第16話 問題発生ですか?
生徒会室に
お昼休みは有限だ。さっさと話して片付けてしまいたい問題だった。
ちなみに
本当なら、二人とも呼び出して揃って話を聞くべきなのだろうが、譜々さんは話が中々通じない面倒な相手で、今回みたいに無理のあるお願いをするのはだいぶハードルが高い。
せめて斎君と先に話して、彼女を味方に付けた上で二対一の状況にしたい。
それなら譜々さんも話を聞いてくれるかもしれない。
そのためにも、まずは斎君を説得する必要がある。
さっそく話を始めたいのだけれど、
「……遅刻しないで来てくれたのはうれしいんだけど、えらく急いでくれたんだね?」
生徒会室に入ってきた斎君はやたらとゼーハーしている。まさか学校内で生徒会長の私に言えないようなことをしていたわけじゃないよね?
「あ、あのさ、ちょっとシズに言わなきゃいけないことがあって」
「……なに? またファンに手を出して問題になったの?」
斎君の深刻そうな顔に、私は眉を寄せた。
「またってなに!? 僕、ファンに手を出したことないよね!?」
「手を出すの定義にもよるんじゃないかな。私の定義だと前科二十七犯くらいだけど」
「二十七ってどこから出てきたのさ!?」
なにかあったときのために、斎君が手を出していたファンの子はリストアップしてある。裁判沙汰になるとは思っていないが、絶句女子のメンバーとして斎君が百悪いとしてもある程度は弁護できるように有利な証拠を集めていたのだ。
「あら、数が少なかった? 私の確認漏れがあるかも。修正なら受け付けるけど」
「だからゼロね、ゼロ! 僕はファンに手を出したことないんだって」
「そうやって女の子騙して……」
やはり斎君の中で多少の火遊びはものの数に入らないのだろう。騙して付き合って、そのあと自分勝手に振ったりして、それでやっと手を出したになるのか。――ん? なにか身に覚えがあるけれど、まあ私はちゃんと自分で責任を持って行動しているから。斎君みたいに本能のままではないのだ。
「そんなこと言って、シズだってそうじゃないか!」
「……私は違うけど?」
沙也のことも尋ちゃんのことも遊びじゃない。目的のために仕方なく手段を選んでいないだけだ。斎君とは違う。
そう思って否定したけれど、
「僕のこと、散々もてあそんでっ!!」
「斎君のこと?」
本当に観に覚えのない話で、素で聞き返してしまった。
「なっ、なんだよっ!! シズのがよっぽどじゃないか! あ、あんなこと言って置いて……そんな知らん顔するなんて……」
「え? 待って、本当に何の話?」
私が斎君になにかしたか。そんなはずはない。
しかし、思い返すと斎君からは指導を受けるだけ受けて、その後特になにも伝えていなかった。沙也とのことはバンドメンバーにも内緒にしていて、斎君にも言っていない。
でも私が落とそうとしていたところに同席していて、斎君は私と沙也のことを付き合う前から知っている。今回の
「……そうだったね。ちゃんと言っておくべきだったかな」
なにをどこまで伝えるべきか。
そもそも私と沙也のことを伝える前に――。
「待って、そういえば斎君……言わなきゃいけないことがあるって言ってなかった?」
それで走って生徒会室に来ていたはずだ。
さっきまでの会話に、なにか緊急性のある話題はなかったと思う。
「そ、そうだった! シズが変なこというから……」
「私が悪いことしたみたいに言わないで」
はぁ、とため息を付く。どうせ斎君の話はたいしたことじゃないんだろう、そんな気がしていた。
「その、実は……つ、付き合っているんだ!」
「誰が?」
「フフだよっ!」
「…………え、どうしたの? そんなこと知っているけど。前から斎君と付き合っていたよね」
斎君と譜々さんが付き合っている。そんなことはバンドメンバー全員が知っていて、だからこそ今日はそれをどうするか話し合うつもりで呼んだのだ。
もしかして、なにかの冗談か? これから真面目な話をする前に、一盛り上がりつくろうということ? 沙也じゃないんだから、そんなふざけたことしないでほしい。私の人生にくだらない冗談は不要だ。薄っぺらな愛の次にいらない。
さっと流した私に、斎君は尚も深刻な顔で言う。
「違うって、そうじゃなくて……僕以外の人と……それも男の人と付き合っているみたいで……」
「どういうこと?」
急に、困ったことを言い出す。譜々さんが男と付き合っている? そんなの、絶対に問題だ。恋愛禁止以前に、男性問題なんて絶対にNGという話なのに。
「それが僕と仲のいい子が教えてくれたんだけど……あっ! 手を出してるとかないからね!? ちょっとお弁当もらったくらいで」
「それはいいから、早く教えて」
「……えっとそれで、その子がこの前、渋谷でフフとイケメンが仲良さそうに歩いているの見かけたって」
「…………へぇ」
たしかに、穏やかな話ではないが。
「別に歩いてただけでしょ? それに渋谷って人も多いし、見間違えかも。譜々さんじゃなくて、他の人で」
「フフの白い髪だよ? 見間違える? ……それに、あのフフがよく知らない男との人と仲良さそうに並んで歩くとこ、想像できる? 道案内とかするタイプでもないでしょ」
「……まあ、そうだね」
斎君の言うことももっともだった。
譜々さんの目立った外見は、渋谷の街中でもすぐに見つけられそうだ。おまけにあの譜々さんがたいして知りもしない男性と仲良さそうにすることも考えられない。
「その子が適当なこと言っているとか……ほら、斎君の気を引こうとして」
「写真も見せてもらった」
「……盗撮」
「あ! 一応、うまいことごまかして、写真は消してもらった。……昨日のこともあったし」
それは、上手くやってくれた。
「ありがとう、斎君もショックだったのに……ちゃんと対処してくれて助かるよ」
「あーうん……そう、だね。ショックはショックなんだけど……えっと、うん、二重で良い機会だから……その打ち明けたいんだけど」
「なに?」
「……僕とフフは、ちゃんとした正式な恋人同士ってわけじゃないんだよ」
斎君は、やや弱った笑顔で言った。
「詳しく聞いてもいい?」
「……えっと、まず騙してて……正確には騙してたってほどでもないんだけど、その」
「いいから、早く。細かいところは気にしないから、要点を早く」
「なぁっ!? こ、これでもけっこう複雑な事情で……僕も悩んだ末に話そうとしているんだけど……」
なにやら不満げだったが、今はそれどころじゃない。
斎君と譜々さんが実は付き合っていなかった。それだけなら、歓迎する話なんだけど。
「実は……僕とフフが付き合う前、半年くらい前だっけ? フフから、仮で交際しないかって言われて」
「へぇ、譜々さんから」
意外だ。てっきり節操のない斎君からかと思っていた。
「てっきり節操のない斎君からかと思っていた」
「……あの、話を優先するけど、さっきから僕の評価おかしいからね? そのせいで話が後に回ってたんだからね?」
「わかったから、早くして」
「…………えっと、いろいろ条件みたいのがあって、僕も少し悩んだんだけど、ほら、僕って純情でしょ?」
「冗談はいいから早くして」
「いや、大事なことで! 僕も、誰かと付き合ったことなかったし、いわゆるお試しみたいなことかなって……それで、フフと付き合うことになったんだけど……」
つまり何かしらの互いの利益で成り立っていただけ、恋愛感情故の交際ではなかった。
そういうことか。
「……それって」
「今思うと、本命の彼氏を隠すために……僕と付き合ってたんじゃないかなって気がしてきて……」
私も同じことを考えていた。嫌な予想だ。これが事実だった場合、かなり面倒なことになる。
「とにかく事情はわかった」
「う、うん。そういうことだから……」
恋愛禁止問題について、斎君のことは心配しなくていい。譜々さんのことだけどうにかできれば、あとは沙也との関係を私の都合で振れば解決だ。
「そういうことだから、僕はフリーなわけで……もしかしたら、シズもそこが気になってたなら、えっと歓迎だからってのも……わかってほしくて」
「うん、フリーでよかった」
「本当!? そっか、やっぱり僕に恋人がいると思って……それであれだけ思わせぶりなことだけして、気を引こうとしていたのか……」
「斎君、そのまま恋愛禁止でよろしくね」
なにかうれしそうな斎君に、私はちゃんと伝えておいた。
フリーだからってまたファンになにかされたら困る。私の注意に不満があるのか。
「シズ……ひどい……」
としょぼくれていたが、こればっかりは守ってもらわないと困る。
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