第20話 戦争継続記念での推測

 惑星スリクラ。

 その大きさは、最大直径が約1万kmで真球ではなく、やや楕円ぎみの中規模惑星。

 約直径1万kmの惑星を中規模としているらしく。

 スリクラの人口も約10億人で、これもまた銀河の中では中規模の人口を記録するみたい。

 ということで惑星スリクラは、銀河の中では標準規模の星であるのだ!

 

 そこに俺の艦と少将の艦は降下した。

 残りの艦隊は首都星に向かって帰参している。

 俺と少将はいち早く式典という奴に出なくてはいけないためである。

 

 でも俺的には、ここに来た理由はどうでもよくて。

 大変なことに、ここにはあの孤児院があるのですよ。

 俺じゃないアルトゥールさんが建てた施設です。

 俺は、ここで子供たちを無視するべきか。

 それとも会いに行って、交流を深めるべきなのかで悩んでいた。

 しかし、思考は中断されてしまう。

 式典の係員の人間が、アーヴァデルチェの近くまで来ていて、俺が降りると同時に駆け足で近づいてきた。


 「アルトゥール少佐はいらっしゃいますか? 急ぎ会場までお越しください。車はご用意しておりますので」

 「分かりました。すぐ行きます」


 もう少し悩んでいたかったが、慌てて準備をした。


 「カタリナ君。俺を手伝ってくれないか? 一緒に式典について来てもらってもいいかい?」

 「はい。もちろんです」


 カタリナさんは満面の笑みで、了承してくれた。

 俺の世話をそそくさとしはじめる。

 よれたネクタイを直し、スーツの肩に付着したゴミを取る。

 寝ぐせをワックスで整えてくれて、ちょこんと出た鼻毛まで切ってくれた。

 ・・・え、あれ?・・・え???

 

 移動した先の車内での俺。


 は、恥ずかしい。女の人に鼻毛を切ってもらうなんて・・・・。

 穴があったら入りたいです。

 誰か俺をその穴に埋めてください。

 てか、なんでカタリナさんは平気な顔で隣に座れるの。

 幻滅しないのかい、君!

 普通はさ。

 こんなイイ男の鼻から毛が出てたんだよ。

 普通は、その落差からめちゃくちゃがっかりするよね!

 男だったら笑い話だけど、女の子ならさ。

 幻滅するよね! するはずだよね!!

 君! ちょっとは嫌そうな顔したらどうだい!

 あんたこれを受け入れてくれるなら、マジで俺のお母さんみたいじゃん。



 なんだかどうでもいい事でツッコんでいたら、俺は少し落ち着きを取り戻した。

 

 それにしても、この車。

 タイヤないよ。空飛ぶ車です。すっげぇーー

 しかもさ、運転手が運転してません。

 ハンドルから手を離してます。

 自動運転じゃん。

 ・・・・・・・・・・・・

 いや、やっぱりさ。思ったんだけど。

 なんでこんなに高度な文明なのに、戦術と戦略がないんだよ。

 おかしいんだよこの世界。

 神様さ、どうなってるんだよ。

 いい加減なんか教えてくれよ。この世界についてさ。



 車で移動場所に向かう中で、俺は神にイラつきを覚えたのであった。



 ◇


 式典会場にて。

 俺は到着早々、準備に慌ただしくして、焦りながらもカタリナさんと会話をした。


 「そもそも何の式典なのかな。カタリナ君わかる?」

 「詳しくはわからないのですが、おそらくは戦争に引き分けたと政治家が大々的に発表するのではないのかと思われます。少佐の大活躍によりとか。都合のいい言い訳をしていくのだと思いますよ。あの政治家豚共は負けたとは、口が裂けても言わないでしょうね。まあ自分たちが主導した戦争でありますからね。死んでも謝りませんよ」


 カタリナさんは急に毒舌になった。

 恐ろしい程冷静な声で、蔑んで豚と言い切った。

 声も顔も怖っ!

 なるほどね。 

 今回の戦争は政治家が扇動して解放戦争したのか。

 ダルシア共和国の人たちは望んでいたのかな?

 

 疑問が浮かんだが、ここで俺は係員の人に呼ばれてしまった。



 「それでは少佐こちらへ」

 「じゃあ、カタリナ君。行ってくるね」


 俺が笑顔でカタリナさんに話しかけると、彼女は軽く頬を染めた。


 「はい少佐。いってらっしゃいませ」


 彼女は元気よく手を振って、俺を気持ちよく送り出してくれた。



 係員の人に誘導されて、少将と共に俺は式典会場の表舞台に立った。

 観客席は、5万人と聞いていたけど、俺にはそれ以上に見える。

 そもそもそんな人数の前に立つことなんてないから、よく分からん!!!

 それとこの人たちのお目当てが、どうやら俺みたい。

 登場の瞬間の歓声が他の人とは別だった。

 会場の熱気が一段上がる。


 か、歓声がすごい。耳が壊れちゃうよ

 人も多いよ。多すぎる。

 俺、学校にいた時でも人前で登壇したことないんだぞ。

 陰キャの俺にはここの舞台は辛すぎるんだ。

 頼む俺を見ないでくれ。

 ――人は豆粒、人は米粒、人は・・・

 緊張が取れません。全く取れません。どうしよう。

 司会の人は声を出しているけど、俺の耳には入ってきません。


 「さあ。いよいよです。次は大統領の登場です。銀河連邦大統領のマクシム・ラプラス大統領です。皆さん拍手を」


 会場の人々の拍手がもはや地鳴りのように響き渡った。

 音の圧で鼓膜が破れるかと思うほどである。

 いかにも私は偉いのだと言い切りそうなおっさんが登場した。

 最初からマイクの方に立ち、演説をし始めた。

 

 「私が第23代大統領マクシム・ラプラスであります。本日は皆さまお集まりくださり、誠にありがとうございます。結論から言うと、こちらの会見は、巷で噂の戦敗記念などではなく、こちらは戦争継続記念となっております・・・・今だあの野蛮で愚かな帝国の圧政に苦しむダルシア共和国を救うためには。我々が力を合わせて、我が連邦の崇高な理念の元に彼らを救わねばいけないのですよ」


 すげえ芝居かかっているんですけど。

 このおっさん、やけにうぜえんですけど!


 「ですが・・・・今回の解放戦争で、という事実が。次戦に向けての好材料なのではないでしょうかね。ねぇそう思うでしょう。どうでしょうか!」


 「そうだ」などの声掛けや拍手が、お客さんの方から所々で巻き起こっていた。

 戦敗じゃなく戦争継続。

 言い方を変えただけじゃん。

 負けていない、艦隊は無事である。

 だからまだ戦えるだろ皆さん。

 んなわけねえだろ!

 俺たちがどんな思いであそこで戦ったと思ってんだよ。

 

 俺は、この場の空気のせいで、徐々に気持ち悪くなってきた。

 口の中が乾き、心の中のイライラが増していく。


 そもそもそのダルシア共和国が圧政に苦しんでいてってなんで敵の星の情勢が分かるのだろうか?

 あれ、敵の領土の人たちだよな。

 まてまて、それにもし解放を望んでいるならさ。

 諜報したりして、寝返りをさせればいいんじゃないのか。

 ・・・・ん?

 そうか!?

 これは俺の考えが確信に変わりそうだぞ

 連邦が仕掛ける戦争に、そこの三惑星が協力してくれない時点でさ。 

 俺は気付けばよかったんだ。阿保だ。

 まだまだ考えが甘かったな。


 ダルシア共和国の人々は、帝国からの解放を望んでないんだよ。

 だってあの時さ、惑星から出撃してもらって、帝国軍を挟み撃ちにすればエデルの帝国軍なんて完封できたぞ。

 そうだよ。協力があればあれは楽勝で勝てる戦争だったんだ!

 そうか。連邦軍が勝手に戦争の理由(正当な言い訳)にしているんだ!

 なんだ、結局こいつらの方がクソ野郎どもじゃないか!

 だとしたらカタリナさんがあんなに怒るのも無理もないぞ。


 まさか。味方が最大の敵パターンなのか。

 この世界は!?




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