第14話 デルタアングル宙域戦争 5
警告表示と警告音から数秒後。
情報は入ってくる。
「少佐。後方の爆発原因がわかりません。何が起きたのか……本営も混乱しているみたいです。連絡が付きません」
本陣の錯綜ぶりにイネスさんも慌てていた。
情報を精査しようにも正確なものが入って来てないようだ。
「わかった。とりあえず本営の連絡には注意してくれ」
「了解です」
この事態……俺の予測から計算してみるしかない。
相手の総大将。
こいつは相当な切れ者だと思う。
俺が戦ってきたRTSのプレイヤーの中でも上位陣の思考をしている。
もしかしたらそれよりも頭のいい人かもしれない。
この戦略のない世界において、おそらく唯一の戦略家だと思うんだ。
何らかの方法で音声通信を傍受する技術を手に入れていて。
あのデルタアングルの宙域終盤辺りにステルス機を設置。
俺が破壊しちゃったけど、あの光の粒が俺は怪しいと思っている。
輝きの違う爆発の仕方。
たぶんあの光が通信傍受の技術と見ていい。
現に右翼側の艦隊の音声がバレているはずだ。
トリスタン大佐が大敗したのはそれが原因で。
フローシア大佐が引き分け状態でいるのは、相手の大将が優秀であるからだろう。
たぶんそっちの右翼の大将が、通信傍受を決め込めば、フローシア大佐はすでに壊滅しているはずだ。
ここから予測するに、俺が戦った左翼の大将はたぶん外の人だ。
中央にいるだろう総大将と連携がうまく取れていないあたり、マルチで言う野良だな。
意思統一が上手くいってないんだよ。
だから俺でも相手を手玉に取れたような気がするもん。
「そうするとだ……今の爆発、俺だったらと考えればいいんだな。俺だったらどうやってあれを爆発させるか」
そうだ。
敵の思考がゲームの上位陣に近いなら、俺もその思考に近いと思っていい。
ならば、俺だったらあそこの位置で爆発させる方法。
それは戦闘区域外から、ステルス機を放り込むしかない。
これしかないのさ。
誰にも気づかれずに爆発を知らせずにいるのはミサイルやそういう類の物じゃないんだよ。
俺たちの後退の位置を先回りで予測して、そこからステルス機を爆発させる。
こいつは自爆と言う名の地雷だ!
ステルス機がいかに高額であろうとも、戦争で負けたら意味がない。
ここで惜しみなく投入するべきだ。
大胆な考えだけど、これしかないと思う。
なるほどな。敵は確実に頭がいいぞ。
そうと決まれば、次に敵が起こす行動は・・・・圧迫だ!
ウーゴ君が振り向いた。
「少佐。敵軍が前進しようとしてます。敵は前列から動き出してます」
ウーゴ君が敵の艦隊の動きを見破った。
いち早く気付く君は実に優秀な男だよ。
「やはり。そう来たか。ウーゴ、敵の奥も見てくれ。全体が進もうとしてないか」
「あ、はい。調べます」
イネスさんが不安そうな顔でこちらを見た。
「少佐。本営の混乱が激しいです。後退も前進もしてません。我々はどうしますか」
「待機だ。待機でいく。たぶん、俺たちよりも両大佐が一番最初に戦うことになる。本営が援軍を出してほしいが……今の混乱ぶりでは何もできないだろう」
俺は後ろの慌てぶりが戦場全体に影響を及ぼしている気がしている。
数は未だに多い現状があるのに。
圧倒的数の優位な状況でもあるのに。
本営の混乱により俺たちは大ピンチに陥っているんだよ。
ここからね。
後ろはたぶん爆発した原因を理解していないから、敵が仕掛けた爆発か、はたまた自分たちのミスで起こった爆発なのかを気付いていないのかもしれない。
にしても、混乱しすぎだろ。
相手は絶対にこの瞬間を逃さないんだぞ。
「少佐。敵全体が急速発進してます。全軍での突撃みたいです」
ウーゴ君の計算が終わった。
そして俺の考えが、完成する。
「わかった」
こいつは、デルタアングル宙域からテルトシア宙域にまで押し込みながら圧迫させて、殲滅する気だ。
だからこのまま行くと、包囲殲滅戦争になるな。
まずい。何か策を・・・
「少佐、両大佐が敵の両軍とぶつかります。そして」
「なんだ」
「中央軍が退却と前進を同時にしてます。我々はどちらに行きますか」
「なに!?」
連邦軍の少将の艦隊は前後に別れた。
俺たちは待機をしているのだが、前に出る艦隊と、デルタアングル宙域の出口に行こうとする艦隊に別れた。
「くそ。あほだぞ。こいつら、冷静に戦えばまだ舞えるのに……どうする。俺。このままだと。俺たちも敵に飲み込まれる。又は後退してもテルトシア宙域にも行けない。なにせ詰まっているはずだ」
「そのようです。少佐。艦隊が出入り口付近で渋滞を起こしてます。おそらく、あと数十分後にはどちらにも進めない戦闘艦が生まれます」
ウーゴ君の予測は正確だし、俺の予想もそれだと思ってる。
こいつはまずいぞ。
この戦場で俺たちは全滅する。
この道はどの道でも険しいとかじゃない。
後ろの道を選択すれば、背後を打ってくださいルートとなるわ。
ならば前の道をと思うかもしれないが、足並みそろわない前進はただの無駄死にだぞ。
両方の道は死の道だ。
「クソ! なんで誰も冷静にならないんだ。まだ、まだ負けてないのによ。何考えてるんだよ・・・ふぅ~」
俺の焦った声で、皆が振り向いた。
まずい。
俺はこの艦の艦長だ。
冷静になってないと、皆が不安がるんだ。
クソ。重い。
この両肩に乗る皆の思いが……。
命が。
だから負けてはいけないよな。
俺の命くらいならどうでもいいけど。
この人たちの命がかかってるんだ。
俺は負けられねえんだ。
「よし……賭ける。一つ・・・・一筋の光とまでいかないけど、生き残る可能性を持った行動を取る。いいかみんな。ここからは、命を賭けた戦いをするぞ。みんな。俺についてきてくれるか」
「「「…はい。少佐!」」」
俺の賭けに。
皆は乗ってくれた。
皆、不安そうな顔から良い顔になっていった。
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