第24話 運命の孤児院
アルマダン孤児院。
ここは通常の孤児院とは違い。
中で暮している子供たちが、そのまま通うことが出来る小さな学校や、平和を祈るための教会、それと宿泊施設がある孤児院である。
敷地面積も広く、今ここにいる子供たちの倍以上がいても養えるほどの大きさを誇る。
そんな立派な孤児院の正門前に俺はいた。
両手にお土産を持って、正門に一歩踏み出しては、引っ込めるを繰り返す。
俺には最後の勇気が足りなかったらしいのだ。
どうすればいいかさ。わからないんだよ。
俺はさ。
どんな顔をして子供たちに会えばいいんだ。
でもさ。
この惑星に来ておいてさ。
この孤児院を素通りするわけにはいかないんだ。
アルトゥールさん。
あなたにとって、たぶんここは大切にしている場所の一つだよね。
なら俺だって、ここを大切にしないといけない場所でしょ?
俺はあなたが大切にしている事を大切にしたいんだよ。
だって俺はあなたになったんだ。
新しいアルトゥールになったとしても、俺はあなたと共に生きていると思いたいんだよ。
そう決意をしたのに、俺は孤児院の周りをぐるぐると歩き回っていた。
すると遠くの方から声が聞こえてきたのだ。
「おーい、やっぱりアルじゃねぇか。おーい、おーい」
爽やかな青年が遠くの方から手を振ってくる。
「やっぱさ、お前がこの惑星に訪れてここに来ないなんてありえないからな。俺の睨んだ通りだぜ。お前がここに立ち寄るなら、絶対ここに来るってよ。やっぱ俺たちに連絡もしないで勝手にくるって思ったんだよね………おい、どうだ! 来てよかったろ。なぁ、フレン」
「…フン」
親しげな男女二人組が俺の前にきた。
男性が肘で女性の肩を小突くと、女性はとても迷惑そうな顔をした。
顔だけそっぽを向いている。
もしかして、アルトゥールさんの友達ですかね。
そしたらまずいぞ。
子供たちに会うのでも緊張しているのに、ここに来てこれはまずい。
俺の心臓は限界を迎えていた。
速いテンポでドクドク言っている。
男性がさらに俺に近づく。
「アル。久しぶりだな。どれくらいぶりだろうな……なあ、お前。先の戦争で良く生き残れたな。でも、俺はお前が生きていてくれて嬉しいぞ。まあ不死身だから大丈夫だろうけどよ。ハハハ」
感じのいい元気な青年は、満面の笑みだ。
この人の感じ、亮に似ている。
感じのいい笑顔に、はつらつとした声と話しやすそうな雰囲気。
俺は懐かしさを覚えた。
目を背けていた女性が急に俺に近寄ってきた。
上目遣いで話しかけてくる。
「アル。わたしってかわいい?」
めっちゃ可愛いです。
ショートカットの女性で、小顔でクリッとした目が綺麗です。
その彼女が顔の前に両手を持ってくるあざといポーズを決め込んでますよ。
あれ?
でもさっき、フンって言っていたよね。
フン!! てさ。
凄い苦々しい顔もしてましたよね?
「え・・・・ええ・・あ、ああ」
俺は彼女になんていえばよいか分からずに、最終的に言葉が出なかった。
【ガッガン】
痛ってぇ。
女性は靴のかかと部分で、俺の足を思いっきり踏みこんできた。
苦痛で顔を歪める。
「何、真に受けて戸惑ってんだよ。今日のこいつは、調子悪いのかよ」
「おい、アル。どうしたんだよ。いつもなら、さらっとフレンの冗談は無言で流すのにさ」
「まったくだぜ。オリヴァー。どうしちまったんだ、こいつはよぉ」
男性がオリヴァー。女性がフレン。
そ、それだけはわかった。
名前がわかって助かったぁ。でも痛いよぉ。
「いや、二人ともすまない。昨日の疲れが残っているんだ」
「アルでも疲れることあるんだな。大丈夫か?」
「フン。あたしはお前を心配はしてやらんからな。なんせお前は、怪物だからな」
気のいい青年ぽいオリヴァーは普通に心配してくれた。
でも美少女フレンは心配していなそうな言葉を発して、また顔がそっぽ向いていた。
でも、目だけは俺の方を見ていたから俺の顔色を窺っていると思う。
絶対心配してるよね。これ。
この人言葉とは裏腹に、絶対心配してるよね。
こっちチラチラ見てくるもん。
ツンデレかな。
一昔前のさ。
ツンデレ美少女って今時アニメでも見ないよね。
「それよりアル。なんで孤児院の中に入らねぇんだ。こんなとこに突っ立てないでさ。とっとと入っちまえよ」
オリヴァーはさっさと行けよと手で煽って来た。
◇
いよいよこの時がきた。
子供たちに会うべき時が来たのですよ。
俺は意を決して足を踏み入れた。
正門を一歩、二歩とね。
まあ、入ってしまえば、結局ただの施設だ。
気持ちを切り替えて俺はスタスタと歩き始めた。
正門を超えると、右手には校庭があり、その奥には校舎と体育館。
左手には、教会と、その奥に寮のような建物があった。
ここは孤児院とは思えないほどに立派だ。
どこかの名門校の全寮制の施設に見えるよ。
俺は、設備に感嘆しながら歩いていた。
すると、教会から笑顔の人が出てきた。
「これはこれは、お久しぶりでございます。アルトゥール様、オリヴァー様、フレン様」
「院長。様はやめろっていつも言ってんだろ。アタシたちはそんな大した人間じゃねぇんだよ。まだ軍じゃ、ペーペーなんだよ。若造なの。頼むからよ。フレンでいいんだよ」
フレンが院長さんに悪態をついた。
けど、顔が可愛いから怖くない。
「いえいえ、あなた様方は英雄なのですよ。ここの子供たちにとったら救世主様なのです」
「フン」
どうやら、『フン』が彼女の口癖らしいです。
ここの子たちの救世主?
ってことは、アルマダン事件で潜入した三人なのか。
ならこの2人がアルトゥールさんと共に戦った人か!
――――――――――――――――――――――――
アルトゥールの読みは正しい。
この三人がアルマダンの事件の際に潜入した者たちである。
勇気ある三人はその後に昇進し、異例の若さで大出世を果たしたのだ。
アルトゥールは少佐。オリヴァーとフレンは大尉となる。
この時、若干21歳であった。
――――――――――――――――――――――――
「院長、子供たちはどうですか? また不安になったりしてませんか?」
「ええ、大丈夫ですよ。皆さまの支援のおかげで、毎日充実して子供たちは過ごしておりますよ」
「そうでしたか、それならよかったです」
オリヴァーは丁寧に子供たちの様子を優しい声で聞いた。
「こちらで少し休んでもらって、お茶をお持ちしますね」
礼拝堂の脇にある小部屋に通された俺たち。
三人で、向かい合うように座る。
俺は俯き加減で座り、オリヴァーは笑顔で座り、フレンは頬杖をして、明後日の方向を見ていた。
き、緊張してきました。ぼ、ボロが出そうですよ。
この二人。アルトゥールさんの友達確定でしょ。
まずいぞ。隠し切れんのかな。
テーブルの下では高速で俺の足が動いている。
貧乏ゆすりよりも強烈。
これは正に、大貧民ゆすりである!
とまあ冗談はさておき。
オリヴァーが柔らかな笑顔のまま話しかけてきた。
「おいアル。しっかし、お前、本当にあの戦争をよく生きて帰ってこれたな。戦争のデータを見たぞ! あれさ、ほんとなら負け戦じゃねぇか。大敗北。殲滅ルートまっしぐらだったぞ」
「フン。こいつならそんなの簡単にひっくり返せるに決まってるだろ。怪物なんだからな」
「た、たまたまです」
二人から褒められたけど、変な風に言葉を返してしまったのか。
二人の顔が不思議そうな顔に変わった。
「なんだぁ、どうした。具合でも悪いのか? 大丈夫か?」
「いつものアルじゃねぇな。さっきから様子がおかしいぞ。目がキョロキョロしてるしよぉ。オリヴァー、やっぱりおかしいよな」
「い、いや疲れている・・・だよ」
これは苦しい。前の比じゃないぞ。
今度こそ隠すのは、無理じゃないのか。
アルトゥールさんの顔色とか話し方を知り尽くしているぞ。
きっと親友なんだよ。
どどどどうしよう。
アルトゥールさんに転生して一番のピンチだぞ!?
ここで、焦る俺に助け船がきた。
ドアノブを回す音が聞こえて、部屋に院長が入ってくる。
「どうぞお茶ですよ。いやぁ、皆さんが来てくれてうれしいですよ」
『トン。トン。トン』
お茶が三つ出てきた。
院長のおかげで、二人の怪しむ目が終わった。
院長さんナイスです。助かりましたよ。
「今回はお泊りになりますか? 2,3日くらいでも1週間くらいでも、何日でも泊まってくださいよ」
院長の不意打ち攻撃が炸裂。
『ブッ、ブフフーー』
せっかく頂いた美味しいお茶がテーブルに広がる。
泊りはさすがに俺の想定していない事態である。
マジかよおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
無理だよおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
「おいおい、アル、本当に大丈夫か。お前が飲み物を吹き出すなんて珍しいなぁ……院長、俺たちは休みだからしばらく泊まれますよ。アルはどうなんだ?」
オリヴァーは俺が吹き出したお茶を拭きながら、院長さんに答えていた。
フレンがジッと俺の目を見ている。
これは、怪しんでいる目だよね。
泊りなんて無理だってば。
俺、アルトゥールさんじゃねえんだって!!!
「私は、ちょっとしご・・・」
断りを入れようとしたら下に人の気配を感じる。
「アル。お兄ちゃん来てたんだね。あそぼーー」
えっ!?
俺の座る机の下あたりから、むくぅ~っと顔が出てきた。
小さな女の子だった。
可愛らしい笑顔で俺の両手に手を置いて、遊びに誘って来た。
「え? な、なにかな?」
俺がそういうと少女は俺の手を引いた。
あれよあれよと俺は校庭まで可愛らしい少女に連行されていった。
校庭には、10人位の子供たちがいた。
皆俺のことを待っていたらしく、遊んでほしいみたいだった。
「兄ちゃん、兄ちゃん。何して遊ぶ?」
「今日は遊んでくれるよね」「泊っていってよ」
「鬼ごっこしようよ」「え、やだよ。ボールで遊ぼー」
ここにいるのは、未来ある少年少女たちだ。
それが戦争で両親を失うという。
辛い過去を背負いながらも、ここで懸命に笑顔で生きている。
俺は、アルトゥールさんの事も尊敬をしているが、この小さな子供たちも尊敬した。
これは日本に住むだけでは知りえない事だ。
戦争の辛い部分だ。
でも子供たちの明るい笑顔は、希望となることを知ったよ。
眩しい笑顔にいつまでも暗い顔をしてはいけない。
俺は明るく子供たちに答えた。
「いいよ。何して遊ぼうか」
子供たちは、これでも遠慮がちであったみたいだった。
俺の言葉を聞いたら笑顔がはじけた。
喜びに満ち溢れる子供たちと共に俺は色々な遊びをした。
鬼ごっこやドッチボール。かくれんぼなど。
俺が遊んでいるという噂が、孤児院中に伝わったのか、どんどん人が集まってきた。
10人が、20人、30人と膨れ上がり、最終的には50人くらいの子供たちと俺は楽しく遊んだ。
大勢に注目されるのが好きではないけど。
俺は、なにも緊張せずに過ごせたのはここの子供たちのおかげだ。
子供たちの笑顔が俺を笑顔にしてくれたんだ。
―――――――――――――――――――――――――――
それを遠くから眺める二人。
「あれはよう、本当にあのアルなのか。あんなに笑ってるの見たことないぞ。なぁ、オリヴァー」
「そうだな、俺たちの前でもあんなに楽しそうに笑ってるの見たことないもんな。笑っててもクスッとしか笑わんもんな。あいつはさ。変だな?」
「だろ? 誰だよあいつ。アルじゃねえ!」
両手を頭にのっけながら話すオリヴァーと、校庭が見える位置の壁に寄りかかるフレン。
二人は彼が本当にあのアルトゥールなのかどうかを怪しんでいた。
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