第15話 デルタアングル宙域戦争 6
俺の策は命懸けでシンプルなものだ。
敵陣に穴を開けて逃げる・・・である。
これは関ケ原で島津家がやったことの応用だ。
敵陣に向かって逃げるという大胆不敵な行動で敵の虚を突く。
幸いにもね。
今の状況、ほぼ関ヶ原に似てるのよ。
西の出口にしか逃げ道がない戦場。
前からの圧力に負けて、その狭い道に逃げようとして大敗した西軍にさ。
「これより、旗艦アーヴァデルチェを先頭に、敵艦隊に突っ込む!」
「「「 え!? 」」」
全員が俺を見て同時に驚く。
当たり前だ。
頭がおかしくなったと思うだろう。
しかしこれしか生きる道がないのだよ。諸君。
「少佐。それは不可能では……」
ウーゴ君が不安そうに聞いてきた。
「そうだぜ。俺たちであの嵐の中に入るのかよ」
飄々としているフェルさんですら、不安を顔に出していた。
「そうだ、俺たちがあの嵐の中に突入するしかない。この戦を終結させるために、俺たちは前進するしかないんだ。アーヴァデルチェが先頭に立てば、アルトゥール艦隊はついてきてくれるだろう。最初に勇ましい姿を俺たちが見せるんだ。だから。俺たちが円錐陣の頂点。やるぞウーゴ。陣形を整えてくれ」
「は、はい」
「イネス。アルトゥール艦隊に映像を繋げ。俺が話す」
「わ、わかりました」
このタイミングを逃せばこの戦争を終わりに出来ない。
両大佐がまだ生きている状態でなければ、俺たちはただただ死を待つのみだからな。
映像通信が繋がり、俺は皆に説く。
なんか俺が俺じゃないくらいに頭と心が整っている気がする。
アルトゥールさんが乗り移ってくれているのかもしれない。
俺の事を守ってくれているのかも。
この日記帳が力をくれているかもしれない。
俺は胸にしまっている日記帳に手を置いた。
「これより、我が艦隊は敵陣に穴を開ける。それにより戦場は一変する。我々の力でこの戦争を終結させるぞ。だから皆、俺に力を貸してくれ。俺が先頭を走るから、皆は後ろをついてきてくれ。俺たちでこの敗戦濃厚の戦場を変えるんだ! いくぞ。アルトゥール艦隊!!!」
映像は、俺の敬礼で終わった。
「少佐! 円錐陣形いけます」
「よし。今、発進しながら変形できるか」
「できます。指示を出しますか」
「お願いする。運行全てはウーゴに任せた」
「はい」
ウーゴ君はモニターにだけ集中し始めた。
「よし。リリーガ! ウーゴの運航データをもとに臨機応変に戦場を駆け抜けろ。俺たちが先頭で引っ張るからな。運転は頼んだ」
「アイアイサー少佐。ぐへへへ。先頭! 先頭! お任せを~~~であります!」
運転大好きリリーガ少尉は、アーヴァデルチェの操縦士だ。
天才的なハンドルさばきで、宇宙を航行するのである。
そして、運転以外に興味のない変人であるのだ。
会議に出席もしないくらいに運転が好きなのである。
「イネス! フローシア大佐。トリスタン大佐。両大佐に同時に映像を繋げてくれ」
「はい。三秒後いけます」
「わかった。出来たらすぐに映像を」
メインモニターに二人が映った。
疲弊していた二人の顔が、俺を見た瞬間に若干ほっとした様子を見せた。
救援についての連絡だと思ったんだろう。
本営からの連絡が途絶えているから不安があったんだと思う。
「両大佐。アルトゥールであります。今より、我々は敵陣に穴を開けます」
「なに!?」「え?」
「我々は、その穴を開けて抜けきった先で、敵の背後をとります。しかしその時、艦隊が千しかいません。それでは相手に圧力を与えるのが不可能なのです。そこで両大佐。私を信じて、後ろをついてきてくれませんか。お二人の艦隊があれば、一万ほどが敵の背後に布陣できる形となります。そうなれば、今の混乱した少将の艦隊がこちらにいても、挟撃の状態を生み出せるのです。一発逆転はここしかありません。私を信じてもらえないでしょうか!」
二人は止まった。
急に自分よりも地位の低い者の意見を聞けというのは酷だろう。
でも、この作戦の肝は二人なのだ。
二人が俺を信じてくれなければ、絶対に成功しないんですよ。
「・・・わかった。俺はアルを信じるぜ。後ろをついていけばいいんだな」
「ありがとうございます。トリスタン大佐」
すぐに返事をくれた筋肉おっさんはカッコよかった。
世紀末モヒカンとか言って、馬鹿にしてごめんなさい。
「……そうですねぇ。あなたはアルマダンの英雄ですものね。その人が立てた作戦、ならば信じてもよいでしょう。私もついていきますわ」
「フローシア大佐。感謝します」
アルマダンの英雄がよく分からないけど、とにかく彼女も信じてくれたらしい。
「私の艦隊の背後に入って頂きたい。我々の運行予測線をお二人に送りますから、その後ろについて頂ければ、作戦はほぼ成功します」
「了解だ」「了解よ」
「では、お願いします」
映像を切って、ここからが本番だ。
「ウーゴ。いけるか」
「はい。完成しました」
「よし。イネスがデータを送って、皆には後ろを走ってもらう。リリーガ。全速前進で行け!」
「アイアイサー」
アルトゥール艦隊の円錐陣形の頂点に我が艦アーヴァデルチェ。
そこから側面に艦隊を並べていき、一点突破を目指す。
発進と同時に俺たちの艦隊はその形へと動き出した。
ウーゴ君の艦隊航行の技術はマジで凄い。
複雑な配置を難なく決めることができる彼はこの世界の中で、マジで天才だと思うんだ。
「フェルさん!」
「なんだい」
「敵の艦隊配置で薄い場所はあるか」
「おけ。探す」
直進している俺たちは、まだ両大佐よりも後ろにいる。
彼らも俺たちの行動は確認済みで、戦いながら徐々に俺たちの方に近寄り始めた。
お二人もまた素晴らしい将だと思う。
この相手との激しい応酬の最中。
上からの指示もなく敵の攻撃に耐えているのだから。
「あった。ここだぜ」
「よし。ウーゴに情報を渡してくれ」
「了解」
俺たちの行き先は決まった。
敵中央やや右。25度の角度だ。
ここが一番敵の配置が薄い。
だから・・・。
「イネス。通信」
「はい。いけます」
「アルトゥール艦隊。全てを出し尽くせ! 全艦隊。全砲門をフルバーストだ。目の前の敵を撃破せよ」
俺たち、アルトゥール艦隊は全てを出し尽くす一点突破を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます