第12話 デルタアングル宙域戦争 3

 俺の予想。

 それは、敵がこちらの通信を聞いていることだ。

 何らかの方法で通信を傍受している気がする。

 それが何故分かったかというと。

 タルマー中佐以外にも、トリスタン大佐の攻撃がいなされている上に、さらに一方的な反撃を受けていることに気付いたからだ。

 

 例えば、トリスタン大佐の艦隊が左を向くと、トリスタン大佐の艦隊の死角になる右側から攻撃がやって来ると言ったように、行動を先読みされたかのようなパターンで敵が行動を起こしているのだ。

 これは音声で行動を起こしているトリスタン大佐と。

 救援の時に一気に瓦解したタルマー中佐の行動でわかった事。


 なら、俺がやるべきことはそれを逆手にと・・・あれ。


 「この宙域。見覚えがあるぞ・・・ここは・・・」

 「どうしました。少佐。手が止まってますよ。はい、戦う前にはお茶を一杯飲んだ方が落ち着きますよ」 

 「あ。どうも」


 ってあんたは受験生を見守る母ちゃんか!

 カタリナさんにツッコミを入れたくなった。

 

 「あ。ここはステルス機を撃破した場所ですね」

 「ステルス機か……ああ、そ、そういう事か。なんか変だと思ったのはそういう事か」


 俺は転生してからいきなり失敗していたんだ。

 あんなの賞賛されることじゃなかったんだよ。

 この通常艦隊の撃破時の爆発の光と、あの時のステルス機の爆発の仕方は全く違っていた。

 キラキラと輝く何かを散布するようにして消えたのがあのステルス機。

 と言うことはだ。

 あの光は、もしやこのあたりの通信を読み取る何らかの電波傍受システムか。


 まずい。

 あの時にステルス機を破壊したのは間違いだったということが確定だな。

 ふ~。

 いいや。後悔はしてはいけない。

 何事も後悔したって始まらないんだ。

 ここは、相手のその戦略を逆手に取るしかない。

 準備しておいてよかったわ。

 RTSのマルチをやって来てよかったよ。

 敵の大将さん、俺は騙し合いじゃ負けねえぞ。

 亮が苦手だった悪魔の戦略。

 チャットと音声通話の嘘を織り交ぜてやるぜ。


 「ウーゴ。このまま前進しながら鶴翼の陣に変更してくれ」

 「わ。わかりました。データを暗号化して送ります」

 「よし。イネス。ここから、文書によって、移動と攻撃位置を指示する。ここからの宙域はおそらく、音声は敵に駄々洩れであると思ってくれ」

 「え・・・わ、分かりました。少佐」


 戸惑ったイネスさんと、大変そうに動き出したウーゴ君は同時に仕事に取り掛かる。

 両者ともに非常に優秀な人だと思う。

 たぶん、この世界の常識とは違う。

 変わった指示を受けても仕事ができるなんてさ。

 かなり優秀な人にしか出来ない事だよね。


 

 「少佐。移動完了は10分後。陣形完了は5分後です」 

 「うん。ウーゴありがとう。イネス。それじゃあ、移動完了後の俺の指示を全て文章に変えてくれ。攻撃の瞬間だけ音声にしてほしい。俺が音声のボタンを押すんじゃなくて、君が押してくれ。名前を呼ぶからタイミングを全て合わせてほしい。出来るかい」

 「大丈夫です。いけます」

 

 二人はマジで、超優秀であります。

 俺は、考えることに集中できる環境になったんだ。

 余計な動作をしなくて済むから助かりますね。



 ◇


 陣形を変えながら移動中。

 俺は指示を出す。

 

 「イネス。オープンで大佐に繋いでくれ。映像も込みでいい」

 「わかりました。ですが少佐。さきほど音声が聞かれてしまっていると・・・」

 「ああ。いいんだ。この連絡はわざと敵に聞いてもらう」

 「わかりました。トリスタン大佐に繋げます」


 モニターにトリスタン大佐が映る。

 俺は敬礼をして挨拶をした。


 「大佐。これより、我が部隊が前に出るので、大佐はやや後方に下がって、我々を見守っていただきたい。そして、その間で負傷艦隊の全てを回復させてください」

 「・・・な、なに。アル、できるのか。千しかいないのだぞ」

 「大丈夫です。やってみせますので、私を信じてくだされば、大佐はもう一度戦線に復帰できます」

 「…わかった。アルを信じよう。後方に下がる」

 「はい。お任せを。守り切ります」


 トリスタン大佐は綺麗な敬礼をした。

 世紀末のヒャッハーオジサンに、俺の目には見えていた大佐なんだけど、今はカッコイイ親父さんに見えるよ。

 

 ◇


 目標地点に到達、ウーゴ君が振り返った。


 「移動完了です。陣も上手くいっています」

 「よし。では、この陣形のまま、俺たちの目の前にいる敵に攻撃する。イネス。目標は前方だと指示。各艦隊の攻撃はバラバラでもいいんだ。だから当たらなくてもいい、とにかく威嚇斉射でいいんだ。音声のタイミングを任せるよ」

 「わかりました少佐。指示を出します」


 暗号化した文章をイネスが打ち込み、更に俺の音声の準備を同時にする。

 鮮やかな仕事ぶりが華麗だった。

 

 「今から敵を釣りだす。イネス」

 「はい」

 

 彼女が音声のスイッチを押した。

 俺の指示がアルトゥール艦隊に飛ぶ。


 「アルトゥール艦隊。ビーム砲発射だ」

 

 俺の指示でビーム砲は放たれた。

 千の艦隊のビームは、相手に当たったり、当たらなかったりで敵艦は、ビームコーティングが破壊されても艦体撃破にまでは至らなかった。

 同じ個所を攻撃するという指示を俺が出していないのだ。


 だが、これが良い。

 俺の作戦はそこが肝だからだ。


 「敵よ。来い。来い。フェルさん! どこか突出した場所はあるか」

 「おお。俺の出番ね。待ってな。一瞬で見分ける」


 俺は、宙空機部隊のフェルナンドさんを、指令室のモニターの席に置いていた。

 俺の席からいえば左前方である。

 彼が宙空機で出撃する機会が、今回の戦ではあまりないと見たからだ。

 

 「あれだな。ここより左。このポイントだ」

 「ほんとだ。前に出てきた」


 艦隊の列からはみ出すように前進してくる敵艦隊を発見。

 俺はウーゴ君とイネスさんに指示を出す。


 「よし。フェルさんの予測の位置に正面を移動。ウーゴ。指示を。イネス、攻撃タイミングの音声を合わせてくれ」

 「「了解です。少佐」」


 敵はこの攻撃に引っかかるはずだ。

 これは俺の勘から来るものだけど、十中八九必ずどこかが突出するはずだ。

 俺の艦隊数が千であることから、相手は数の優位で押し込みたくなる気持ちが出てくるはずなんだよ。

 それに、こっちの軍は同数対決してきた軍なのに、いまだに音声通信を傍受するというズルをしても、壊滅させることが出来ずにいるのが、たぶん焦りに繋がると思う。

 あっちのフローシア大佐が相手している軍がこっちに来ていたらおそらくはここのトリスタン大佐の軍は全滅しているだろう。

 それくらい規律性が違う気がするんだ。

 こちらのビーム砲とかの攻撃位置や、移動する方法が若干遅れている気がするんだ。

 だから、規律性はさほどないはずなんだ。


 その結果、このようなことになるはずだ。


 ◇


 「来たな。敵の数は」

 「100ほどです。どうしますか」

 「陣の内側にまで、敵を引き付ける。中に入ってきたら一斉攻撃だ。今度は各艦隊に攻撃目標を設定する。フェルさん。ウーゴ。二人で決定してくれ」

 「わかった」「わかりました」


 フェルさんは自分の席を立ち、ウーゴ君の後ろに立った。

 フェルさんは、彼の席の背もたれに左手を置いて、モニターに向かって指示を作り出していた。

 

 「これが、こっち。こっちはあれだな。この位置なら、正確にビームを放てる」

 「はい。こちらですね」


 二人の細かいやり取りの中でも俺はモニターから目を離さない。

 敵の動きの変化は知らねばならないのだ。

 それが戦争の鉄則……間違えた。

 RTSの目まぐるしい戦いの変化に臨機応変に対応しなくちゃいけないことから学んだことさ。


 「相手の移動位置予測完了。相手への攻撃位置完了です。少佐」

 「よし。ウーゴ。それをイネスに渡して移動を開始。イネス。通信班で指示を出せ」

 「はい。お任せを」


 イネスとその部下三名が一斉に連絡網から連絡を開始。

 十秒後に指示は行き渡り、全艦隊が移動し始める。

 100の敵が突っ込んできている位置にv字の鶴翼の陣を設置した。

 この難しい横移動を上手く調整できているウーゴ君の艦隊運航の計算能力はおそらく少将艦隊の人にもいないと思う。

 実に優秀な人をアルトゥールさんは仲間に引き入れていると思うんだ。

 アルトゥールさんが選んだのかな。

 だったら、アルトゥールさんもかなり優秀な人なのかもしれないぞ。


 「少佐、敵艦隊の正面に入ります」

 「了解。イネス」

 「はい。チャンネルを開きます」


 イネスが音声を繋いだ。

 

 「アルトゥール艦隊。目標に向けて、ビーム砲を放て!」


 俺の初陣は罠にかかった敵に一斉砲撃することだった。


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