第13話 デルタアングル宙域戦争 4

 鶴翼の陣。

 v字に展開した艦隊。

 通常のというよりも、俺のいた世界の鶴翼の陣は地形を利用して敵を包み込むようにして戦う陣で、防御を中心に立ち回る陣形だったはずだ。

 でもこの世界の鶴翼はそうはいかない。

 2Dで物を捉えては駄目で、3Dの空間処理をしないと、薄っすい防御陣になって横陣形よりも使えない陣形になるはずである。

 そこで、俺の浅い考えを補填してもらうために、艦隊運用のスペシャリストウーゴ君の力で、実戦用に改良してくれたのが、宇宙版の鶴翼の陣だ。

 前列と中列、そして後列との設定を置いて、三段分けられた艦隊。

 三段うちのように交代しながら運行するのがこの陣の肝だ。

 これは相手からの砲撃に被弾しようがしまいが、後ろに下がって交代するので、おのずと艦隊の修復と艦隊の船員自体の回復を促すという継続戦闘を重視した防御陣である。



 「よし。破壊出来てるぞ……俺たちの策は敵に通用している」


 鶴翼の陣に入り込んだ敵100は、俺たちの艦隊の左右から来るビーム砲の餌食となっていた。

 

 「少佐。敵艦隊を撃沈させています。情報を送ります」


 通信関連全ての情報を処理しているイネスさんは、仲間から上がってくる報告を即座に俺の方に送ってくれている。

 めちゃくちゃ有能な女性である。


 「なるほど、鶴翼の陣の効果は高いな。あれくらいの規模であれば包囲戦のような形に持っていけるということだな。よし・・・」

 「少佐。次はあっちだ」


 フェルさんが、敵情報にマークを付けた。


 「わかった。ウーゴと共にもう一度さっきのを頼む」

 「わかりました」「了解だ」


 二人が同時に返事をした。

 次の敵は右翼方面に飛び出た150。

 目的地までの移動から攻撃目標まで全てを部下に任せて、俺は指示だけを出す。

 

 「よし。敵を捕捉したな。イネス」

 「はい。開きます」

 「アルトゥール艦隊、一斉攻撃だ。ありったけのビーム砲を発射だ」


 アルトゥール艦隊は俺の指示を聞いて、一斉にビームを放出した。

 相手を完璧に捕捉した動きと、ビーム砲は完璧に敵を葬り去ることに成功した。



 「完璧だ。これで250を撃破。俺ならこれで退却をするけど、相手はどうだ」

 

 俺はモニターに映る。

 赤の三角の動きを注視。

 敵の動揺はその簡易のマークにも現れていた。

 横陣形にも列の乱れがあった。


 「フェルさん。ウーゴ。まだだ。これは相手は動揺しているから。少しずつ出てくる奴が来る。相手の左翼の大将は、統率が取れない大将だからね。チャンスがあるはずだ」

 「そうだな。アルさん。俺もそう考えている。たぶん、焦って前進している部隊がいくつかあるな」

 「そう。だから、俺たちはそれを逃さないよ。ウーゴ。ここが勝負だ。艦隊運行を頼む」

 「わかりました。お任せを」


 この後、敵が立て直す間に俺たちはこの鶴翼の陣で敵を葬り続けた。

 これで俺はさらに確信したんだ。

 俺たちの左右の移動に対して、敵は何も出来ずにいたのだ。

 これは文書通信の効果が出ていると思う。

 相手はどちらに俺たちが移動するのかを理解していない動き方だったんだ。


 「これは、俺の作戦勝ちだな・・・イネス。艦体撃破数は」

 「今ので、1073です」

 「そうか。俺だったらな。もっと前に攻撃を終わらせるけどな。この敵はまだやって来るのか。判断が遅い気がする。やっぱり、あっちの右翼大将に比べて、こっちの左翼大将は戦争の勘が鈍い気がするな。引き時を知らないと取り返しが使えないことになるのにさ」

  

 俺がサイドテーブルにコンコンと指をついていると、隣から声が聞こえた。

 カタリナさんが語り掛けるように話しかけてきた。


 「少佐。私共はどうするのですか? このままここに?」

 「いや、どうしても無視できない数になったと思うんだ。俺は敵の総大将が優秀であれば、ここで引くと思う」

 「え?」

 「この左翼大将の考えが悪くとも、俺は敵の総大将は天才だと思うんだ。この音声通信の傍受した方法を思いつく当たり、少なくとも天才に近しい頭脳を持っているはずだ。この世界の常識を破る考えを持つ人が、この撃破された数をほっておくはずがない・・・どうだろうかな」

 

 俺がモニターで敵の配置を調べようと動くと。


 「少佐。敵が引いてます。軍を一時後退させてます。敵は左翼だけではなく、右翼も中央も下がってます」

 

 イネスさんが情報を教えてくれた。


 「わかった。それなら、トリスタン大佐を頼む。映像でもいい」

 「了解です。十秒後に映像をメインに出します」

 

 部屋の上部にあるモニターの画面いっぱいに元気いっぱいのトリスタン大佐が出現した。

 もうモンスターと変わらない感じで、俺はエンカウントした気分になった。


 「おい! アル。すげえぞお前。どんだけ倒したんだよ!!!」


 おい。あんたは中学生男子か!?

 部活で褒めてくる子みたいな感じなんだけど。

 今のシュートすげえよ的なさ。

 

 「大佐。少将に連絡をお願いしたいです。このまま、戦場を後退させて、一時立て直しをしてほしいと」

 「ん? 勝ってるのにか」

 「はい。現在、敵が引きはじめています。これは戦場設定のやり直しだと思われるので、こちらも戦場設定・・・いえ、態勢を整えた方がいいでしょう。大佐の艦隊の回復もですが、あちらのフローシア大佐の軍の立て直しも必要です。両軍を引きましょう」

 「わかった。俺から連絡をするが。お前から出なくていいのか」

 「はい。私たちはこのまま退却時の殿を務めるので、ゆっくり連絡する時間がありません」

 「……それもそうだな。わかった連絡は任せろ。殿は任せた」

 「はい。お任せを。大佐」

 「おう。またな」


 軽い挨拶でしめた大佐。

 なんだか緊張感がなくなりそうだったけど、俺的にはリラックスできて助かった。

 大佐は、いい人だと思う。

 見た目世紀末だけどさ。


 ◇


 敵もこちらも両方が軍を後退し始めた頃。

 俺たちも少しずつ後退をする。

 

 「皆に休憩を取ってもらおう。すぐには戦闘にならないはずだ。A班で警戒。B班で休息をしよう。イネス。連絡を」

 「はい。わかりました。艦内に連絡します」


 俺は今までの浅い座り方を辞めて、自分の席に腰を深くして座り直す。


 「はい。少佐。お茶ですよ」


 いや、あんた。

 俺に何杯のお茶を飲ます気なのよ。

 これで三杯目なんだけど!!!

 お腹、タプタプになっちゃうよ。

 俺ってさ、こういう時にお断りするの苦手だからさ。

 結局・・・飲んじゃうよね。

 美人から持って来てくれてるしさ。

 断りにくいわ。

 

 「どうも……」

 

 あったけえお茶になってる!?

 あれ、さっきまでは冷えたお茶だったのに。

 どうして?

 ってこれはまさか。ほっと一息入れてくださいか。

 中々考えられているのね。さすがお母さんや!


 【ビービービービービー】


 サイレンが鳴った。

 赤い警告が艦内に映し出された。

 【警告 警告 警告】

 と壁面一杯に警告の文字が出る。


 「な、なんだこれは・・・」

 「少佐。緊急です。我が軍の中央軍の左後方が爆発!? モニターに映像を出します」


 俺の認識は甘かった。

 戦争で一息を入れるなどなかったのだ。

 ゲームとは違う。

 これは本物の命のやり取りだったのだ。




 

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