第22話 これってデートだよね

 治療を終えてから2時間後。

 俺はカタリナさんと買い物の約束をした地にいる。

 なぜ彼女を誘ったのか。

 それは、俺がこの惑星に到着しているのに、アルマダンの子供たちに会わないのはあり得ないと思ったのだ。

 だから俺は勇気を出して会うことを決めたのである。

 それには、ただで会いに行くのは良くないので、プレゼントが必要かなっと思い、カタリナさんならいい贈り物を選んでくれると思ったのです!!

 我ながら良き作戦だったはずです。


 デイルタ街の喫茶店で会う約束をした俺は、軽い感じで誘ったんだよ。

 そう、そこら辺のコンビニにでも買い物しようぜみたいな、友達に対するノリであったと思う。


 でも・・・・。 

 よよ・・・よくよく、考えてみみみ・・・みたらさあ。

 デデ、デートだよね!?

 これってデートだよね!?

 やばいぞ。俺は女の子と買い物なんて行ったことないよ。

 どうしよう・・・・どうしよう・・

 アルトゥールさん助けてください!

 神様、俺を助けてください!


 情けなくも神とアルトゥールさんに俺は助けを求めた。

 自分から誘っておいてなんだけどね。

 俺にはデートって無理じゃね!?

 


 ◇


 待ち合せ40分前。

 現場にはすでに俺がいる。

 いつもの軍服を着て、席に座っている。

 しかしそれにしても、あまりにも早く待ち合わせ場所にきてしまった。

 緊張のあまりだ。

 当然の如くだけど、彼女の姿はまだない。

 俺は、二人席に一人寂しく席に着いて、すでにコーヒーまで注文。

 俺の口の中が相当乾いていたらしく、緊張感は絶頂を迎えていた。

 頼んだコーヒーカップを取ろうと動き出した。


 【ブルブルブル】


 突然手の震えが起こる。


 【ガタガタガタ】


 足の震えもきた。


 【びちゃびちゃびちゃ】


 口に付けたカップから面白いようにコーヒーがこぼれていく。

 顎からコーヒーは滴り落ちて、口に入っていないのに、先にスーツが俺のコーヒーを飲んだ。

 

 ダバダバっと口から血を吐いたようにコーヒーをこぼす俺。

 喫茶店内にいる人たちが不振な目になっていた。

 視線が集中したことに俺は気づいたので、不格好な笑顔を振りまいた。

 けど、あっちからしたら、更におかしな人間に映るだろう。

 だって、今、お客たちが一斉に目を反らしたもん。

 陰キャモードでもこれは耐えられません。

 皆さん!

 わたくしと目を合わせてくれなくなりましたことよ!!

 おほほほ!! 泣きたい。



 やべ。俺の手の震えやべえ。

 緊張で死ぬかもしれん。

 おお・・・お、女の人とデートすることで死んじゃいそうです。

 これはどんな死因になるのだろうか。

 【死因 デート】 

 字面で見ると、相当恥ずかしいんですがね。

 これを聞いた知り合いはがっかりするだろうね。

 女で死んだってさ。

 まあ、今の俺に、この世界で知り合いなどいないのだがね。ははははは。



 ◇


 待ち合わせ10分前。

 コーヒーがこぼれたスーツを脱がずに待っていた俺。

 せめて上だけでも脱いでいればいいものの。 

 と思うのだが、生きた心地がしない俺には、そんなことすらも気を使えなくなっていたのだ。

 魂の抜けた俺の前に、超おしゃれな女神がやってきた。


 【カランコロン】


 彼女。

 後光が差していたんだ。

 煌めいていたんだ。

 眩しい笑顔で入ってきた瞬間からさ。

 現世に女神が降臨したって感じなんだよ。


 「すみません。私、待ち合わせしているんですけど」


 店員の人に話を聞くカタリナさん。

 いつも綺麗だが今日は一段と綺麗である。

 彼女の美しさにうっとりと見とれてしまった女性の店員さんは。

 「どんな特徴の方ですか?」

 と聞く。


 「えっと、ですね。背が高くてハンサムな・・・・そんなお方です。とにかくカッコいい人です」


 彼女……小学生くらいの語彙力しかなかった。

 それじゃあ、相手に漠然としたイメージしか伝わらないよ。

 アホな子っぽい言葉遣いだってば。

 もうちょっと特徴を言いなさいよ。

 髪の色とか、目の色とかさ。


 そして、あの店員さんは困るだろうと俺は思った。

 だって普段のアルトゥールさんの姿は超絶カッコいい!

 だけどさ。

 今の俺。

 コーヒー軍服なんだけど・・・・。

 びちゃびちゃにこぼした軍服を着た男だよ。

 これのどこがカッコよく見えるのでしょうか。

 きっと店員さんの間でも、俺のことがカッコいいと思う人はいないでしょう。

 彼女の質問に俺をお勧めすることはないでしょう。

 という事で。


 俺は勇気を出して、この場で立つ。

 周りの好奇な目を無視して、緊張しながら立ったのだ。


 俺、彼女が眩しくて眩しくて目が開けられないのです。

 超絶美女が軍服じゃなく、普段着になったことで、ドキドキ感が半端ないです。

 あれだよね、

 学校の制服から普段着になるのと一緒だよね・・・多分。


 俺が立ったことで、彼女は俺を発見してくれたようである。

 顔がぱあっと明るくなった。

 店員さんに一礼してこちらに向かって来た。


 「あれ。少佐もういらっしゃったんですね・・・・わ、私、待ち合わせに遅れてしまいましたか?」

 「いいい、いえ・・・けけけ決して・・・遅れて・・ませんよ・・・私も今・・さっき・・・きたば・・かりであります。ええ。ええ」


 俺は挙動不審になっていた。

 女の人と二人きりなど、姉ちゃんか母ちゃん以外にないからだ。

 緊張と動揺で言葉がたどたどしかった。


 それと。

 【30分前からいたよ】なんて口が裂けても言えません。

 そんなこと言ったら、俺・・・めっちゃカッコ悪いもん!


 「少佐? 言葉に詰まってますけど大丈夫ですか?・・・あ!?」


 あ!? ってなんでしょうか!?

 彼女の言葉が途中で止まり何かに気づいた。

 何が起きたのだと俺は、キョロキョロする。


 「あ~あ~。少佐ぁ、コーヒーこぼしてるじゃないですか。ほら服が駄目になりますよ、シミになっちゃいます。あ~あ~」


 彼女は困った表情をしてシミになりそうな服を引っ張って、濡らした布巾で拭いてくれている。


 やっぱり君は、どう考えても俺のお母さんだよね。

 彼女とかじゃなくてさ。これじゃあ、お母さんだよね。

 なんかアホみたいに緊張してたことが、とても恥ずかしいです。

 でもいつもと変わらない君のおかげで俺の緊張が少しずつだが取れ始めていくよ。


 彼女は俺の服のコーヒーを拭いてくれながら話しかけてくれた。


 「少佐! 私服ないんですか? なんでここに軍服で?」

 「…まあ、そうなんだ。余計な服を持たない主義なんだよ」


 って格好つけてるけど、ほんとに部屋に私服が一着もないのだ。

 俺だって私服ほしいんだよ。

 けどさ。

 アルトゥールさんの部屋になぜか1着もないんだよね。

 これしかないの! 軍服オンリーマンなの。

 もうアルトゥールさんは、きっと軍服が大好きなんだよ。

 それで、あとで気付いたんだけど、タンスの中にまだ二着もあったんだよ。

 だから俺は同じ軍服を五着も持ってるんだぜ。

 軍服なんて交換する用に、二着くらいでよくない!?

 アルトゥールさんは、きっとおしゃれに無頓着なんだよ!


 「それなら少佐。最初に少佐の服を買いましょうよ。これも、ほとんどシミになっちゃいそうですし、服を着替えるついでに買いましょ……今からなら、お時間も大丈夫でしょう。だから、その後で子供たちのお土産を買いましょうよ」

  

 カタリナさんは手を合わせて左右に振っている。

 めっちゃ可愛いです!


 「あ‥はい。お願いします」


 俺は女性にリードされながら買い物に行くことになった。

 やっぱりお母さんに買い物に連れて行かれる子供みたいだなと思った。

 普通は俺がリードするんだよね。

 デートってさ。

 んんん。

 でも無理だ。

 こればかりは成り行きに任せよう!



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