケー。バトルに慣れていけば、バタフライを複数使ってコンボ技とかもできるけど、まだペットのこの子しかいないわけだし、また機会が訪れたら説明するわ」


「うーん、まだよくわからんけど、カイソン、わかったか?」


「だいたい。バトルの仕方とかは、実戦で確かめたらいいと思うんすけど、そんなことより」


 カイソンは真面目な表情をしている。



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