第31話 見学

 艦隊チェック中。

 食堂にて、俺とオリヴァー。それにウーゴが共にいた。

 

 俺たちはテーブルの上に、紙に書いた将棋盤を置いて、分厚い紙を駒に見立てて遊んでいて、ウーゴは別のテーブルの上でノートを広げて、真面目に艦隊運動の研究をしていた。


 「いや~、ほんとにさ、検査に一日も使うんだ。ササッとやれそうなことに時間を使うのってさ。なんか馬鹿みたいに無駄じゃないか?」

 「まったくその通りだ。この制度、変えたほうがいいよな。どれ王手」


 オリヴァーが王手してきた。


 「ほんとほんと。……それでさ。今後のことをオリヴァーに言ってなかったんだけどさ」

 

 その王手は、まだ甘い。

 あっさりとかわして、数手が進み。


 「ああ、そういえばお前の今後の計画を聞いてなかったな。これでどうだ。王手」


 再びチャレンジしたオリヴァー。


 「うん。俺的にはさ、まず人材発掘がしたいんだ。特に研究部門の人間が欲しい」


 また王手を軽くかわす。


 「へぇ~、王手」

 「んで、その新しい人とさ……新たな我が艦隊の戦略を、オリヴァーとウーゴと共に練りたいんだよね」

 「へぇ~、そうか」

 

 オリヴァーは、盤面に夢中でうわの空である。


 「ちょっとオリヴァー、俺の話、聞いている? 人の話を聞いてるかい?」

 「おう、聞いてる聞いてる」

 「はぁ~、絶対噓でしょ、今、俺の目見てないもん。……よし、それじゃあ、そろそろ終わらせるよ。はい、王手。オリヴァーこれで負けだよ。実はずっと前からオリヴァーの玉は終わってたんだけどね。泳がせてたんだ」


 余裕で躱してからのカウンターの王手であった。

 オリヴァーは数手前から詰んでいたのである。

 

 「ああ、ああ。待った待った。その手には、気が付かなかった。数手戻ってくれよ。頼むよアルぅぅ」

 「いや数手戻っても終わってるから。はい、ここで休憩終わりね。ウーゴ。行こうか」

 「そ、そんな~」


 オリヴァーは、口を尖らせてもう少し戦ってくれてもいいじゃねぇかと言っている。

 将棋にお熱なオリヴァーは、俺が教えてからずっと手を考えているらしい。

 休み時間の度に俺に勝負を仕掛けてくるくらいに好きらしい。

 

 「ウーゴ、君も俺の隣に来てくれないか? 振り向きながら話すのがさ。なんだか話しづらくてさ。あと、あんまり俺に遠慮しないでね。君も俺の重要な友達なんだ。これからもいろいろ頼りにするから、絶対遠慮しないでくれ」

 「え、えええ。ああ。あああああ!? そそそそんんんな・・・・こここ、光栄です」


 ウーゴは泣きながら答えた。

 今の会話で泣く場面があったのだろうか。

 彼が感動して、打ち震えているのはなぜだろうか。


 「いや、だから、そんなに緊張しないでよ。お、俺も緊張しちゃうからさ」

 「・・・・では」


 意を決した表情のウーゴが歩き出して俺の隣に座った。

 体を小さくしてかなり恐縮している。


 「ウーゴも慣れてきたってことで将棋を・・・あ」

 「検査は完了しました。検査は完了しました。これより、自由です」


 アナウンスが流れた。

 だから。


 「出ていってもいいんだな。よし。ウーゴも一緒に行こうか。さ、いくよ。オリヴァー」

 「はい」「もう一勝負頼むよ。アルぅ」


 俺の隣にウーゴ、後ろにオリヴァーで軍本部へと向かった。



 ◇


 軍の本拠地にある設備は部門ごとに分かれている。

 研究。開発。訓練。

 この三つに分かれていて俺たちが向かう場所は研究部門。

 この研究部門は、現在8棟に分かれている。

 ビーム。装甲。ミサイル。運航データ。通信。エンジン。戦闘機。艦隊。 

 これらを専門的に研究することになっている。


 「なんでこんなに研究部門は細かく分かれてんの?」

 「それはな、この連邦のしがらみってやつさ、元々三つの国が一つになった弊害って言えるな。それによ、開発部門も、訓練部門もこういう風に細かく分かれてんだぜ、あほくさいよな。めんどくせえ」

 「そうなんだ。なるほどね」


 オリヴァーはくだらねぇ国だよなと言いながら口笛を吹いていた。

 確かに彼に言うとおりに細分化されていて、意味がないように思う。


 「大佐。あっちのガラス張りで高さのある建物がビーム研究所ですよ」

 「お、ウーゴ、ありがとう。ここらの地理に疎くてね。助かるよ」


 そもそも俺は、施設の場所など分からない。

 初めて来た場所である!


 「いえいえ、こんなこと当たり前のことですから」

 

 ウーゴは、爽やかに笑った。



 ◇


 ビーム研究所にて。

 事前連絡しておいた研究員の人と会話した。


 「すみません。提出したデータの事で、改めて分かったことがありましたか?」

 「大佐、申し訳ありません。大佐がおっしゃっていた、黄金に光るビーム。それを連邦が再現することは、技術的に難しいかと思います。お話を聞く限り、その威力は一撃必殺。それほどの威力を誇るものを作るのは至難の業です。現在の連邦では出来そうにありません。悔しいですね」


 白衣を着た紳士な40代の男性が、疑問に答えてくれた。


 「そうでしたか。やはり無理ですか・・・・・いろいろお仕事していた所にお邪魔して申し訳ありませんでした」

 「いえ。こちらこそ大佐のお役に立てず申し訳ありません」

 

 互いに謝って、俺はこの場を後にした。

 次の目的地へと行く道中、俺は考え込んでいた。


 やはり彼女のビーム兵器がおかしいんだよ。

 強力過ぎる。

 そして、あれがもし敵に回ったりしたら、俺がどう戦略を組んでも一撃当てられれば終わりだ。

 そんなの戦局を一変させて、敗北ルートだよ。

 だってさ、攻撃を食らい過ぎれば、絶対にその戦場を立て直せないよね

 まあ、彼女が敵になるかどうかは分からないけどさ。

 一応、帝国にもあんなの物が出てこないとは限らないし。

 警戒だけはしておかないと。


 ◇


 その後、俺たちはウーゴが必要としていた運航データ研究所にも行った。

 さらなる艦隊運動を模索できると、嬉しそうに研究データを移行した端末を持ったウーゴを連れて、お昼にすることに。

 

 「アル。ここのメシはな・・、俺が言うよりも行った方がはやいな。研究塔、西エリア。そこに着けば、わかんだぜ。俺らの食堂にも引けを取らんことをな、ニシシシ」


 自信満々なオリヴァーはニコニコ笑っていた。

 

 目的地へと近づくといい香りがしてきた。

 匂いで目が冴える。

 もはや俺の心は感動の領域を超えた。


 まじかよ。この匂いはソース!?

 粉ものだぁぁぁあああああああああ


 

 俺は走った。

 匂いのする方に。

 すると、開けた場所にあったのはフードコート。

 ショッピングセンターや高速道路と同じようなものだった。

 

 あ、から揚げ串だ。マジかよ、コンビニにもあるやつじゃん!?

 こっちには、ソフトクリームもあるぞ。

 な、なに。牛丼だと。かつ丼も。

 何で、この世界は、日本の料理ばかりあるんだ!?

 いやいや、そんなことどうでもいいや。

 神様ありがとう、この世界に来てから食事が合わないことが無くてさ。

 これだけでもこの世界に来てよかったよ。


 俺は、食べられる分だけ、料理を注文してテーブルに着いた。

 

 俺は牛丼とから揚げ、フライドポテトにクレープを頼み。

 ウーゴは天丼、オリヴァーはカレーを持って来ていた。

 二人はどんだけ食うんだよと俺のことをじ~っと見つめていたけど。

 そんなの関係ねえ。

 食事は生きるのに大切なのだよ。二人とも!!!



 食の神様に感謝をして、口いっぱいに頬張っていると、遠くの方から声が聞こえた。

 やけにバカでかい声であるのに、周りの人たちは無視していた。

 

 「ワシになんで仕事を任せないのだ。そんなことでは帝国に後れを取って、敗れるのだぞ。なにが派閥のせいで開発が出来ないとかほざいている。ワシがそんなもん取っ払ってやるわ」

 「ですから、そんなのは上に言ってくださいよ」


 必死な形相の年配男性と白衣を着た中年男性が言いあっていた。

 真剣な年配男性が気になって、俺はクレープと牛丼を慌てて食べきる。

 男性が最後、開発は相手よりも先にやらねば意味がない。

 彼がそう言ったので俺と同じ意見だと思い、追いかけてみた。 


 「はぁはぁ。すいません。そこの人ちょっといいですか」 

 「なんだ、色男。ワシはお前みたいな男を知らんぞ。・・・・・ん!?もしや、お前はあの式典にいたアルトゥール少佐、今は違うな。大佐ではないか? なぜこんなところに」

 「あ、はぁはぁ。は、はい。アルトゥールと申します。急に声を掛けてしまい、大変失礼致しました。さ、先程の会話が聞こえてきて、気になってしまい、一体、何のお話だったのでしょうか?」


 少し裾が汚れている男性は、顎に手をかけ照れくさそうに答えた。


 「あ、まぁ、なんだ、あれを聞いておったのか。・・・・うむ。怒ってたのも聞いておったのか。さっきの話は研究部門の連中と喧嘩していたんだ。ワシの数度にわたる進言を無視しおってな。あれは、いつもあいつらに言っていてな、各部門が連携して研究せねば、いずれは帝国に負けるとな」


 おお。やっぱりこの人、俺と同じ考えだ。

 なんで研究が分離してるのかが謎なんだよ。

 あと開発との分離とかもおかしいよね。


 「そうですよね。自分もそのように思ってます。開発が遅れれば、それこそ敗北も・・・あの、失礼ですが、お名前を知りたくて、お聞きしてもよろしいですか?」

 「なに。あんたも同じ意見か。見どころある男のようだな。ハハハハ。………ワシはイルタール・フランゴだ。元ビーム研究部門の部長だった者だ。大佐よろしく」

 「ええ。よろしくお願いします」


 がっちり握手をした。


 「俺もイルタールさんの言ってることが正しいと思ってます。ずっと不思議に思っていたんです。なぜ研究部門がバラバラになっていて、開発部門とくっついていないのか。研究開発部門になっていれば、もっとスムーズに開発できるじゃないかって」

 「おお~。お前さんは、本当に話が分かる男だな。そのとおりなんだよ。研究しても開発と連携が取れてない。その研究にしても多岐に渡りすぎてさらに連携が取れてない。まったくもってここ数年新兵器が開発されてないんだよ。研究者どもは今までのデータとお付き合いしてるだけなんだ。予算がどこに消えているのだか」


 おいおい。マジかよ連邦。

 どうなってんだ連邦の構造はさ。

 やばいよね。かなり。

 金は百歩譲っていいとして、数年も新兵器がないだと!?

 そんな馬鹿な!

 

 「おいおい。アル、急に走り出すなよ」


 追いかけてきたオリヴァー。


 「ぜぇぜぇ。大佐いきなり走るからびっくりしましたよぉ」


 それとウーゴ。


 「ごめんごめん。イルタールさんにお話聞きたくてさ」


 俺は二人に謝った後に、またイルタールさんに話しかける。


 「あのぉ~。イルタールさんは、研究を総合的にやればいいとお思いなんですか?」

 「そうだとも。……だがワシは一部は専門的でもいいとも思ってる。しかし、その場合は、せめて横のつながりとして連携を密に取ってほしいのだ。例えば、ビームとミサイルは兵器として同じ部門でもよいだろ。こんな風に部門を少しずつ一緒にして連携を取りやすくしてほしいのだ。……でも、絶対にそうはならん。なぜだと思う大佐?」

 「それは・・・・・」


 合理的でないと思っても、この世界そもそも戦術すらない脳筋世界。

 いかにそれが効率的だと上層部に説いたとしても。

 きっと上層部は、フローシア大佐たち以上の更なる脳筋なんじゃないのか?

 これって、単純なことなのになぁ。あ、頭が悪いんじゃ・・・・。

 いや、言うのは止めておこう・・・。


 オリヴァーが代わりに答えた。

 辟易していて右手を振っていた。


 「それは、派閥のせいだな。……アル、ここに来た時に教えたろ。銀河連邦は元々は三国だ。各国の出身とかいうすげぇくだらねぇ言い分があるんだよ。私はサマルトリア、私はアバロン出身だとかな。ほんと、くっだらねぇ。同じ連邦の仲間でいいじゃねぇか」

 「おお。そのとおりだ小僧。お主も見込みありだな。……そのくだらないもののせいで連邦の艦隊の研究は遅れていっているんだ。おそらく帝国より1世代いや、1世代半くらいは遅れているかもしれん。このままでは連邦も帝国に飲み込まれる可能性が出てきているな」


 おいおい。まずいんじゃないかそれは。

 今が仮に1世代半遅れているとしたら。

 単純計算すると、最低でも軍量が2.5倍以上はないと勝てないぞ。

 ん!? そうか。

 前回のデルタアングル戦。こっちが3万3千、相手が2万。

 そもそもこっちは艦隊数が足りてなかったんだ。

 数字上の数値で判断したら駄目だな。

 性能差も考慮しなければ。なるほどなるほど。

 あ、だから戦闘艦の能力の違いで、フローシア大佐の所は2000隻も数が上回ってたのに、いなされ続けていたのか。

 やばいな。これは、本当にやばいぞ!?

 連邦は勝つ気があるのか?


 黙って悩む俺を尻目にイルタールさんの話は続いていた。


 「そこでワシが研究長に怒っていたというわけだ。あやつも頭が固くて駄目だな。他の奴も硬い奴ばっかだしの」

 「そうでしたか。でも、私もイルタールさんと同じ立場なら、きっと同じことを言いますね」

 「おお。おお。大佐は本当に話が分かる奴だな。ちょっとワシに付いてきてくれないか? 会わせておきたいのがいる。これほど話の分かる人物なら・・・・・」


 イルタールさんは何かを期待していた。


 「は、はい」


 だ、誰に会うの!?

 緊張するんですけど。

 なんせ、いきなり会うんじゃなくて、前もって言われるとさらに緊張します。

 人見知り特有の顔合わせの前の段階が一番ドキドキするんですが!?

 勢いで誰かと会う方が緊張しないんだけど。


 こうして俺は、些細なきっかけで、隠れた銀河連邦最強の研究者と会うのでした。




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