第19話 アルマダンの英雄
放送されたテレビの内容は、青天の霹靂だった。
天涯孤独だと思い込んでいたアルトゥールさんには家族がいたらしい。
そんなことは、あの日誌には書かれていなかった。
友人や両親について、死ぬことを謝ってはいたが。
あんな大量の妹と弟がいるなんて。
……いやいやあんな量の兄弟はありえないだろう。
でもでも、子供たちが待っていると言っていた。
まさか~。
いやいやいや。あれが全部兄弟なわけないでしょ!
俺は、またアルトゥールさんを知らべないといけなくなった。
この世界で、俺にとって、自分の知らない知り合いがいる。
それは当然だ。
俺はまだアルトゥールさんの全てを知っていないのだ。
そしてこの艦隊の仲間たちは、誰もアルトゥールさんのことを知らないから、俺流で人付き合いが出来た。
だけど、古くからの知り合いにはどういった態度で接すればいいんだ。
それにもし出会ったとして、自分の態度や口調の違いですぐに別人だとばれてしまうのではないか。
俺はそんな風に考えた。
◇
俺は自分を調べるために自室に籠った。
前は戦争中で、連邦のネットワークのデータベースに繋がらなかったみたいで、今は、詳しい情報を調べることが出来た。
おそらくここがテルトシア宙域に入ったからだろう。
連邦の領域に入ればこんなことは簡単にできるんだと思った。
とにかく俺は、会議の時に中佐も言ってたし、戦争中も大佐が言っていた。
『アルマダンの英雄』のことを調べた。
しかも念入りにである。
◇
アルマダンの英雄。
宇宙歴1322年12月10日
小惑星アルマダンで海賊襲撃事件が発生。
銀河連邦支配域である小惑星アルマダン。
ここで、宇宙海賊により星が占拠されるという事件が発生したのだ。
小惑星アルマダンは特殊鉱物を発掘する資源惑星である。
この惑星には、普通に住む住民は少なく、鉱山業に従事するわずか1万人が住む極小惑星であった。
比較的平和で争いが起こるなどほぼない小惑星に、突如として現れた宇宙海賊が、大型艦1隻で、無差別攻撃を開始。
瞬く間に、鉱山を完全占拠し、鉱山付近を掌握した。
宇宙海賊はそこに住む人々を人質にとり、多額の身代金を連邦に要求。
この占領時の攻撃でおよそ八千人が死亡したと言われ、さらには、人質を次々と虐殺したために、最終的な住民は千人程になってしまった。
そこで連邦は人質解放に向けて潜入部隊を派遣する。
大型の艦が潜入してしまえば、海賊を刺激すると思った銀河連邦は、交渉のみの為に惑星の上に、大型艦隊を一つ浮かべて、それを囮にして、惑星の裏側から小型機を侵入させたのである。
小型戦闘機3機が見事に惑星に潜入すると。
乗っていた3名の兵士が、巧みに相手を罠にかけ翻弄し、さらに民間人千人を誘導して海賊船を奪いそのまま人質を脱出させる。
のちに一人が惑星に残り、海賊140名を殲滅した。
(残った人物が撃破したのは、100名弱で驚異の撃破数である)
そして、その最後まで惑星に残って海賊を殲滅をしたのがアルトゥールである。
なので最後まで生き残った海賊はいなかったとされ。
しかも後から救助に向かった連邦の兵士が彼の姿を見ると。
驚きで言葉が出なかったのだ。
無傷。
かすり傷一つも負っていなかったのだ。
激闘であったにもかかわらず、無傷で生還した彼のことを人々は、「アルマダンの英雄」と呼んだのである。
マジかよ。アルトゥールさんバケモンじゃん!
・・・・・これ俺じゃ絶対にできないぞ。
アルトゥールさんはとにかくハイスペックすぎる。
なんだこれ、海賊を殲滅だって、しかも一人で。
いやいやいや。絶対俺にはできないじゃんかよぉ。
気を取り直して、まだ情報があるかもしれないから。
アルマダンのキーワードでもう1回検索してみようか。
検索した結果。一つ浮かび上がった。
アルマダン孤児院
アルマダンの海賊襲撃事件で起こった悲劇。
そのせいで孤児が生まれてしまっていた。
多くの身寄りのない少女少年らを救うため、アルトゥールをはじめ軍が募金活動を開始。
銀河連邦中の惑星から、多額の寄付金が集まり、惑星スリクラに孤児院を建設する。
その時に救った子らは30人程であったが、現在は色々な惑星からの戦争孤児が合流し、230人程度にまで増えている。
通常の孤児院よりも若干立派に作られている。
てことは、もしかしたら、ここの子たちがお兄ちゃんって言ってたのかもしれないな。
みんな待ってるってのは、ここの孤児院の子たちを指しているのかも。
アルトゥールさんは孤児院の子たちを大切にしたんだろう……きっと
家族って言ってたもんな。
良い人なんだな。
アルトゥールさんってさ。
◇
俺がベッドでゴロゴロしていた所に緊急で連絡が来る。
「少佐失礼します。少将閣下から、連絡が入りました。明日ゲルドスタンに来いとのことです。時間は11時です」
「了解した。連絡ありがとう」
お礼を言って、眠りについた。
翌日、母艦ゲルドスタンの会議室にて。
少将はとても難しい顔をしていた。
「諸君今回の戦はすまない。あれはほとんど負けじゃな。勝ち戦をむざむざ負けにしてしもうたわい。アルトゥールよ。おぬしには感謝せねばな、おぬしがいなければ今こうして我が艦隊が無事に撤退などありえんかったからな。感謝する」
少将は誠心誠意。地面に着く勢いで頭を下げた。
そして驚いたことに、俺の隣に立っていたケインズ中佐も頭を深く下げていたのだ。
「ありがとう、今まですまない」っと言っていた。
あれ。この人は嫌味おじさんじゃなかったのね。
あなたのこの前の無礼な振る舞いを許しましょう。
俺の広い心が許しましょう!
なぜか、俺の心の声は偉そうであった。
「いえ少将。あれは偶然でありますから、少将がいなければこの戦を引き分けにまで持っていけませんでした。……もちろん大佐や中佐たちあっての結果です。私一人の力では到底この結果になりません」
俺は敬礼しながら丁寧に言葉を選びながら話した。
本音を言えば引き分けとは思っていないです。
本当は負けたと言いたい所である。
「いや、少佐がいなければおそらく私は死んでいたでしょう。もう敵が眼前に迫っていましたから、私からも感謝します。ありがとうございますアルトゥール少佐。命の恩人でございます」
更に、ケインズ中佐が丁寧に謝意を示した。
ケインズさん、腰が110度くらいになってますよ。
なにもそんなに深く謝らなくても。
俺の中のケインズ株が爆上がりしてます。
「いや全くだぜ、俺たちは九死に一生を得たよな。……でもよ、アルがあの場面で突っ込むと言った時は正直頭おかしくなったと思ったんだけどな。お前を信じて後を追いかけておいてよかったぜ。なあフローシア」
「まったくそのとおりですわぁ。私もあの時、少佐の頭が狂ったのだと思いましたもの。さすが私のみこんだ男ですわぁ。やはりここは、彼氏いや、私の方から積極的に彼女にしてもらわねばならないわね」
両大佐は(褒めているのかわからないが)惜しみない賞賛をした。
このお姉さん、どうしよう。
まだ付き合ってとか言ってくるよ。どうすんのよ。
割とマジでだけど、この人、ストーカーぎみじゃない?
付き合ってくれって、どうやって断ればいいんだよ。
生まれてこのかた女性と付き合ったことのない俺にとって、戦争よりも難しい問題である。
これ、本当です!
エデルよりもこの女性の思考の方が読み取れません!
「ま、まあ。あの時は本当に助かりました。大佐たちがついてきてくれなければ、あそこで相手は引いてくれなかったでしょう。兵数が足りず挟撃には不十分ですからね。ですからこちらこそありがとうございます」
あちらの付き合ってにこちらの感謝をぶつけるぜ。
これでどう。スルーできるのでは!?
「いやいやそんなに謙遜しなくてもよいのよぉ。やっぱり可愛いわねぇ。これからもお姉さんに任せなさい」
「はい。よろしくお願いします。ありがとうございます」
これでセーフなんじゃないか。
これから俺が、何を任せるのかは知らないけども。
事件解決はあとの俺に託そう!
付き合って攻撃をはぐらかすことに成功して、俺は安堵の表情を浮かべた。
「それでじゃ、感謝してもしきれんのだが、今から我が軍はこのままスリクラに行かねばならん。そこで式典に出ねばならぬのじゃ。そこで少佐も出席して讃えられねばならぬ。どうやら連邦の政治家の宣伝に使われるのじゃ。少佐、申し訳ないのう」
「はっ。少将のご命令とあればどこへでも行きます」
「ありがとうのう。少佐。おぬしに苦労を掛けてしまうとは少将としても、一人の人間としても情けないの。すまんのう」
おじいさんはしょぼくれた。
表情だけでなく肩まで落ちた。
あんまり気にしないでよ少将。
おじいさんなんだから、気落ちしちゃダメだって。
別に式典くらいさ。
俺が我慢すればいいのさ。
んで、それにしても政治家の宣伝ってなんだ!?
俺なんかがその式典に出て、何の宣伝になるんだろう
宣伝という言葉が気になった。
「それではこれで解散する。皆集まってもらってすまなかったな。もう解散でよいぞ」
少将の声は少しだけ弱々しかった。
ぞろぞろと会議室を後にしたときに大佐がまた大きな声で俺に話しかける。
「おいアル。飲みに行こうぜ」
やっぱり飲みに行きたいらしい。
胸の筋肉をぴくぴくと震わせ、期待に胸を膨らませているぞ。
鼻息も荒いしね。
「戦争に勝ってないので飲めません。では大佐また」
冷たい言葉を残したと自分でも思う。
大佐の顔を見たら目には涙がちらっと浮かんだ。
この人、体の割に心が繊細な人だったわ。ごめんね。
ちょっとだけ申し訳ない気持ちを持って、俺は自分の艦へと帰っていったのである。
そして、物語は四日後へ。
―――あとがき―――
皆、触れてはいませんがタルマー中佐は負傷中です。
ここからは、彼自身の転機となります。
読んでいただき、ここまでありがとうございます
そしてこれからもよろしくお願いします。
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