第2話  後編。

 瞬君はスグに私から離れて行くと思っていた。だが、違った。離れるどころか、日に日に瞬君は私にのめり込んでくるような気がした。


 ホテルで、瞬君に腕枕をされながら言ってみた。


「瞬君、早く私から卒業せなアカンよ」

「卒業って?」

「瞬君、若い子にも目を向けた方がええで」

「そんなの無理やで、僕、塔子さん以外の女性に興味ないから」

「でもね、瞬君の年齢にふさわしい女の子がいると思うねん」

「僕、塔子さんと付き合い始めてから2人の女の子に告られたで」

「カワイイ子やった?」

「うん、クラスでも人気のある女子やった」

「ほんで、どないしたん?」

「“今、付き合ってる女性がいるから”って断ったで」

「なんで? なんでそんな勿体ないことをするん?」

「だって、その通りやろ? 僕は真剣に塔子さんと付き合ってるんやから」

「私、いつ別れを告げられてもいいように、覚悟してるんやで」

「塔子さん、そんな覚悟はしなくてええよ」

「うーん、私、瞬君がそこまで本気やと思わへんかったから」

「まるで、本気やったら困るみたいな言い方やね」

「瞬君の恋人、私でええんかなぁ」

「もう、塔子さん、シッカリしてや。2度と塔子さんが、そんなこと言わないようにするで」


 瞬君は、また私を抱く。そして、私は素敵な時間を過ごす。私の方が、瞬君に惚れちゃっているのかもしれない。そう思った。



 瞬君が、私の誕生日を祝ってくれた。また、瞬君のポケットから小箱が出て来た。中身は高価そうな指輪だった。


「瞬君、これ何? こんなにお金を使ったらアカンよ」

「ええねん、受け取ってや」

「でも……」

「今度の指輪は婚約指輪やねん。前に渡した指輪とは違うから」

「婚約?」

「うん、僕が高校を卒業したら、結婚してほしい」

「アカンよ、瞬君には、もっと素敵な女性が現れるから」

「僕は、塔子さんと一緒に暮らしたいねん」

「進学は?」

「大学には行く。だから、4年間は学生結婚やけど、卒業したら父の会社で働くし、経済的なことは何も気にしなくてええよ」

「大学の4年間は?」

「親が生活費を出してくれる。全部話して了承してもらったから、塔子さんは何も考えずに僕と暮らしてくれたらええねん」

「そんな夢みたいな生活……」

「夢とちゃうで。もうすぐ、実現するんやで」

「でも……子供達のことがあるから……」

「うん、だから、今の双子達の家と僕の家、両方に通えばええやろ? なるべく、夜は一緒にいたいけど。でも、息子達のことで今の家に泊まる日があってもええやんか。これやったら、母親としても、妻としても問題無く過ごせるやろ? 僕もいろいろ考えたんやで」

「そこまで考えてくれてるんや」

「春、卒業したら式を挙げたいと思ってるねん」

「春か……まだまだ先のようで、スグに春になるんやろうね」

「これから式場選びとか忙しくなるで」

「うん、子供達にも理解して貰うわ。子供達にも話してみる……」



 双子の息子達と、食事の後にお茶を飲んでいる時に、私の方から話を切り出そうとした。


「あのね、真面目な話があるんやけど」


 すると、息子達の方は笑顔で答えた。


「母さん、再婚するんやろ?」

「俺達のことは気にしなくてもええで」

「え、わかってたん?」

「そりゃあ、わかるわ。恋人ができてから、母さんは変わったもん」

「すげえわかりやすかったで」

「そうなんや。気付かれてないと思ってたんやけど。それで、年が明けた春から、その男性と一緒に暮らそうって言われてるんやけど」

「暮らしたらええやんか、俺達、大学は行かへんし」

「2人とも、働くことに決めたん?」

「うん、大学に行くほど勉強は好きちゃうから」

「俺達のことは気にせんでええで、新居で幸せな新婚生活を味わってくれや」


 あなた達は、そう言ってくれるけど、私の相手が瞬君でも祝福してくれる?



「息子達は、大学に行かずに働くから、お母さんは好きにしたらええよって、息子達に言われたわ」

「祝福してくれてるやんか、良かった、良かった」

「でも、相手が瞬君やって、まだ言えてへんねん」

「言った方がええんとちゃうかな、それより、双子の息子達は大学に行かないって? もしかして、母子家庭やから遠慮してるのかな?」

「そうかもしれへん」

「よし、双子の大学の費用を父に払ってもらえるようにするわ」

「そんなん、アカンって」

「ええやんか、双子も僕の義理の息子になるんやから」



「婚約者の実家が、あなた達の学費を援助するから大学に行きなさいって言ってるんやけど」

「そうなん?」

「マジかよ……」

「2人とも成績はええんやから、ここは甘えて大学に行きなさい」

「……わかった」

「夢みたいな話やけど、俺達、大学へ行くよ」

「そう、やっぱり大学に行きたかったのね」

「足長オジサンによろしくね!」

「うん、喜んでたって伝えておくから」


 足長オジサン……若すぎる足長オジサンだ。



「そろそろ式場を選ばないとね」


 ブライダルの情報誌やネット情報から、式場候補を絞り込んでいく。式場が決まったら、ウエディングドレスのデザインを選ぶ。私は、ウエディングドレスを選ぶのが正直なところ嬉しかった。ウエディングドレスは、いつでも女性をワクワクさせてくれる。私はスタイルが良いので、かなり似合ってると自分で思った。自惚れすぎだろうか?


 でも、私は友人や親にも瞬君のことは話せていない。18歳の旦那様、絶対に引かれると思う。それでも、どうしてだろう? 悩んでいると言いながら、瞬君と結婚式の準備を進めていくのが楽しい。多分、私は瞬君と結婚したいのだ。もう、その気持ちは認めよう。そうだ、私は瞬君のことが大好きなのだ。


 瞬君に言ったことがある。


「大学を卒業してからの結婚ではアカンの?」

「僕は、早く一緒に暮らしたいんです。それに、早く子供がほしい!」

「子供?」


 その時は、息子と同じ年頃の男の子の子供を産むということがピンとこなかった。でも、今なら想像出来る。私が、瞬君の子供を産む未来。でも……やはり、18歳の男の子との結婚は周囲の人間には言いにくい。



 式場選びなど、トントン拍子に進んでいく。挙式まで後3ヶ月。私はまだ、誰にも言えない。







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【新】誰にも言えない。※改稿版 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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