第1話 初めての友達
「低っっっ!! 嘘でしょ? 私が転生させた人間ってこんなに弱かったの?」
僕のステータスが公開されてから、第一声は女神の罵倒の声だった。どうやら僕の能力はとてつもなく低いらしい。
確かに、ステータスを見る限りGやFが低いという意味ならば、思い当たる節しかない。僕は必要最低限家から外出したことが無く、運動なんてまっぴら。陽の光も浴びることなく、ただ布団の中で過ごしていた。低くて当然だろう。
「むむ、これでは確かに我ら国の危機は止められぬな……。冬夜よ。本当に済まなかった。住居だけでは足りぬ。お主を我が国の民として受け入れよう。これから生活する金も必要だろう。ここ10年は生きるのに困らない金を渡そう」
「それはありがたい。なにもせずにぐーたら出来ることは、僕が転生前に望んでいたことだ。それじゃあ、神様。話はわかっただろう? 僕は失礼する。貴方が僕の友達になってくれるというのなら歓迎しよう」
また別の従者が両手で抱えるように、とても重そうな金の入った袋を持ってくると、家まで持って行ってくれるようだ。
そして女神はといえば、しばらく黙ってから静かに頷いてくれた。何を考えているのか分からないが、無論僕は決して関わるつもりはない。
そうして従者について行き、王宮を出て街中に入れば、道中活気あふれる大通りに感動しながら、途中で周りが急に静かになったと思えば、そこは既に僕の私有地らしく、庭だった。
誰もいない閑散とした。でもまるでプロの庭師がさっきまでいたかのように、切り揃えられた葉っぱの屏を通り抜ければ。目の前には巨大な、到底一人で暮らすには広すぎると言える程の大豪邸が建っていた。
「これは家なのか?」
「はい。以前までは貴族たちのパーティー会場としても使われていた邸宅でして、王はこれから友達とも暮らすなら、これくらい大きくても良いだろうとのことです」
まぁ、いいか。いちいち邸宅内の移動が面倒そうだけど、これは本当に一生外へ出る気が無くなりそうだ。
さて大豪邸の見た目と機能性に納得した所で、一緒について来た王の従者が今一番気になることを言った。
「そういえば。すでに友達方は邸宅の広間に待たせております。王が募集したところ多くの人間が殺到したようで。あまりにも受けてくれる方が多いので、勝手ながら王が厳選したようです」
「へぇ、それは楽しみだ」
ついに友達と対面か。これは人生で初めての友達だ。初対面からいきなり友達と呼ぶにはどうかと思うが、王が"友達になりたい人"を募集したんだ。ならば会った瞬間から友達でも構わないだろう。
「それでは私の案内はここまででございます。お金は広間においておきますので。玄関から入って廊下を少し行った先の左手にある扉から広間に入れます。また、なにかあればいつでもお呼びください」
「分かった。ありがとう」
そうして従者と別れた後、僕は大きな玄関の扉を開いた。すれば、中は豪華絢爛の装飾と調度品の数々がある、煌びやかな壁と真紅の絨毯が長く廊下に伸びていた。
眩しい。あまりにも眩しすぎる。光も差し込まない部屋でずっと暮らしていた弊害か、目を細めなければまともに廊下すら歩けない。こんなもの、慣れてしまうものなのだろうか。
そして廊下左手にあるまた大きな扉を開けば、そこにはどこかで見たことがあるような。貴族たちが集まるようなパーティー会場。今は開かれていないが、だだっ広い空間はそれを髣髴とさせた。
さらにそこには、僕が広間に入って来たのを気づいてくれたのか、4人の男女が既に待機しており、こちらに手を振ってくれた。
「君たちが僕の友達かい? 僕は寝巻冬夜。よろしくね。早速だが自己紹介をしてくれ。出会ったらこれを最初にやるべきなんだろう?」
「へぇ……王様はなかなか当たり障りのない人たちを選んだみたいね」
そう言えば早速一人一人の自己紹介が始まる。
「なら俺が最初だな! 俺はカルド。年齢は21。好きなことは力仕事だ。毎日親父の鍛冶場を手伝っててな、見ろよこの筋肉! よろしくな!」
一人目は赤髪赤目の青年。体格はなかなかがっしりしており、好きな事で鍛え上げられた筋肉を見せつけられれば、腕にしっかり力こぶが出来ていた。最後にニカッと白い歯を見せる笑顔は眩しく、暑苦しくも優しそうだなと思った。
「次は僕ですね。僕はルーカス・アスティオス。気軽にルーカスと呼んでください。僕はここの近くに住んでいる同じく貴族なのですが……どうやらここに集まっているのは貴族だけではないようで。途中から庶民に触れることが出来る良い機会だと思いました。好きなことは読書です。あぁ、歳は20ですね」
二人目は緑髪の丸眼鏡をした青年。流石貴族か、服装は緑を基調とした金色の刺繍が施された綺麗なタキシード風の服を着ており、とてもこの場に合っていながらも、他の人間と比較出来る姿をしている。
性格は至って真面目そうだ。本当に当たり障りはなさそうだ。
「次は私かな? 私はアーフィって呼んで。歳は28。この中では一番のお姉さんかな。好きなことは昼寝や散歩かなぁ……。私の部屋は3階にもう決めてるから、よろしくね〜」
三人目は茶髪ロングの高身長で良スタイルの女性だった。服装は白のワイシャツ1枚とジーパンのような生地のズボンに、既に裸足という。大分ラフでありながらも、ここで暮らす気満々な態度。
この中で最年長は事実だが、何故かどうしようもなく頼りなさを感じた。
「次はあたしね! あたしはラフィネ・アームロック。ここの王様の娘よ! お父様に無理言ってここに来ているの。貴方たち庶民の中に、王の娘がいるなんて光栄よね?」
四人目はなんと王族の娘が来た。服装はゆるふわとした如何にも子供用のドレスで、全員の中で一番身長が低い。顔立ちの幼さからして恐らく歳は7〜8くらいだろうか?
「いや別に?」
「え……」
「ここにいるのは身分とか関係ない。みんな僕の友達なんだから。これからよろしくね。ラフィネ」
これで全員の自己紹介……いや、一人忘れていた。
「えーと、それじゃあ最後は女神のステアだね。この人は僕が勇者として転生すると同時に一緒に来てくれたんだ。一応本物だけど、これからは友達として是非仲良くしてくれ」
「はぁ!? 何勝手に言ってんの? ごほん、改めて私は天界の女神ステアよ。諸事情があってみんなにあまり干渉はできないけれど、くれぐれも喧嘩とか売らないように。いくら世界の管理者として人類には非干渉とは言え、"必要の無い人類を排除する権限"くらいはあるから……ね?」
さっきまでステアも一人の女性として見ていたが、今一瞬だけ神様の片鱗を感じた気がする。
さて、これで本当に全員の自己紹介が終わった。後は全員をさらに深く知るために、ステータスを公開してもらいたい所だが……。今日は疲れた。そろそろ寝たい。
「じゃあみんなよろしく。それじゃあ次は部屋決めだね。僕はなんとなく見晴らしが良い2階の中央の部屋にするよ。……という訳で、後はみんなで勝手に部屋決めしてくれ。僕は寝てくるから」
僕はそそくさとその場を離れ、自分の部屋に向かう。背後からちょっと待てとか、まだ真昼間だぞ? なんて聞こえた気がするが、とにかく今日は転生に、外の移動に疲れた。
確かに今は太陽が真上にある真昼間だが、この疲れなら明日の昼間まで寝れる気がする。
そうして2階の廊下から中央に位置する部屋に入れば、最初に巨大な窓ガラスから陽の光が強く差し込む。僕はすぐに腕で目を覆って光を遮りながら、大きくて重いカーテンを閉めて、完全に光を遮断する。
部屋を照らす光はもう一つ。中央にある燭台の上に置かれた六角柱のガラスに入った、淡い赤色に光る変な石。どういう原理か石が自ら発光しているようで、僕がガラスに触れると光は消えた。
これで部屋はほぼ真っ暗。うん。とても落ち着く。目はしばらくすれば暗闇に慣れ、真っ暗でもなんとなく何がどこにあるか程度ならわかる。
最後は人一人には大きすぎる程の、正しくごろごろできるタイプのベッド。僕は倒れ込むようにしてベッドに入れば、僕の体は一気に沈み込む。これまでに感じたことがないほどにふかふかだ。とても気持ちが良く、僕はすぐに意識を落としそうになる。
しかしふと部屋の出口あたりを見れば、暗くても分かる。神様が何故かまだいた。
「ところで、神様はそこでなにをしているんだい? 早く部屋を決めたら? それとも僕の隣で寝る?」
「っっ!? 馬鹿じゃないの? そんなことはする訳ないじゃない。貴方が本当にこのまま寝てしまうのか様子を見に来ただけよ。じゃ、おやすみ」
そう言えば女神は静かに部屋の外へ出ていった。それを見送れば、僕はその瞬間にぷつりと意識が途絶えた。慣れないことをするから疲れが一気に溜まったんだろう。
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