第29話 エピローグ

 俺に親友が出来た翌日の事。

 アーヴァデルチェに帰還した俺は、首都星に戻る準備をしていた所に緊急召集の連絡が届く。

 端的に言うと『今すぐ、ゲルドスタンに来い』とのこと。

 少将の焦りが文面から伝わる内容だった。



 俺は、急ぎ軍服に着替えて、同じ港に待機中のゲルドスタンへ向かった。


 息が上がる俺が会議室に到着した時。

 少将はいつもの面持ちではなく、落ち着かない緊張した面持ちであった。

 そして、もう一人が少将といた。

 隣りのモニターに人が映っていたのである。

 威風堂々としていて、覇気のあるお爺さんだ。

 黒い髪に黒の髭でダンディーだなと思った。

 入室早々だけど俺は、右手で美しい敬礼をする。

 これはオリヴァーにみっちり教わったことだ。


 「少将、アルトゥール少佐であります」

 「よく来た少佐。こちらに近寄ってきてくれ」 


 この人、誰だろう?

 少将が案内するモニター前に俺は歩き出した。

 モニターに映る人は笑顔ではある。

 でも、直に会ってもいないのに威圧感があった。

 少将は、今までに見たことがないくらいに緊張しながら紹介してくれた。


 「ゴホン。少佐、このお方は銀河連邦大将、マルドラン・ブルーデン大将だ。……私は、このお方の直属の配下である。……少佐にぜひ会いたいとのことで、モニター越しだが、来てもらった。では、少佐、挨拶を」


 えっ!?

 そんな偉い人が俺に!

 大将ってたしか、上から数えた方が早いよね。

 だいぶ偉い人だよね!?

 

 「はっ。私が、アルトゥールであります。若輩者でありますがよろしくお願いします」

 「うむ。いい眼をしている。アルトゥール少佐、此度の戦いよく凌いでくれた。おそらく、お主がいなければあの戦争は負けていただろう。……それに、もし大敗していれば、軍部における私の権限も低下していたであろう。お主のおかげで、私の名誉も守れたのだ。ありがとう」

 「あ、あ。頭をお上げください、私なんかの為に下げる必要などありません」


 俺はめっちゃ慌てた。

 素直に頭を下げてきた大将さんは、丁寧な人である。

 とにかく早く頭をあげてくれとアピールした。


 「うむ。だが、まだ話がある。……此度の戦の責任で少将が、窮地に立たされるかもしれない可能性が出てきたのだ。これはもう私の力でも止められそうにない。そこにいる少将が、もし降格などになった場合、おそらくこの銀河連邦の軍部のひずみも同時に出てくるのだ」


 無念そうに話す大将は続けて。

 「実は連邦には派閥があるのだ。厄介なことにな」

 大将はうんざりした顔をした。

 派閥や、その争いに辟易しているのかもしれない。

 まあどこにでもあるんでしょう。

 どの世界にもさ!


 「そこでだ、お主。わしの旗下に入ってくれんか? 少将を守るためにもお主の力を借りたいのだ」


 なぜ自分があなたの旗下に入ると少将を守れるのでしょうか?

 と疑問に思ったけど。

 結局はここは、サラリーマンと同じなんだよ。

 上司の命令は絶対である。

 少しも悩まずに答える。


 「はっ。大将閣下がお望みとあればご協力いたします。しかし私のような何も力のないものが、閣下の旗下に入ったとして、それが少将を守ることに繋がるのでしょうか?」

 「それは大丈夫だ。少将が大抜擢したお主なのだ。お主が今後活躍してくれれば、その実績で、なんとかできるであろう。それに私としてもお主の力をもっと知りたい。……しかしだがな今回の件で、軍部と政治家のあほどもが、勝手にお主のことを大佐にしてしまったのだ。私としては本当は中佐にして順を得てほしかったのだがな」


 大佐!?

 俺が大佐?

 マジで、二階級特進じゃん。

 死んだみたいじゃん。 

 あ! 俺一回死んでんじゃん!

 ならいっか!

 

 大将は俺をどうやら大事に育てたかったらしい。

 いきなりの昇進は避けたかったらしいのである。


 「お主は昇進を引き受けねばならぬのだが、良いか? まあ、聞いてはいるが、拒否権がないのは、申し訳ないがな」

 「はっ。ありがたく頂戴いたします」


 敬礼をした後、深く頭を下げた。 


 「うむ。少佐から大佐になると妬む輩も増えると思うが、まぁそこは頑張ってくれ。そこで、ワシからの詫びで何か願いをかなえてやるぞ。多少のことなら、こちらで何とかする。何かしてほしいことはあるか?」


 俺は、モニターの大将の顔を見つめ返答する。


 「では閣下。わがままをいくつかよろしいでしょうか」

 「よい」

 「では、私の部下に加えたい者がいます。…補佐官にオリヴァー・クライシス。補佐官兼医療班長にフレン・アルトメシア。この両名を加えてもよろしいでしょうか。…それと今いる我が艦の部下たち皆を、そのまま私の直属の部下にしてもよろしいでしょうか?」

 「そ、そんなことでよいのか? それなら簡単に願いを叶えることができるぞ。他にはないのか?」


 大将は、あまりにも簡単すぎることだと、俺の願いに驚いた。


 「はっ。ではもう二つ、約束してもらってもよろしいですか」

 「なんでも言ってもよいぞ。叶えられる範囲でな」

 「それでは、今後、私の艦隊に関する人事権を丸ごとください。人事の部分で、他の人間に介入されたくないのです。それともう一つは、私に海賊と戦う権利をください。海賊は、私の手で必ず全滅させたいのです」

 「う、うむ。先の孤児院の悲劇じゃな。それならばなんとかしよう。部下の件はワシが大将である限り、必ずその願いを叶えてやろう。二つとも、簡単な願いなんだが、他には良いのか?」

 「はっ。十分すぎるほどの願いを聞き入れて頂きありがとうございます。このご恩は忘れません。私の願いは全て叶ったも同然であります」

 「こんな願いで十分なのか、お主は謙虚だな・・・・・では少佐、いやこれから大佐であるな。大佐、頑張ってくれたまえ。以上」

 「はっ」


 画面が切れてから、少将にも挨拶をし、ゲルドスタンから降りた。


 


 そこから数時間後・・・・・

 連絡を取り合い、二人に来てもらった。


 「アル、もう大佐なのかよ」

 「フン、アタシもアーヴァデルチェに乗れんのか」


 少し困惑したオリヴァーと若干うれしそうなフレンが俺のそばにいる。

 食堂に行く道のりで、歩きながら話す。


 「実はさ、無理くり大佐になったお詫びで、大将閣下が願いを叶えてやるって言ってくれてさ。二人の事お願いしてみたんだ。そしたら、今後。俺たち三人で頑張れるようになったんだよ」

 「「マジかよ」」


 二人がシンクロした。


 「それに、二人とも俺の補佐官になったから。後で正式に連絡が来ると思うけど、少佐にも昇進したからね」

 「「マジかよ」」


 二人の目の驚き具合もシンクロした。

 艦隊員は休みの日だったが、俺の一声で部下たちが食堂に集まっていた。

 大体、80人ほどである。

 

 「みんな、集まってもらってすまないね。いつものように楽にしてくれ」

 「はーい」


 この緩々の雰囲気。

 軍としていいのだろうか。

 大丈夫かこれ!?

 ま、いっか!

 

 「おい、アル。大丈夫なのかこの艦」

 「アタシはこういう雰囲気好きだぜ。イイ雰囲気だ」


 俺の左右の耳に、二人が同時に耳打ちをした。

 うん。言いたいことは分かる。

 俺も今この人たち、大丈夫かなぁってさ、思ってるよ

 不安でいっぱいになっちゃうくらい緩いんだ。

 でもいいっしょ!


 「今度から、俺の補佐官になるオリヴァーとフレンだ。今後は皆の上司になる。仲良くやってくれると嬉しい。あとこの二人は後で少佐になるから。じゃ二人とも挨拶頼むよ」

 「俺はオリヴァーだ。アルの片腕としてこの艦で頑張るからよろしく。ま、俺も楽な方が好きだから、気軽に声を掛けてくれ」

 「アタシはフレンだ。よろしく」


 二人の性格がもろに出た挨拶である。

 オリヴァーは古株である皆に気を使い、フレンは長く話すのをめんどくさがった。

 

 「ほ、ほさかん・・・・・わ、わたし・・・は」


 ものすごいショックを受けて、目がパチパチしてるカタリナさんがいました。

 俺の補佐官になりたいって言ってたもんね。

 ごめんね。

 な、なんか悪い気がするから、少し声を掛けて元気づけよう。


 「カタリナ君。元気を出して。まだ君は少尉なんだからさ。今後可能性があるよ・・・たぶん」

 「ほ、ほんとうですか。少佐」


 希望に満ちた瞳を向ける。


 「もう、少佐じゃないけどね」

 「あ。すみません。大佐」


 敬礼をし直したカタリナさん。

 いい目になってくれたので一安心した。 

 でもここで、フレンが思いもよらない一撃を放つ。


 「アタシが先にアルの補佐官だからな。あんたが、たとえ、万が一、後から補佐官に入ってきても、アタシが先だからな。お前は後。アタシの下には変わりない」


 フレン、な、何を言ってるんだ。

 なんで張り合ってんだよ。

 それに、せっかく気を取り直したのに。

 とどめの一撃をかますなよ。


 「は、はい・・・」


 ああ、カタリナさんがまたしょぼくれてしまった。

 元気が出そうだったのにさ!

 おい、フレン。よくも余計なことを言ってくれたな!?


 「あと、こうだからな。お前はここに入れんぞ」


 俺の腕に人の温もりが!?_

 あれなんだろ?

 フレンが両腕を絡ませてきていた。


 え。え。え。

 えええええええええ

 腕組みですよねこれ?

 ど・・・・・ど・・・・・どういうこと!?


 端から見れば、俺とフレンがラブラブに見えるよ。

 その衝撃の構図により、食堂がざわつき始める。


 「え、あの人。少佐の彼女なの!?」

 「えええ、てっきり、私は、カタリナさんが彼女だと思ってたよ」

 「俺も」「私も」「二股か」「二股なのか」

 「え、あの少佐が二股出来るの?」「出来そうにないよね」

 「そうだよね」

 

 食堂にいる半分くらいの仲間たちは、二股するのという軽蔑の目を俺に向ける。

 いや、ありえんから。

 俺はそもそもカタリナさんと付き合ってないし。

 でもなんかカタリナさんの目とフレンの目から火花が見えます。

 バチバチって見えるよ!

 この場の空気が修羅場になって、ワタクシ、阿鼻叫喚でございます。



 「フゥー」


 オリヴァーは一人、ため息をついた。

 

 ねえ、オリヴァー助けてよ。

 ため息じゃなくてさ。

 ね。ね。ねぇええええええ。


 俺は、必死な形相で助けを求めたのに、オリヴァーは即座に目を背けた。

 ちょっとオリヴァー。オリヴァー!!!!!


 「オリヴァーーーーーーー」


 最後は思わず声が出たのだった。

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