三英傑 最後の一人

第18話 あれが引き分けとなるらしい

 アーヴァデルチェの食堂。

 今日ばかりは賑やかになるのは致し方ない。

 なぜなら、あの窮地を生き残ることが出来たのだからね。

 俺だってアルトゥールさんになっていなかったら、一緒になって喜びたいもん。


 「いやー。俺はね、少佐が突っ込むとか言った時は、頭おかしくなったんだと思ったのさ。完全に死ぬもんなんだとさ。誰もが思ったよな。俺の命もここまでかってよ、この言葉がずっと頭にちらついていたね。うんうん・・・・・」


 フェルさんが皆に向かって陽気に話している。

 食堂で一緒に休憩していた艦隊員の皆が、フェルさんの話に勢いよく首を縦に振っている。

 正直、俺も首を縦に振りたい。


 「ほんとよね~。私もあの時、ここで死ぬんだわって思ったんだよね。突入前の通信なんて手が震えたもんね。それにしてもさ、少佐ってさ。よくあんな作戦、思いつくよね……私、仲間の艦に作戦を伝える時に、内容が難しすぎて、一瞬どうやって伝えたらいいかわからない時があるもん」


 皆がさっきより強く激しく。

 首が取れそうなくらいに縦に振っていた。

 俺だって、一緒になって縦に振りたい!

 でもこれ! ロックバンドの前でヘドバンしている人じゃん!

 

 「まぁ。あまり気にしないでくれ。あんなのはたまたまなんだからさ。次とかの戦闘で、毎度あんなにドラマティックにはならないよ。皆も気にしすぎないでよ。あと普段から俺に話しかける時とか気を楽にしてね。俺は、この艦ではゆったりしたいんだ。キリッとしてたら疲れるし」


 もうどうでもよくなってきた俺は、ラフな感じで会話することを決めた。


 「いいのですか少佐」「堅苦しくなくて助かる」

 「やったー」「私一生、少佐の艦にいたいわ」「俺も」「私も」


 次々と部下たちが雑な感じになっていった。

 学校のたまり場みたいで……あぁ懐かしいなぁ。

 がやがや、がやがやと辺りが本当に学生の食堂のような雰囲気に変わっていく。

 肩を抱いて喜ぶもの、酒を浴びるように飲み、早飲み競争するもの。

 大騒ぎの食堂になった。


 その中、俺はウーゴ君に感謝を伝えに目の前へ行った。


 「ウーゴ、ありがとうね。今回の戦争で、俺の睨んだ通り、君が一番の要だったよ。君のおかげで勝てた。これからもよろしくね」

 「いいい、いえ、少佐。僕なんか何もしてないですよ。言われたとおりに艦を移動させただけです。褒められるなんて、おおお恐れ多いですよ」


 ウーゴ君は動揺して両手をバタバタ振りながら謙遜している。

 

 「謙遜はしないでくれ。お礼を素直に受け取ってほしいんだ。本当にありがとう。また言うけど、これからもよろしくね」


 ウーゴ君に握手を求めた。


 「ああああ、あああ、・・・、ああ、あ、ああありがとうございます少佐」


 ウーゴ君は号泣しながら握手に応えてくれた。

 どこに号泣する要素があったのか分からない。

 でも俺は君に感謝してます。

 絶対ウーゴ君は俺に必要だ。友達としても仲間としてもさ。

 というよりも、もはやウーゴ神であるね!


 大騒ぎの食堂のテーブルに、いつもの元気なおばちゃんが来た。

 

 「さぁさぁ、B班の皆、食事の時間だよ。今日の豪華な食事は少佐のおかげ。大盤振る舞いでビュッフェ形式のパーティーだよ。おいしいからドーーーンとお食べ! 少佐に感謝しなよ!」


 「わーい」「やっほー」とか皆が子供みたいにはしゃいでいた。

 俺もバンザーイしそうになったが、黙って右腰辺りでガッツポーズをした。

 

 テーブルに並べられた料理にはなんと寿司がある。

 それに鯛のお頭、お好み焼きに・・・あとは~、って。


 なんでだ。

 なんでこの世界の食べ物は、日本料理全般があるんだ。

 いや~、これだけは神様に感謝しますね。

 ・・・・ホントに・・・マジだよ。

 他は酷いけどさ、なんも教えてくんねぇし。

 とんでもねえ神様だけど料理だけはありがとう!


 神様に文句と感謝を言ってたら、おばちゃんが俺の前にすんごい料理を持ってきた。


 「はい少佐。少佐には特別スペシャルおばちゃんの魂の料理をあげよう。どうぞ」


 おお、食堂のおばちゃんはこの世界の女神様です。

 でも特別とスペシャルって一緒じゃない!

 

 ドンと置かれた料理はなんと、うな重だった。

 まじか。鰻いんのかよ、この世界!?

 うんめ~。 

 すぅ~と嚙み切れる肉厚のうなぎに、しょうゆ加減が抜群のたれの味。

 何より美味しいお米、日本の心感謝します。

 そしておばちゃん感謝します。


 俺は、心の中で半分泣きながら、うな重を口いっぱいに頬張っていた。

 ずっとかき込んで食べてたから、ここらで一息、箸を置いた。

 顔を上げてみると、俺の周りには多くの仲間たちがいた。

 最初の頃は誰もいなかったのにさ。

 でも今や周りには笑顔の仲間たちがいる。


 ああ、きっと、これがアルトゥールさんが望んでいた姿なのかもしれない。

 それに料理がおいしいのもいいけどさ。

 おいしいと言い合える人がいないとやっぱり料理は美味しくないよね。

 アルトゥールさんも、だから一緒に食べたかったんだよ。

 

 「少佐、ご飯粒ついてますよ。ほら」

 「あ、どうも」


 カタリナさんは、俺の顔についていた米粒を取って食べた。

 いやお母さんじゃん。やっぱりお母さんだよね。

 あまりの恥ずかしさと、あまりの美しさに、俺は顔を真っ赤にして俯いた。

 


 「アンタさ、やっぱり面白いよな。戦争の時はあんなにかっこいいのに、普段はダメダメだな。両方面白くて好きだぜ。ハハハハ」


 失礼にも褒めているのかわからない感じにララーナが話しかける。


 「いや俺もそう思うぜ。アルさんの魅力ってやつなのさ」


 フェルさんも褒めてなかった。


 「私は少佐の専属操舵手にしてほしいであります」


 いきなり目の前に来たのはリリーガであった。

 珍しく操縦を離れて、食事をしていた。


 「少佐の指示というか無茶ぶりが楽しかったのであります。そして、アーヴァデルチェの全開放をいつかやってみたいのであります。少佐!」

 「全開放って何?」

 

 何かよくわからんテンションで意味不明なことを言って来たので、俺は聞いてみた。


 「いまだアーヴァデルチェは全力で操縦しておりませんのであります。私は、いつか全力を出したいのであります。そしておそらく少佐のみが、この艦の全力を引き出せる男なのだと確信しているのであります。ですからどうか私が、その全力を出すときの操舵手でありたいと思っているであります!」


 敬礼全開でやる気満々のリリーガが目を輝かせているであります!

 一見すると、もはや不審者であります!

 というか、あれ全力運航してないんだ。

 あれ以上速く動かせんのこの人

 やばい人です。

 目もバキバキになってます

 やばい人です。


 「わ、わかったよ。じゃあリリーガはこれからも俺の専属の操舵手でね。それでいい?」


 彼女の勢いに押されて、ここで許可を出してしまった。

 これは俺のミスであった。


 「ありがとうございます、なのであります!」

 

 彼女は、ニカっと笑ってまたご飯を取りにどこかへ行きました。

 がしかし、ここから大変なことになる。

 専属という言葉を聞きつけた仲間たちが俺の元に殺到してきた。


 「そ、それなら、私も少佐専属の秘書に。補佐官にしてほしいです」

 「俺だって少佐の専属の部隊長やりたいぜ」

 「うちだって専属の整備長してえぇよ」

 「僕も航行運用を」「私も通信」

 「俺たちだって」「私も」「僕も」


 殺到しすぎて、聖徳太子でも聞き取れません。

 こんなに一度に言われたら、俺の耳が壊れます。


 「はいはいはい。皆さん落ち着いて。ああ・・そうだね。俺が上の人に掛け合ってみるよ。できる限り皆と一緒にいたいしね」


 仲間たちの喜びがまた再び爆発していた。

 大人なのに子供のように、さっきよりはしゃいでる。

 大人も子供でいいでしょ。

 嬉しい時はさ。たぶん!


 ◇


 そして俺たちの艦も軍と同じく、デルタアングル宙域を抜ける。

 連邦側の宙域に帰って来た。

 反対側の宙域であるテルトシア宙域に入ったことで、突然テレビの中継が食堂に流れた。

 連邦軍支配域に達したため、テレビの電波でも飛んできたのかなって思った。

 

 「こちら銀河連邦ニュースのお時間です。先日デルタアングル宙域で帝国軍と戦争が起きました。結果は引き分けだそうです。連邦軍と帝国軍の痛み分けで終わったそうです」


 何言ってんだ。このアナウンサー?

 あれはほぼ負けなんだよ。

 だって被害兵数が桁違いなんだ。

 こっちは艦隊数が半分くらいになってるし、相手は俺が撃破した艦隊くらいしか失ってないんだぞ。

 それのどこが引き分けなんだ。

 あれはたまたま相手が俺の意図通りに帰ってくれたから万以上の艦隊が生き残れたのによ。

 あそこで戦闘をやめておかないとさ。

 次の戦で艦隊を揃えられないくらいの壊滅状態に連邦はなっているよね。

 それくらい報道しろよ・・・いや、駄目か。

 内部情報を簡単に民間にばらすのは駄目か。


 俺はテーブルに肘をつけながらテレビを眺めた。

 

 「少佐ぁ。お行儀が悪いんですよ。だめですよ、ほら、肘なんてテーブルにつけちゃ~」

 

 カタリナさんが何かを言っていたが。

 俺はテレビが気になりすぎて、そのまま上を見つめていた。

 彼女はずっと、俺の肘を一生懸命引っ張っている。


 「なお、この戦争を引き分けに持っていったのはあのアルマダンの英雄、アルトゥール少佐のようです。素晴らしい戦績ですよね。敵機撃破1000以上、敵陣完全突破などなど目覚ましい戦果です・・・・・・・・」


 カタリナさんに肘を引っ張られながら思う。

 だから何言ってんだ。

 このアナウンサーの人。

 あんなの相手の大将に比べたら大したことないのにさ。

 

 「それでは、少佐のご家族たちに・・・・」


 少佐の家族!?

 しかもたちだって?

 天涯孤独なんじゃ!


 「お兄ちゃん、早く帰ってきてね。みんなで待ってるよ~」


 妹!?

 いや、めっちゃ子供いる!?

 まじかよ。

 どうすんだよ。

 俺!?

 


 肘がテーブルから外れた。

 「やった。外れたぁ!」

 必死に引っ張っていたカタリナさんが、満面の笑みで喜んでいた。





―――あとがき―――


実は食堂のおばちゃんがこの世界で最強なんです


冗談はさておき

次回はアルトゥールについて少しだけ詳しく解説するかもしれません。

解説になるかわからないですけど。


余談ですが、私のお気に入りはリリーガ少尉であります(`・ω・´)ゞ

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