第19話 噂ですか?
最近どうも、
「……アタシが疑っているわけじゃないんだよ? しーちゃんとアタシは、付き合っているから、しーちゃんがいっくんとなにかあるわけないってわかっているし、信じているから」
という前置きのあと、
「
と教えてくれた。
上手いこと沙也を振る方法は未だ私の懸案事項の一つだ。人のいない廊下の隅で、私は密かに頭を抱える。
「……斎君には譜々さんのことで相談に乗ってもらっているんだよ」
浮気を隠すわけでもなく、私はとりあえず正直に答えた。
「ふーちゃんのこと? ……二人が付き合っていることだよね?」
「えっと、そのことなんだけど」
沙也には話してもいいかと、二人の本当の関係、それから譜々さんの疑惑彼氏のことを教える。
どのみちいつまでもは隠せないことだろうし、バンドメンバーにはこの事実を知ってもらわないと今後の対応で困ることも多い。
「えええぇ!? あの二人、そうだったんだ……それに、ふーちゃんの彼氏!?」
「驚くよね。譜々さんの彼氏ってのも想像できないし」
「う~ん。びっくりはびっくりだけど、でもふーちゃんに彼氏がいるのは、そこまで意外でもないかなー。あ、いっくんと付き合ってなかったらってことでね」
「え、そう?」
あの傲慢な変わり者に恋人がいるというのは、私には考えられない。というのは、もちろん斎君との関係がない前提だけど。
実際、斎君と譜々さんからの交際の報告を聞いた時もかなり驚いた。驚きすぎて、真顔で「おめでとう」としか言えなかった。
そのあと、なぜか譜々さんには舌打ちされたのを覚えている。
「だって~、ふーちゃん美人でしょ~。モテるって~」
「そりゃ、顔はいいけど」
「あ! また嫉妬してる! 安心してって、しーちゃんが一番美人だよっ!」
「そうじゃなくて……顔はともかく、ほら、譜々さんってなかなか……マイペースじゃない? あんまり人に合わせる感じでもないし、友達らしい友達の話も聞かないから……」
自分勝手とか傍若無人をマイペースと言うのは、本来マイペースと呼ばれるべき人達への不敬かもしれない。
「そうかな~。ふーちゃん確かに一人でいること多いけど、優しいし気が利くよね~」
「ええぇ!?」
「しーちゃん、優しいと気が利くでも嫉妬するの!? 嫉妬しすぎじゃない、それだけアタシのこと好きなの!?」
「そうじゃなくて」
「そうじゃなくて!? アタシのこと好きじゃない!?」
「それでもなくて……好きだけど、嫉妬は別にしてなくて……」
朝から体力を吸われるので、あんまりふざけないでほしい。
「好きだし、嫉妬することもあるかもだけど……でも私は沙也のこと信じているから、そんなに心配しないで」
と一応落ち着けておく。それよりも気になることがあった。
「それで、えっと……譜々さんのことだけど……沙也の中だとどういうイメージなの?」
「ん~? 美人で優しくて、お嬢様っぽい感じかな」
「……変わり者で反応少ない個人主義者じゃなくて?」
「ええ~、しーちゃんそれ尋と間違えてない? ふーちゃん全然そんなんじゃないよ~」
たしかに、尋ちゃんも要素的には近い。……ただ幼馴染みにその扱いは良いのか? よくわかっているからこそ、尋ちゃんの人柄を正しく理解しているのかもしれない。
じゃあ譜々さんのことはよく知らないだけ、なのかな。
ちなみに私の中で尋ちゃんと譜々さんは、本来のマイペースと暴君くらい違う。
「尋ちゃんの方が可愛いところあるし、話も通じるよ。違う」
「むー……アタシも尋のことは好きだけど、目の前で静流ちゃんに尋のこと褒められるとなんかチクチクする~」
「寒暖差だね」
ともかく、気になることと少し気にするべきことがわかった。
私以外の人から見て譜々さんはどういう人間なのか。あとは、私と斎君の噂のことも一応広まらないようにしておこう。
「斎君のことだけど、次また聞いたら訂正しておいてもらって良いかな? バンド活動絡みだから個人的な関係じゃないよって」
「うん、個人的な関係はアタシだけって言って置くよ~」
「それはダメだからね」
私がきっぱり言うと、「ちぇっ」とわかりやすく沙也が拗ねる。
「……言い忘れたけど、斎君には最初、沙也とのことも相談してたんだよ。沙也と仲良くなるにはどうしたらいいかって」
「え、えっ!?」
「だから、訂正お願いね?」
「う、うん」
そういうことで、二人して教室に戻った。
沙也と仲良くてもあまり噂にならないのは、沙也と斎君の学校内でのキャラの差なんだろうか。とちょっと考える。実際、斎君と噂になってもそんなに困るわけではないけれど。
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