異世界転移してクソスキルしかもらえなかったけど居候の猫型アンドロイドが助けに来てくれてなんとかなるかも……ならなかった
ヒロセカズマ
異世界の国からはるばると
まいった、まさか漫画でお馴染みの異世界転移が自分の身に起こるなんて。
眼鏡を掛け直しても見間違いじゃ無い……周りは見渡す限りの草原。街の面影など何処にも見当たらずに見えるのは森くらいだ。本当に異世界なんだろうか?
僕は
神様らしき存在に「スキルをあげるから頑張って魔王を倒してね」と無茶振りされたんだ。しかも草原の真ん中とか酷いよね、せめて街とか安全な場所にして欲しいよ。
「俺は【豪腕】のスキルだ。おおっ、大岩が簡単に砕けたぞ~」
見事に岩を砕いて見せた、がたいの良い男は
「僕は【錬金】だって。だいたいの物体を価値にあった量の金に変えられるんだって。やっぱり僕はお金持ちになる宿命なんだね」
このヒョロッとした男は
「私は【
この美少女は僕の憧れの
「僕のスキルは【完璧】だ。全ての能力が10倍になるようだ」
このいけ好かないイケメンは
「おい、伸太はどんなスキルなんだ?」
「ぼ、僕は……【速眠】だって」
「そ、速眠~!? ぷっ、あははははははははっ、速眠って、伸太はスキルが無くたっていつも早寝してるじゃ無いか~」
「笑ったら駄目だよ! もしかしたら短い時間で高い効果の睡眠を得られるスキルとかかな?」
凄杉がスキルを確認してくる。僕はスキルのヘルプを確認してみると……
「えーと、どんなときでも五秒で眠る事ができるだって……」
「おい、伸太、お前たしか三秒で寝れるよな? それってスキル使わない方が早く寝れるじゃんか」
僕は昼寝が好きだ。自慢じゃ無いけれど寝たいと思ったらいつでも寝れる自信がある。でもだからってこのスキルは酷いよ……勉強も運動もスポーツも苦手な僕の数少ない特技よりスキルの方が劣っているなんて。
「あはははははっ、スキル使わない方が凄いだなんて、さすが伸太、優秀だねぇ、っぷぷっ、あはははははっ」
容赦なく笑う助清。悔しさに涙が出そうになって下を向いた。
「おいおいそんなに落ち込むなよ、安心しろ伸太、お前は俺が守ってやるよ」
自分の胸を力強くどんと叩く……小学生の頃なら助清と一緒になって馬鹿にしていただろう……猛がフォローしてくれる。
「……タイタン」
「タイタンっつーな!!」
久しぶりに殴られた。
「私も伸太さんが怪我をしたら助けるから心配しないで」
猛に殴られたほっぺたの痛みが引いていく……リアルタイムに怪我を治してくれて優しい静菜ちゃん。
「もちろん僕も同じ気持ちだよ、皆で助け合おう。だから安心して」
凄杉も慰めるように言ってくれる……でも、でもその優しさが辛い。役に立たずな自分が情けなくなり、居ても立ってもいられなくなった。
「ぼ、僕だって一人でも大丈夫だよ!! みんなの助けなんかいらないから!!」
僕はいたたまれなくなり駆けだした。後ろから静止する声は聞こえるけれど、その声を振り切るように足を止めなかった。
皆の視線から逃れるために森に駆け込むと、先程とは打って変わって薄暗く不気味な木々のざわめき……なんだか急に心細くなってきた。戻った方が良いかな……いやいや、僕だってプライドがある。このまま戻るなんて格好悪くてできやしない……とはいえ……
「はぁ~またやっちゃったよ……僕はいっつもこうだ。大した事も出来ないくせに、すぐ意地になっちゃうんだ」
いつものように後悔し始めたその時、風が強く吹いて森が泣いたように騒ぎ出す。
「ひっ!!」
その音に驚いて周りを見渡すけれど何もいなかった。
「……よし、うん、やっぱり戻ろう、異世界なんだから皆と助け合わないとね」
それに、もしも僕がこのままいなくなってしまったら、みんなはきっと後悔するに違いない。よし、プライドよりも皆のために戻ってあげよう……と言う事で、僕は前向きに考えなおして引き返してあげる事にした。
「って、あれ? ここ何処?」
振り返ったけれどどっちが元に戻る道か分からなくなってしまった。え? うそ、僕、迷った?
「さっきはこっち向いていたんだから、こっちに戻れば良いんだよね?」
不安になりながらも元来た道を歩き出す……しばらく経ったけれど、一向に森を抜けられない。明らかに先程歩いてきた時間よりも長い時間が経っているのに森を抜ける事ができなかった。
「やばい、どうしよう? そうだ、みんなを呼べば良いんだ!!」
僕は大きく息を吸い込むと……
「おーーーーーーいっっ、みんなぁーーーーーっっ!!」
……と、声をあげた。
………………
…………
……
だけど返事は無かった。いよいよ不安は大きくなってきた。
「おーーーーいっ、ここだよ~!! 静菜ちゃ~ん!! タイタ~ン!! 助清~!! ついでに凄杉く~ん!!」
ガサガサッ
僕の声が届いたのか、後ろから草をかき分けて歩いてくる音が聞こえた。僕は安堵して振り返ると……
「ぐごおおおっっっ」
その声は上から聞こえた。僕の身長の二倍はあるだろうその声の主は、お相撲さんをそのまま縦横共に大きくした身長三メートルはあろう異形のモンスターだった。
【トロル LV:20】
簡易鑑定のスキルは全員もらえるらしく、なんともありがた迷惑な情報が目の前に提示された。もしかして、僕の声を聞いて来ちゃった? それよりもレベル20ってなに? 最初に出るモンスターにしては強すぎるんじゃないかな?
「ぐううううっ」
そのトロルはよだれを垂らしながらゆっくり近づいてくる……もしかしなくても僕を食べようとしているの?
「あははっ……さ、さよならーーーーっっ!!」
僕は振り返って走り出す。
「ぐろおおおおおっっ」
大きな声と一緒に大きな足音が僕を追いかけてきた。
「ひぃぃぃぃぃっっ、誰か、助けてーーーーっっっ!!」
こんな時、いつもだったら……助けてくれるのに。何時だって君は僕を助けてくれた。だからお願いだよ……
「トライモ~~~っっっ!!!」
「はーい、ボク、トライモ~!!」
……待ち望んだ声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには君がいてくれた。何故か何も無いところにドンッと立っているピンクの扉の前に人影が……青い内はねショートボブカット、その頭には猫のような耳。赤い首輪に鈴を付け、身体はぴっちりした青いレオタード的なものに包まれお腹には白いポケット。肌の色は僕等と一緒。その猫耳美少女は未来からきた (らしい)猫型アンドロイド……その名もトライモ。
「正確には第三世代猫型アシストアンドロイドっていうんだよ~」
「トライモ~!!」
僕は彼女に抱きついた。彼女は僕を抱き止めると「しょうがないな~」という表情で僕の頭を撫でてくれる。そのピクピク動いている耳の一部が切れているのは昔ネズミにかじられたのが原因らしい。
「でも異世界なのにどうしてここまで来れたの?」
「異世界? たしかに銀河系の外の星だけど、ちゃんと同じ宇宙にある惑星だよここは」
「えぇ~そうなの!?」
「だから念の為、伸太くんに付けていたシークレットグッズ【チェイサーバッジ】で君の居場所を特定して【どこでも扉】でここへ来たんだよ」
トライモは振り返ると、どこでも扉を指さす、そしてそのどこでも扉が……
「うぐらあぁぁぁっっ!!」
……トロルの振り下ろした棍棒で粉砕された。
「「ああああああああああっっっ!!!」」
僕とトライモは絶叫する。だけどトロルはそんな事お構いなしで扉……もう殆ど原型を止めていない……を棍棒で殴り続ける。
「どどどど、どうするのトライモ!?」
「どどどど、どうしよう!?」
トライモは焦りながらお腹のポケット【4ディメーションポケット】に両手を突っ込むと、色々な物をぽいぽいと投げ散らかす。
「ねぇ、いつも思うんだけどそれ止めようよ! 後であれが無いこれが無いっていつも言ってるじゃん」
「だまって、気が散るから!!」
「ぶるああああっっ!!」
扉を破壊し尽くしたトロルはいよいよこちらにターゲットを切り替えたようだ。まずい!!!
「あった【エアバズーカ】!!」
トライモは灰色の筒を高く掲げるとチャララチャッチャラ~♪とどこからともなくBGMが聞こえた。
「だから、それも急いでる時止めようよ!!」
「だめ、これは絶対やらないと駄目なの~!! いいから、これ使って!!」
僕はトライモから渡された灰色の筒を手にはめ込むと、それを迫り来るトロルに向けた。
「頑張れ伸太くん! 君の数少ない特技を見せる時だよ!!」
「数少ないは余計だよ!! えいっ!!」
僕は狙いを定めてエアバズーカを発射する……自慢じゃ無いけど今までこれを外した事は無い。筒の先から空気の弾が発射されそれはトロルの顔目掛けて飛んでいった。
「ぐあぷぁっっ」
トロルの顔がパァンとはじけ飛んだ。
「「おえぇぇぇぇっっ」」
そのあまりにもグロテスクな状況に僕等は吐いた。
「ふぅ、酷い目に合った……それよりもトライモ、助かったよ」
「も~伸太くんはいつまで経ってもボクがいないと駄目なんだから~」
トライモは満更でも無さそうな顔で胸を張っていた。それにしても良かった。トライモがここに来れたと言う事は家に帰れるって事だもんね。
「それじゃあトライモ、みんなを連れてくるから家に帰ろうよ」
「うん、ごめん伸太くん、【どこでも扉】が壊れたからもう帰れないんだ」
「またまた~、僕を騙そうったってそうはいかないよ」
「本当本当、前も同じ事あっただろう?」
「……本当に?」
「本当だよ」
「……」
「……」
「ど、どうするんだよトライモ~!!」
「そうするって言われてもどうしようも無いよ~」
過去にも同じ事があったのにトライモは学習能力が無いのか予備を用意した事が無い。最初は帰れるかと思ったのにぬか喜びも良いところだよ。
「じゃああれは? 【どこでもウインドウ】!! 猛は通れるか分からないけれど無理なら【リトルライト】を使って小さくなれば地球に帰るならできるよね?」
「【どこでもウインドウ】はキミがイマイチ使いづらいって言うからとっくに返品しちゃってるよ。どっちにしろあれはメンテナンスに出している予備のポケットに入れていたものだし」
「全然駄目じゃん、トライモの役立たず!!」
「役立たずだって~!? キミだけには言われたくないよ!!」
「なんだと~」
「文句があるって言うの~」
僕等は取っ組み合いのケンカをした……5分ほどで疲れて動けなくなった。だめだ、こんな事をしている場合じゃ無い。
「ハァハァ、ここは一時休戦しよう」
「ハァハァ、そうだね、何とか家に帰る方法を考えなきゃ」
そういいながらトライモはポケットから虎のマークが書かれた缶からゴーフルを取り出して口に入れた。彼女の大好物だ。そういえばさっき吐いちゃったから僕もお腹が空いてきたかも?
ぐううううっっ……
「お腹空いたの? でも駄目だよ、この虎ゴーフルは僕のだから」
「違うよ、お腹は空いてきたけど僕じゃ無いよ」
ぐうろろろろろろろろろっっ……
「え? それじゃあこの音は誰が?」
ちらっと後ろを振り返ると、僕等を見下ろしながらよだれを垂らしているトロル達がいた。
「「でたぁぁぁぁぁぁっっっ!!」」
「「「「「ぐらああああああぅっっ!!」」」」」
一斉に逃げ出す僕達を追いかけてくるトロル。
「と、トライモ~」
「こここ、こんな時は~」
再びポケットから色々な物をポイポイ取り出しながら何かを探すトライモ。
「だから、その色々放り出すの止めようよ~」
「気が散るから黙って……あった!! 【バンブーリフター】!!」
チャララチャッチャラ~♪ トライモは黄色い竹とんぼのような物体を頭上に掲げた。
「これを頭に付けると……「知ってるから早くちょうだいよ!!」」
僕はトライモからそれを奪い取ると頭の天辺に取り付ける。付け根の小さなボタンを押すと竹とんぼが回り出した。
「ぶらああああぅぅぅっ!!」
トロルの凶悪に大きな棍棒が僕等に命中する寸前、身体が空へ舞い上がり事なきを得た。トライモのシークレットグッズで使用率がトップクラスの空飛ぶアイテムだ。
「あぶなかった、間一髪だったね」
「本当だよ~。今更だけど危険な場所で騒ぎ過ぎちゃったね」
空から……既に木々に隠れてトロルの姿も確認出来ない……森を見下ろし一息ついた。それにしても帰れないのか~。いや、前向きに考えよう。トライモがいてくれるだけで僕等の生存率は格段に高くなったじゃ無いか。
「急に黙り込んじゃって伸太くんどうしたの?」
「ううん、なんでもない。トライモが来てくれて良かったな~って思っただけだよ」
「?」
不思議そうな顔でこちらを見るトライモ。
「お~~~い!! 伸太~!!」「伸太さ~ん!!」「伸太どこだ~!!」「伸太く~ん!!」
「あ、みんなの声がする」
「森に入っちゃってるよ、急いで合流しよう」
僕とトライモはみんなの声がする先へ進んで行った。地球に帰れるか分からないけれど、今までだって何とかなったんだ、僕等なら大丈夫だ!!
「お~~い!! こっちだよ~!!」
……僕等の大冒険は今ここから始まるんだ!!
異世界転移してクソスキルしかもらえなかったけど居候の猫型アンドロイドが助けに来てくれてなんとかなるかも……ならなかった ヒロセカズマ @E-N
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