第27話 脱出

 「な、なに!? なんでそのことを。待て。君の声、どっかで聞いたことがある。あの時の店長さんか!?」

 「ええ、ええ。そうです。あんさんえらい目に遭うてますね。攻撃してきてんの海賊ですやろ。テレビでも中継されてますよ。よくあの集中砲火の中で生きて、あんさんよほど運がいいんですな」

 「海賊!? いやそれより、この耳飾り、わざと俺によこしたな。君の目的は何だ?」

 「いんや~。うちは、ただあんさんにちょ~~~~っと興味が湧いただけなんや。あんさんの事。勝手に盗聴しちゃって申し訳ないね……そうそう。そこからどうやって逃げる気なの。うちが手伝いましょか?」

 「君が? この状況で手伝えるのか?」

 「艦1つ向かわせることができまっせ。うちが撃退しましょうか?」

 「そ、そんなことができるの? 店長さんなのに!?」

 「ええ。お願いされたら、すぐに向かいま~す」


 俺は部外者である店長さんとリズム良く会話できたおかげで冷静になっていた。

 分析をし始める。

 

 海賊が来てるって言ったな。

 ということはもしかしたら、奴らの狙いはここでもあるけど。

 俺たちかもしれない。

 アルマダンの繋がりかもしれないぞ。 

 海賊から恨みを買っている可能性が高いからな。

 しかも今回俺たち三人が揃ったんだ。

 だから狙ったかもしれない。

 どこかでこの情報を得て、ここを襲ったんだ。クソ。

 俺たちが狙いなら・・・。


 「いや待ってくれ。ここだけが狙われているなら、周りには被害がないはず。だからここら全体を戦場にしてはまずいんだ。何かここら辺の地図とか情報をくれないかい」

 「ほなら、口頭でそこらの地図を教えましょうか」


 孤児院周辺の地図と情報を教えてもらった。

 常に紙とペンを持っている俺は、明かりがないことだけが不便だったけど、次々に彼女に言われたことを紙に書き記していく。


 よし、ここから地下道まで繋がっているな。

 若干離れていて、この海賊どもが気付きにくい場所を探さないと。

 ん~。・・・ここから北西のヘンプと呼ばれる場所がいいな。

 でもここからは4kmもあるな、急がなくては。

 

 「ここのヘンプに艦を向けてくれないか。あと治療用の道具とかないかな? こっちに重傷者がいるんだ」

 「いいでっせ。ヘンプね。ほな、こっちはそこに向かいますよ……あと、治療の道具は艦に用意があるんで、心配せんでもよろしいですわ」

 「ありがとう。ではこちらは、今からヘンプに向かうよ」


 通信を切った後、俺は皆に事情を説明した。

 

 「アルトゥール様。この地下室から地下道につながるような道はないんですが・・・」


 院長は申し訳ないと眉をひそめた。

 

 「いえ、大丈夫です。誰かライターを持っていませんか? 火が欲しいんです」

 「アタシがもってる。ほれ」


 フレンが俺に向かってライターを放り投げた。


 「ありがとう。これで壁を壊すので、反対側の壁に。皆さん、非難してください」


 俺は部屋の西側に立ち、皆は東に寄る。

 俺は内ポケットから小瓶を取り出す。

 

 「おい、アル。なにするつもりだ。それは何だ?」

 「これはね・・・。まあ見ててオリヴァー、ちょっと待ってて。爆発させたら言うよ」

 「爆発!?」


 俺が持っているのは、エルミロンの液体。

 壁と地面の隙間にこの液体を少しだけ流し込んでいく。

 俺はそこから10歩以上離れて、瓶にある残りの液体にライターで点火した。

 燃え盛る小瓶を持って、壁に投げつける。 


 すると、瓶の炎と壁にしみ込んだ液体が反応する。

 小規模の爆発が起き、見事壁の破壊に成功した。


 「これは・・・・」


 オリヴァーは驚いていた。


 「これさ、前に勉強したことがあって。これが、エルミロンの特性らしいんだ。状態の違うエルミロン同士をぶつけると爆発するみたいで。いつかこれを利用する時が来るかもと思って、俺は常に持ち歩くようにしてたんだ。いや~たまたま持っててよかった」


 皆。ポカーンとした顔をしていた。

 驚いたのかな。これってあまり知られていない事なのか?


 「まあいいか。皆さん、急ぎますよ。この地下道にいくには、下水道を渡らないといけませんからね。えっとここから北東に出て、迂回しながら北西のケンプに行きます……では、行きます」

 

 俺たちはこの小さな穴から脱出を図った。


 「皆、俺についてきてほしい」


 俺は一度も道を間違えずに全員を誘導しながら、複雑な地下道を進んでいくと。

 ある程度の所で、オリヴァーが俺に話しかけてきた。


 「アル、お前来たこともない道をよく迷わずにいけるな」

 「まぁね。オリヴァーはわからないと思うけど、ゲーマーにはマッピング能力があるんだよ。彼女が教えてくれた地図と自分の位置さえ分かっていれば、後は迷うことはないんだ」

 「フン、喋ってねぇで急げ。この子を早く助けたいんだ・・・・・すげぇなお前」


 フレンは俺を急かした。


 「わかってるよ。あと最後何言ったの?」

 「フン」


 俺の耳には最後の声が聞こえなかった。

 あと、彼女は横を向いてしまったんだ。

 でもずっと俺のことをちらちらっと見ている。

 まあ、別に怒ってるわけじゃなさそうなので、俺は気にせず進んだ。


 ここでは、歩ける子供は大人と手を繋いで。

 怪我をした子供は大人が抱っこした。

 これで急ぎ、地下道を駆け抜けていったのだ。

 砲撃の音は地下道にも響いてる。

 でも初期の頃に比べればさすがに鳴り止んでいる。

 でもまだ奴らは攻撃を続けているらしい。

 しつこい。

 執念のようなものを感じる。



 ケンプ付近の地下道まで来ると砲撃とは別の音が聞こえた。 

 

 「これは、戦闘艦の音だぞ。味方なのか? 表に出ても本当にいいのか?」


 オリヴァーが聞く。


 「たぶん大丈夫なはず。さすがにここまでは、ヘリですぐには来れないはずだし。海賊が艦隊をこっちに回すとは考えられない。だから救援だと思う」


 俺が最初に梯子を登る。

 上がりきった場所に彼女はいた。


 「あ!? アルさん、もうこんなに早く着くとは!? 道に迷わなかったんやな、あんさん、ホンマに面白い人やわ~。ささ、うちの艦に早く入りな」

 「助かるよ君! あと助けてもらったばかりで悪いんだけど、急いであの子を診てもらいたいんだ、いいかい?」


 気が引けるけど俺は、彼女に急かすように要求した。

 一刻も早くロゼを救いたいんだ。


 「いいで。ほな艦内の救急の場所に行きましょう」

 「助かるぜ、この子の命を助けるまでにもう時間がないんだぜ。もう少しで失血で死んじまうところだかんな。早くあたしたちをそこに連れてってくれ」


 フレンが珍しく感謝をし、そのまま治療室に行った。

 小さな関西弁の女性は、子供たちを艦隊員に任せて、俺とオリヴァーをなぜか管制室に呼んだのだった。


 「いや、たまたま、あんさんに盗聴器を渡しておいてよかったわ」

 「やっぱり盗聴器だったんじゃん。何でこんな物を俺に」

 「いやいや、おしゃれですやん。これ」

 「ん~」


 納得いかない俺は怪しんで睨んだ。

 そしてイヤリングを返した。


 「そ、それにしてもな。あんさんらを助けることが出来てほんまによかったわ。それじゃ、どうします? 反撃しますか?」

 「は、反撃!?」


 俺とオリヴァーが驚く。


 「ええ、ええ。あいつら、地上部隊と宇宙部隊の両方を用意しとったらしいですよ。今、上に数隻いますからね。向こうをちょちょいとやっちまいますか。母艦が無くなれば、あいつらも捕まえることが簡単になりま~す。いい作戦やろ」


 彼女は、ニカっと笑った。


 「あ、はい」


 二人で同意した。


 かなり陽気な女性ですよ。

 言葉も軽いが、態度も軽い。

 だが真剣な眼だけがどこかを狙い続けている。

 そんな女性だ。



 「ほなら、うちの自慢の特別戦闘艦グリフォンで宇宙にいくで~~。それ、野郎ども。グリフォン発進じゃ~~」

 

 ほんとに陽気な女性です。


 彼女の掛け声と同時に黄金に輝く艦が急浮上する。

 地上から、一気に宇宙へ向けて突撃のような形で飛んでいく。

 

 こ、これは速いぞ。

 うちの艦に近いか、それ以上かもしれない。


 あっという間に宇宙へ飛び出ると、俺たちの目の前には、海賊の艦隊10隻。

 それが横一列の並びで、地上を見下ろすように揃っていた。


 そして彼女の顔が邪悪な笑みで満ち溢れる。


 「貴様らはやりすぎたのだ・・・うちを怒らせるとは・・・」


 そこから声が一段大きくなり。


 「怒りの鉄槌を食らえぃ。ほな、いくでぇ~。野郎ども!」


 陽気に突撃命令が出たのである。




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