第23話 大事なお買い物

 この星の一番大きなデパートに二人で行った。

 洋服コーナーにて、俺は彼女のコーディネートのもとで何着も試着する羽目になった。

 次から次へと「少佐これは」「少佐どうです」「少佐」

 って声を掛けられるたびに俺の試着室に服が飛んでくる。

 

 俺のこの状態。

 着せ替え人形みたいじゃない!

 というかお母さんに服を選んでもらってるみたいです。

 【アンタ、これにしなさいな。いやこっちの方がいいかもね】

 みたいな感じです。

 本当に彼女のことがだんだんと俺のお母さんに思えてきました!



 何着も何着も試着した結果。

 彼女が気に入ったのはなんとたったの二着。

 満足そうな顔をする彼女が、最後に言った言葉が笑顔でどうぞ買ってくださいである!

 俺は渋々その服を買ったのである。 

 

 そうです。 

 ワタクシ、カタリナさんのいいなりなんですよ!

 いや、この際それは別にいいでしょう。

 こんな綺麗な人にあんな顔されたらさ。

 誰でも服を買っちゃうでしょ。

 そうでしょ、男の皆さん。

 どうなの?

 純情ハートの青年には、お断りする勇気はありませんことよ!

 なぜか俺は開き直っていた。



 俺はその場でカタリナさんに選んでもらった服に着替えて、もう一着は軍服と一緒にカバンに入れた。

 そして、次の買い物の本命に向かったのである。

 子供たちへの贈り物の買い物だ。

 カタリナさんはおもちゃを見ながら話しかけてきた。 


 「やっぱりおもちゃがいいんでしょうかね。それとも本とかかな」

 「どうだろうね。両方買っておこうかな。カタリナ君はどう思う?」

 「両方でいいと思いますよ。きっと、どちらもいらないとはならないでしょう」

 「ではそうしよう」

 

 小さい子供用の絵本と、ボードゲームとサッカーボールくらいのサイズのボールを買ってから、俺たちはデパートを後にして、街の大通りに出た。

 買い物に長く付き合わせて悪かったなと思ったので。

 俺は、彼女に一つ提案をしたのである。


 「ああ、あそこのお店で、君に何か買ってあげるよ。俺の用事に長く付き合わせてしまったからね。本当、今はお休みだったのに悪かったね」

 

 指をさした先は、大通りにあるアクセサリー販売店。

 こじんまりとしているけど感じの良いお店に見えた。


 「えっ!? よろしいのですか・・・・少佐。ありがとうございます」


 その笑顔素敵ですよって続けて言いたかった。

 格好つけたかったが出来なかったのである。

 陰キャモードに少し入っていたからか。

 いや彼女が美人だからだろうね。


 お店に入ると同時に巨大な音が左右から鳴る。

 体に大量の紙吹雪がついた。

 え!? なにこれ?

 店員さんがハイテンションで、クラッカーを鳴らしていたのだ。


 「お~~~~~~めでとうございま~~~~~~~~~す! お客様でちょうど、うちのお店の入場者様1万人目でございまぁす」


 正面から小さな少女のような店員さんが来た。


 「ささ、ささ。ささささ、どうぞどうぞ。どうぞこちらへ。そこの色男はん。こっちでっせ」


 表情がコロコロ変わる店員さんは、だんだん関西弁になっていく。

 でも俺的にはこの人の関西弁がエセ関西弁に聞こえてくるのだ。

 なんとなくだけど、関西人じゃない人が強引にその言語に変えた印象を受けた。

 元気いっぱいで俺たちを案内してくれている活発な少女のような見た目の女性は、胸に店長っとでかでかと文字が書いてあった。

 自己主張激しめの不思議な店長である。

 それと、どうやったら俺たちが1万人目だと分かるのかは謎である。

 まあいいや。

 とりあえず彼女についていった。


 「ささ、これをつけてくれまへんかね。1万人記念の右耳の耳飾りですんよ。片方のみってところがおしゃれやろ。ささ、どうぞどうぞ」


 怪しい目つきをする店長さん。

 なんでそんなにニヤニヤしているんでしょうか。

 店長さんは、耳飾りを俺の手にギュッと押し込んできた。

 俺のおばあちゃんみたい。

 俺のおばあちゃんもさ。

 お年玉くれる時とかに、こんな風に力を込めて手の平に押し込んでくるんだよね。

 強引だけど! ちょっと嬉しいみたいな感じ!!

 

 俺は右耳に耳飾りを付ける。


 「おお。色男はんがさらに、いい男になりましたな。いんや~、うちのお店の物もこれから買っていってくれるんやろ。ごゆっくりたのんますよ~」


 店長さんは、俺の耳の耳飾りに笑いかけて、奥へと消えていった。

 目まぐるしい突風のような人であった。


 「少佐、良かったですね。おしゃれになりましたね」

 「そ・・そうかな」


 耳飾りは、真珠の耳飾りのようだが、球の部分が青く光っていた。

 これがおしゃれかどうかは俺にはわからない。

 果たして俺に似合ってんの?


 「カタリナ君、何か買おうか。どれでも好きなものを選んでいいよ」

 「は、はい。・・・え・・選んできます」


 カタリナさんは、勢いのない言葉とは裏腹に、ガラスケースに並べられているアクセサリーの前に走って行って、目が血走って凝視していた。


 いや、どんだけ真剣なんだよ。

 でも何か欲しい物はあるかな。

 あるといいな。

 買い物に付き合わせて悪かったしね。

 欲しいものがないって言われるよりもいいよ。

 あと、どれでもいいからね。遠慮しないでね。

 って言ってあげたいわ。たぶんそれが大人のいい男なんだと思うよ。

 陰キャの俺には言えないけど。


 カタリナさんは、欲しい物を30分かけて6つ選んで、1時間かけて2つに絞っていた。

 さらにここから1時間くらいがかかりそうだ。 

 ちょっと……長くない!

 どうしようか。もうこれ以上は長いから。

 よいしょと。


 俺はお店の端にあるソファーから立ち上がった。


 「カ、カタリナ君・・・両方買おうか? いや両方買うことにしよう。お金は気にしなくていいからさ。遠慮しないでいいよ」

 「よ、よろしいのでしょうか。さすがに二つは……悪いんじゃないかと」

 「・・・・それじゃあこうしよう。俺のさっきの買い物の手伝いのお礼で1個、今後のお仕事の活躍分ということで1個で、これなら2個もらっても遠慮しなくていいでしょ」

 「は、はい。ではこれからもずっと少佐の為に頑張ります。誠心誠意おそばにいます」


 敬礼しながら笑顔満開でした。


 か、かわいいです。やばいです。

 俺の前の人生では、まず出会えないくらいの美人とこうして対面で会ってよいのでしょうか。

 神様は、こんな幸せな事を許してくれるのでしょうか? 

 でもさ。このままカタリナさんが選ぶのを待ってたらさ。

 あと2時間くらいはかかりそうだよね。

 ・・・間違いないよね!?



 カタリナさんが選んだ物。

 それは青いシンプルな真球のイヤリング。

 それと豪勢でジャラジャラしているような物じゃなくて、シンプルなデザインの腕輪の2つ。

 おそらく彼女は指輪などは遠慮したみたい。

 6つの内にはあったけどね。

 あと、イヤリングは俺とお揃いにしてみたかったようである。

 似たような色合いだったもん。

 たぶんそういう事だよね?

 可愛らしい人ですね!


 買い物を済ませて、お店から出ようとした時に。


 「まいど~おおきに~。またのお越しを~」


 どこからともなく小さな女性が再び現れて俺たちをお見送りしてくれた。 

 さっきまでいなかったのにな。

 一体どこから現れたんだろう?

 

 彼女は体を目一杯使って手を振っていた。


 「それでは艦に戻って、今日は休むとしようか」

 

 帰る道中。

 カタリナさんから、鼻歌が聞こえる。

 ふふ~ん、ふ~んって。

 歌上手くね!?

 たぶん、この人、歌を歌ったら美声だよ!



 幸せな気分のカタリナさんを見守って俺は艦に戻ったのでした。

 しかし、幸せそうな彼女と違い、俺は自室に戻ってから一人で悩んでいた。


 明日、俺は子供たちと会うんだ。

 ・・・・・。

 俺はいったいどんな顔をすればいいんだろう!?


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