大佐 激闘の前触れ 編

第30話 首都星到着

 朝から俺は、ベッドの脇にある椅子に座って呆然としていた。

 

 「やべえ。めちゃくちゃ疲れてるわ。死にそう・・・」


 疲れている原因は大佐になったからじゃない。

 カタリナとフレンの事で悩んでいるのだ。

 彼女らは、アーヴァデルチェですれ違う度に睨み合いに入ってしまうのである。


 俺と一緒に居る機会が多いカタリナ。

 当たり前だけど、彼女の仕事のほとんどが秘書のような立ち位置。

 フレンに比べればよく会う関係である。

 それに対して、フレンは医療班。

 会える機会は少ないはずなのだが、用もないのにブリッジに来たりする。

 フレンは、彼女のどこが気に食わないのかしらないけど、澄ました顔で近づいて、睨んでは俺に抱き着いてくる。

 イタズラだと思うけど、大体これが起きると二人が必ず険悪になるから疲れるのだ。

 それにフレンは俺の事を気にいるわけがないんだ。

 だって、本物のアルトゥールさんじゃないんだからさ。

 何のために俺にアピールしてくるんだ?


 そしてそのせいなのか。

 最近、カタリナのお母さんパワーがモリモリ増してきた。

 世話好き母さんをはるかに超えて、世話焼き婆さんみたいになってしまったのだ。


 彼女のパワーがどれほどレベルアップしたかと言うと。

 俺の服がひとたび汚れれば気にして洗濯しようとし、食事の量が少なければ、もう少し食べなさいとおかわりがトレイに運び込まれ、少しでも咳が出ると体調を気にして休みなさいと小言のようにうるさくなっていた。

 さらにさらに、最終的には俺の水分管理まで買って出るようになってしまった。

 

 正直。しんどいです。

 俺一人の時間が無いに等しい・・・

 誰か、助けてぇ~。


 懇切丁寧なお世話は俺を少しずつ追い詰めていた。

 俺は仕事をするにも部屋から一歩も出なくなり、出来る限り二人に会わないよう努力していたのだ。

 



 

 「コンコン」

 

 部屋にノックが響く。

 二人のうちどっちかだったらと思うと、俺は怖くて出られない。

 

 「コンコン」


 さっきよりも少し強めに叩かれる。

 俺は急いで、ベッドに潜り込んだ。

 頭を出さないように、しっかり掛布団をかける。


 「コンコン」

 「おい、出ろよ。アルどうした? いるだろ?」


 小声で声が聞こえた。


 『誰?』


 そぉ~と扉に近づくと。

 

 「アル、俺だ。オリヴァーだ。誰もいないから中に入れろ」

 「待って、今開けるよ」


 俺は、扉のロックを解除した。

 ドアが開いた隙にスッと入り込んだオリヴァー。

 そこから間髪入れずに会話になる。

 

 「ここでどうせ籠っていると思ってきてみたらよ。なに、情けない顔して、こんなところに一人でいんだよ」

 「だってさ、外出たら二人が怖いんだもん。しょうがないじゃん」

 「はぁ~。そんなんでいいのかよ………まあ、それより、そろそろ首都星に着くんだぞ。準備しなきゃいけないんじゃないか? 色々さ」

 「う、うん。でもさ、表で準備すると二人がバチバチになっちゃうよ」

 「はぁ~。じゃあ、俺が二人に、お前の邪魔になるなら船から降ろすぞと俺が伝えてやるからさ。んで、それでも二人の暴走が止まらなかったら、本当に船から降ろせよ。……ま、俺の脅し一つだけでも有効だと思うから、降ろすようなこと事態にはならんだろうがな」


 俺はオリヴァーの意見に納得した。

 首を勢いよく縦に振って、救いの神が登場したと目を潤ませて抱き着いたよ。

 ちょっと離れろよ、気持ち悪い。

 男の趣味はねぇと言われても、俺はオリヴァー神を信じるよ。

 

 「まぁ。前からお前が言っていた首都星のブルデビュングの事だけどさ。めんどくせぇから、通称通りに、ブルデにするけど。ブルデの施設見学の許可はあらかじめ取っておいたからさ、これで到着早々で見学に行けるはずさ。俺も案内してやっから一緒に行こうぜ」

 「え!? ほんと。オリヴァーありがとう。助かるよ、じゃあ後は、俺が勉強すればいいだけか」


 細かい配慮が助かる。

 オリヴァーのおかげで俺は明るい表情に切り替り。

 早く調べものしなくてはと勉強道具を用意し始めた。

 

 「現金な奴だな。そんで、俺の仕事は全部やっておいたから、教えてくれよ」

 「何を?」

 「忘れたのかよ、お前の言っていた遊びさ。何だっけ!? 将棋とかいう奴」

 「ああ、ああ。そうだったね。いいよ。駒がないから紙に書いて遊ぼう」


 俺は基本の駒の動きなどから指南して、オリヴァーと徹夜で将棋を遊んだ。


 ◇


 次の日。

 オリヴァーは、二人を誰もいない会議室に呼んだ。


 「いいか、フレン。カタリナ。あんまりアルを困らせるんじゃない」


 オリヴァーは、子供に言い聞かせるかのように優しい物言いであった。


 「フン、困ることなんて、アタシはしてないぞ」

 「わ、わたしだって」


 フレンはそっぽ向いて話し、カタリナは困った表情で前を向く。

 そこにオリヴァーは、指一本前に出して二人を指さしていった。


 「いんや、お前らはアルを困らせているんだぞ。…まず、フレン。お前は、何も用事がないのにアルに話しかけてるだろ、それにカタリナの前だと対抗意識を出し過ぎてるんだ、あいつはな。女性が争っている所を見ると緊張すんだよ、怖いって思ってるぞお前らの事……それによ、あいつに直接的アピールは逆効果だ。お前たちが思っている以上に心は少年、初心なのよ。女性慣れをまったくしてないんだぞ。これ、他の人に言うなよ。内緒な………あと、カタリナ。君も何かと世話をし過ぎだ、あいつは子供じゃないんだぞ。必要な時に必要な分だけの世話をするように心がけろ。それにあいつは押しの強い女は好きじゃないぞ。きっとな」


 二人は戸惑いながらも、笑顔で話すオリヴァーのありがたいアドバイスを黙って聞いた。

 二人は納得したのかそのまま自室に戻っていった。


 「よし、俺の仕事はここまでだな」


 彼は、これのどこが仕事なんだと思いながら、ブリッジに入り、宇宙そらを見つめて、首都星到着を待った。



 ◇


 艦長室で勉強を開始して5日が経った頃。

 部屋に、呼び出しがかかる。


 「大佐。まもなく首都星ブルデに着きます。ブリッジに来ますか?」

 「お、うん。じゃあ、今から行くね」

 「はい。お待ちしております」


 カタリナからの連絡を受けて、俺は中央部にある艦長室から、階層二つ分上のブリッジまでの距離を歩く。

 途中、艦隊員とすれ違う。


 「大佐。おはようございます」 「うん。おはよう」

 「大佐、いい天気ですね」 「え!? そ、そうだね」

 「少佐。お元気ですか」 「げ、元気ですよ」


 気軽に声を掛けられて、ちょっと嬉しかった。

 けど・・・・。


 すみません。今、いい天気ですねって聞かれたよね。

 あれ、どういうことなんでしょう? 

 外は宇宙だよ。隕石しか見えないんですけども?

 それに、今の俺。大佐なんだけど。

 さっきの子、少佐って言っていたような気がするんですけど。

 俺は、どうでもいい疑問を持って歩いていた。


 ◇


 ブリッジに到着。

 いつものメンバーがしっかり自分の仕事をこなしていて、俺を待っていた。

 

 「大佐、ご苦労様です」

 

 全員が敬礼する。

 

 「はい、皆さんも」

 

 軽く皆に挨拶をして俺はオリヴァーに近づいた。

 

 「うわ、デカいんだね。首都星ってさ」

 「ああ、お前、この規模の星は見たことないだろ」

 「うん」

 小声になって皆には聞こえないように話した。

 

 首都星ブルデは、全長1.7万kmの大規模惑星である。

 そこに住む人々は驚異の100億人。

 銀河連邦最大の人口数を誇る惑星。

 連邦の首都星と呼ぶにふさわしい大きさで、さらに重要な設備を揃え、それらが機能するために、軍部の本拠地も置いてある。

 巡行している又は別惑星に駐屯している艦隊を除き、ほぼすべての艦隊はここに待機状態となり、他にも惑星があるので攻められる心配はないが、いつも警戒を怠らずにいる。

 

 「アル大佐。ブルデに着陸と着港の連絡をチャチャッと入れちゃいます」

 「はい、お願いするよ」

 

 イネスの言葉は軽いが、テキパキと本部の軍と通信をしている。


 「大佐、着陸態勢に入ります」

 「はい。頼むよ」


 いつもしっかりしているウーゴが帰港航路を選択している。


 「大佐。……急ぎ降りるであります」

 「い、いや、やめてくれ。頼むからここで何かあったら困るからゆっくり降りてくれ」

 

 俺は、冷静にツッコミを入れた。

 

 「ええ~」


 不満そうなリリーガは口を尖らせた。

 ええ~、じゃないよ。

 何でただ星に降りるだけで急ぐ必要があんだよ。

 この子、やばい子ですよ。

 誰か、ここにいる皆さんだけでも気づいてぇ。


 俺が彼女を抑え込んだことで、首都星に無事到着。

 

 「よし。今から動くか」

 「いや、待て。ここから本部の検査が入るから、一日は待たんとな」

 「そ、そんなに!?」

 「ああ、ここは首都星だからな、チェックが厳しくてめんどくさいんだよ」

 「そ、そっか」


 意外にも連邦はこういう細かい事に厳しいらしい。

 俺たちは管理の人たちが艦隊をチェックするのに、時間を要した。

 

 その間、暇なので俺は情報を整理して、次に何をすべきかを予習していた。

  

 今、俺に必要なことは、何を隠そう人と兵器しかありえない。

 欲しいポストは武器開発のエキスパートだ。

 帝国の技術、そしてあの女の子が乗っていたグリフォンの技術。

 あれらに追いついていかないといけないのだ。

 俺たち連邦の技術を遥かに上回る技術だろうからね。


 俺は、皆と明日を生き抜くために、頑張らないといけないんだ。

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