第21話 戦争継続記念での怒り
この時、
この戦争が始まる前。
連邦は、元ダルシア共和国に帝国への裏切りを持ちかけているのだが、それに対する返信がなかったのだ。
そうここで応答しない時点で、ダルシア共和国は帝国からの解放を望んでいないのが明確であったのだ。
連邦は、無言である事を良い事に、銀河連邦の銀河平等理念を押し付けて、彼らは戦争を推し進めた。
解放戦争であれば、戦争を引き起こしても連邦国民の感情を悪化させないからである。
だから、政治家と軍上層部は、この事を伏せて戦争をしたのだ。
それを国民と一般兵だけが知らないのである。
―――――――――――――――――――――――――
拍手の圧が小さくなっていき。
会場が少しずつ静かになると大統領が演説を再開した。
「皆さまの声援、ありがとうございます。今回の戦争では戦犯などはいません。なぜなら負けていないのですから。こちらにいる少将も必死に戦ってくれたのです。少将のおかげで此度の戦争を引き分けたのですよ。・・・ですがもう一人若き英雄のおかげで、この戦争を引き分けに持ち込めたのです。この方がいなければ戦争を継続しようなんて思いもしません! その方とはアルトゥール少佐であります。どうぞこちらへ」
手を広げ待ち構えている大統領に向かって、俺は睨んだままの顔で隣まで歩いていった。
かなり納得してない表情をしていると思う。
やっぱり俺はまだ高校生だった。
大人になりきれない。
ごめんなさいアルトゥールさん
ここで俺が大人なら、平然とした顔でこのおっさんの隣に笑顔で立つのだろうけど。
俺には無理だったよ。
「やあ少佐、素晴らしいご活躍。我が連邦のためにありがとうございます。どうぞ皆様。少佐にも拍手をお願いします。少佐。私と握手を」
俺は、嫌々ながらも大統領と握手を交わした。
嘘くさい満面の笑み。
笑顔の裏にある悪い顔が俺には見える。
遠くから見る観客には俺と大統領が普通に握手しているように見えるだろうけど、近くで見ている者には、冷や冷やものだろう。
俺の顔が全く笑顔じゃないからな。
ムスッとした顔のままだもん。
感情を殺せ。感情を!
俺はここで暴れちゃいけない。
俺は一応軍人なんだ。
ここで感情を出せば、キレてしまうぞ。
◇
「少佐! もう少し笑顔で」
小声で大統領が言って来た。
ますます頭に来た!
おい。
俺たちが、どんな思いで戦場に立ったと思ってるんだ。
このおっさんはよ!?
タルマーのおっさんなんか、今は重症なんだぞ。
そしてなにより俺の艦隊の中尉や大尉だって死んだ人がいるんだ。
あの時の俺の命令で命を懸けてくれて、共に突破する礎になってくれたんだぞ。
この野郎、自分は安全な場所で戦争を扇動しやがってふざけんな。
あああああああああ、考えないようにしなければ・・・・・・・・
深い怒りの感情をセーブするほど、俺はまだ大人じゃなかった。
引きつらせながら笑顔を作った。
その顔を見た大統領はすぐに民衆の方を向き。
「どうでしょう皆さん。また皆さんの力を合わせて、もう一度解放を目指しましょう。銀河連邦の為に、ダルシア共和国の為に」
煽った。戦争継続を・・・。
「「銀河連邦の為に」」「「ダルシア共和国の為に」」
「「銀河連邦の為に」」「「ダルシア共和国の為に」」
人々が呼応し、叫び続けている。
俺は、この光景を、一人一人の表情を。
生涯忘れないであろう。
戦ってもいない人間がこのようにして戦争を生み出す。
これが、悪魔の過程の一部なんだ。
俺は手袋をしている右手を強く握りしめた。
戦争がそんなにしたいなら、せめてお前が最前線に出てこい。
こんなくそ親父が、何にも知らない民衆を煽りやがって!
それに民衆も乗せられるなんて。ふざけんなよ。
戦ってみろよ・・お前らよぉ。
・・・・・
【そうか。前の世界でも戦いはこうして生まれたのかもしれない】
【きっと、どこの世界でもこうやって戦いは生まれるのかもしれないんだ】
◇
俺は、マイクを持つ人が、司会の人に代わっていたことに気づいていなかった。
「それでは、少佐から一言をお願いします」
司会の人にマイクを押し付けられた。
顔付近に押し当てられる。
「ありがとうございました」
何かもを放り投げて、本当に一言で終わらせてやった。
俺は自分の元の立ち位置へと戻る。
その行動すべてに怒りが滲んでいたのだった。
周りの人たちは唖然としていた。
でもそんなもん関係ないわ。
大人なら本当はしてはいけないだろう。
でも俺は我慢できなかった。
それくらい怒っていたのさ。
会場は真冬の気温並みに冷え切って白けていた。
あれだけ大声で戦争を煽っていた連中ですら、テンションは駄々下がりである。
会場が凄まじくお寒い雰囲気の中でも、俺だけは全く動じずに、本当に凛として堂々とした立ち姿を披露してみせた。
俺は逆に堂々したのだ。
今まで俺が見せてきた自信なさげな様子は一切出さない。
俺はどうやら怒りが混じると何でもできるようになるらしい。
初めてに近いここまでの怒りのせいで、俺は怖いものが無くなっていた。
多くの人がここにいる。
その現状に緊張していた俺はいつの間にか、完全にいなくなっていた。
◇
そして戦争継続記念が終わった後。
そそくさと会場を後にしようとしたら、大統領が俺のそばに来た。
「少佐ぁ、もう少しいい挨拶をお願いするよ。今度は勝った時にでもね」
茶目っ気いっぱいに挨拶をしてきた大統領を、俺は一瞥しただけにした。
そしたら大統領は苦虫を噛んだような表情をしてから、すぐ顔を作り替えて会場を後にする。
まあ、別にこれでいいでしょう。
俺が大統領に嫌われようが。
俺の方があんたを嫌いだからな!
マジで。俺が人を嫌いになるなんてないぞ。
滅多にないからな! クソ親父!
カタリナさんが近づいてきた。
小声で話しかける。
「しょ、少佐よろしいのですか、あんな態度をして。嫌われてもよろしいのですか?……でも私はスカッとしましたけどね」
パンチのポーズをとるカタリナさんがめっちゃ可愛い。
「ああ、いいんだよ。俺の心配してくれてありがとう。カタリナ。俺は、君たちが味方であればそれでいいんだ」
カタリナさんは少しだけ驚いた表情をした後。
俺もカタリナさんも、顔が赤くなり、最終的には煙が出そうなくらい真っ赤になった。
あ・・・・しまった。俺、今カタリナって呼んじゃったよ。
どうしよう・・・どうしよう・・・・
今のは間違いだよとか言えないよね。雰囲気的にも。
さっきまで緊張してなかったのに、カタリナって呼んだだけで緊張が戻りましたとさ。
俺は恥ずかしがりながら手袋を外したその時。
「しょ・・・少佐、手が」
「手? あ!?」
「急いで手当てをします」
カタリナさんは慌てて救急箱を取りにいった。
俺は、怒りのあまり手を強く握りしめていたことに今、初めて気づいた。
血がじんわりと手袋にもついていたのだ。
救急箱を持ってきてくれたカタリナさんに血が付いた手を差し出して、消毒や、絆創膏を張るなどの手当てをしてもらっている所で俺は、ある決心をした。
彼女に優しく話しかける。
「カタリナ君、もしよければこれから買い物を手伝ってくれないか?」
「はい。もちろんいいですよ。是非お手伝いしますね」
この時、俺は初めて笑顔のカタリナさんの目を見ることができた。
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