【新】誰にも言えない。※改稿版

崔 梨遙(再)

第1話  前編。

 4月、私、羽田塔子(はねだ とうこ)の職場、ファミレスにも新しいスタッフがまとめて入って来る時期だ。今年も、バイトが一気に4人も入って来た。1人が高校生、2人が大学生、1人が主婦パートだった。その時、私は高校生の相馬瞬君に目を奪われた。身長は170センチくらい。中肉中背だ。小柄というわけでもないのに童顔で、とにかくカワイイ。私はホールもキッチンも両方できるのだけど、瞬君の教育担当になった。瞬君はホールを担当するらしい。


 瞬君と一緒にいられるのが、私は嬉しかった。とにかく瞬君と一緒にいると楽しい。ペアを組んでいたので、最初は休憩も一緒だ。雑談も楽しい。


「え! 瞬君って(←ちゃっかり下の名前で呼ぶようになっている)、北高なん?」

「そうですよ」

「私の息子も北高やで。双子なんやけど」

「あ、あの相沢兄弟? 知ってます。双子って珍しいですから」

「へえ、息子達と同じ学校とは思わんかったわ、世間って狭いもんやね」

「あ! ということは、塔子さん、あんなに大きな息子さんがいるんですか?」

「そうやで、ビックリした?」

「何歳で生んだんですか?」

「18歳の時。私、もう30代のオバサンやで」

「20代にしか見えませんよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるなぁ。でも、旦那はいてへんよ。バツ1やから」

「恋人とか、いらっしゃるんですか?」

「そんなん、いてへんよ。子育てと仕事で忙しかったから、恋愛する時間なんか無かったわ」

「ほな、デートする相手はいてないんですね?」

「おらん、おらん」

「じゃあ、今度の土曜日、デートしてください」

「デート? 懐かしい響きやなぁ」

「僕、バイクに乗ってるんです」

「え! バイク? カッコええやんか」

「僕のバイクの後ろに乗ってみませんか?」

「バイクに乗ったことないけど、なんか楽しそうやなぁ」

「バイクで琵琶湖の湖岸1周とか、どうですか?」

「こんなオバサンでもええの?」

「塔子さん(←ちゃっかり下の名前で呼ばせてる)と一緒に行きたいんです」

「ほな、ええよ。行こか」



 土曜日、私はキレイな服装をしたかったのだが、“バイクに乗りやすい服装で来てほしい”と言われたので、長袖の白地の(ブラのラインくらい見せたかったから)Tシャツにデニムパンツで待ち合わせ場所に行った。瞬君にああは言ったが、正直、私は20代に見られる自信がある。スタイルにも自信があった。身長160センチ、サイズは90-60-88、Eカップだ。脚も長い方だと思っている。子供を産んでも、スタイルは崩れていないのだ。本当は、年上らしくセクシーな服を着て見せたかっけれど、それはまたの機会にしよう。


「お待たせしました」


 レーサーレプリカというらしい。赤と白のデザインのバイク、私はバイクに乗る瞬君をカッコイイと思った。


「乗ってください」


 私はヘルメットを渡された。


「行きますよ。ちゃんとしがみついてくださいね」

「わかった」


 湖岸、湖がよく見えるところでバイクが停まった。湖が綺麗だった。気付くと、横に瞬君がいた。そして、瞬君は私の手を握った。湖が美しかったせいか、私は瞬君の手を握り返した。言葉は要らなかった。しばらく2人で湖を眺めた。



「いいお店を知ってるんやね、まだ高校生なのに」

「ネットで、洒落た店を探したんですよ。来たのは初めてです」

「ここ、高いやろ? 私が払うわ」

「やめてください、ここは奢らせてくださいよ」

「うーん、じゃあ、奢ってもらおうかな」

「塔子さん、僕を男として見てくださいよ」

「瞬君は、魅力的な男の子やと思うで。でも、息子と歳が近いからなぁ」

「僕は、ずっと塔子さんを女性として見ていますよ」

「そうなん? 嬉しいこと言うてくれるやんか」

「実は今日、僕の誕生日なんです」

「そうなん? おめでとう。18歳になったんやね。もう成人やね。あ、どうしよう? 私、プレゼント用意してへんわ」

「プレゼントは、後でもらいます」

「何か欲しいものがあるの?」

「ありますけど、まずは食事を楽しみましょう。ほら、ワインも飲んでください」

「この後、どうするの?」

「プランはあります。今はまだ内緒です。行き先は僕に任せてくれますか?」

「プランがあるんやね? じゃあ、お任せするわ」



「ここ、ホテルやんか」

「行き先は任せるって言ってくれたじゃないですか」

「でも……」

「とにかく、中に入りましょう」

「入るだけやで」

「2人きりになりたいんですよ」


「お願いします」


 お願いされた。まあ、ホテルに連れ込もうとした時点でお願いされるのはわかっていた。だが、瞬君のお願いは、私の想像を超えたお願いだった。


「僕と付き合ってください」


 瞬君は真面目な顔で言ってくる。てっきり一度だけの関係を求められると思っていたのに、付き合ってほしいとは……確かに瞬君をカワイイと思っているが、30代が18歳と付き合っても良いのだろうか?


「これ、受け取ってください」


 瞬君から小箱を渡された。開ける前からわかる、ジュエリーボックスだ。中には綺麗な指輪が入っていた。


「左手の薬指につけてください」

「本気なん?」

「はい、僕は真剣です。今日から僕の恋人になってください」

「アカンよ、私なんかオバサンやし」

「塔子さんほど素敵な女性なんていません」


 そうか、重く考えなければいいんだ。瞬君は若い。その内、私以外の若い子と付き合うだろう。それなら、瞬君に他に好きな女性が出来るまで、私が彼女でもいいだろう。私は、軽く考えることにした。瞬君の気持ちも軽く考えていたのだ。


「わかった、瞬君が他に好きな女の子が出来るまで、私が恋人になってあげる」

「ありがとうございます。それで、僕、誕生日なんで、塔子さんからのプレゼントがほしいんですけどいいですか?」

「私を抱きたいの?」

「はい。抱きたいです」

「どうしようかなぁ……」

「僕、初めてなんです。初めての相手は、塔子さんがいいんです」

「初めて?」


 私は、その言葉に惹かれた。大好きなカワイイ男の子の初めての相手になる! なんて素晴らしいことだろう! 彼の中で、私は一生“初めての女性”として記憶に残るのだ。私は、急に瞬君の初めての相手になりたくなった。今、私はお酒を飲んだ後だ。全く酔っていなかったが、“酔った勢いだった”と言えばいい。言い訳も用意されている。これは、私にとってもチャンスだった。


「女性のこと、教えてほしいん?」

「はい、塔子さんに教えてもらいたいです」

「わかった、じゃあ、教えてあげるわ」

「じゃあ、まずはキスから……」


 素敵な時間だった。


 瞬君に何度も求められた。“若いって、素晴らしい!”と思った。

 

 それから、私と瞬君は付き合うことになった。







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