第11話 デルタアングル宙域戦争 2
戦争が始まり30分。
戦況は変らずである。
互いのビーム砲による攻撃は激しさを増している。
だが、その激しさに対して、負傷している艦隊は少ない。
撃墜数は連邦が10隻。被害は5隻である。
「壊されている数に違いがないな。ほぼ互角だ。互いの国の艦隊性能の違いは、なしとみていいな! この三十分の収穫だな」
両軍の被弾した艦隊は後ろに下がり、ビームコーティングを補習するために休憩をとる。
これが戦争のセオリーだ。
この動きは非常にスムーズで、戦略や戦術がないこの世界の人たちでも、規律の様なものは互いにあるようだ。
ってさ。
これやっぱり、ほぼ原始人状態と変わらないよね。
まあ百歩譲って中世と言ってもいいか?
例えなんて、そんなんどうでもいいけど。
こんな戦闘方法なら、数の多い方が勝つか。
もしくは艦隊の性能が良い方が絶対勝っちゃうじゃないか。
なにこれぇ!?
なんで高度な文明なのに、ひのきの棒を振り回してるだけなの!?
あんたらの脳はどこに繋がってるんだよ!
と愚痴を言いそうになったところで、カタリナさんが入れてくれたお茶を飲んだ。
◇
開戦から一時間。
戦場の変化を感じるが、連邦は攻め手を変えなかった。
「くそ。少将はこれで勝てると思ってるのか。明らかな変化があるぞ。なんで指示がない!」
モニターを見つめる俺は、モヤモヤする違和感を十分前から感じ取っていた。
開戦時。
連邦軍の右翼5000に対して、帝国軍の左翼5000だった。
なのに今は。
連邦軍の右翼3900に対して、帝国軍の左翼4900となっている。
この差は明らかにおかしい。
戦闘艦の性能はほぼ同じだと、俺でも知っている事実から、この数十分で、この艦体の減り具合は異常だ。
数と性能。
それに戦う際の戦術にも差がないのに、これほどの差があるのは、どこかに隠れた策がある。
戦略が見え隠れするぞ。
それにだ。
フローシア大佐の左翼。
こっちも変だ。
数が2000も違うのに敵を撃破できずにほぼ戦場が膠着状態に陥っている。
相手に上手く躱されているのか。
のらりくらりと攻撃を吸収されているみたいだ。
「これは……相手に何かあるな。さらにここで押すよりも一度引いて戦場を見極めたいな・・・」
「我が軍、救援に出ます」
音声通信からタルマーのおっさんの声が聞こえた。
独立友軍のような形の俺と、ケインズ中佐とタルマー中佐は勝手に動くのを許可されている。
だから彼は現状ピンチのトリスタン大佐の救援に向かった。
だが、この判断はいけない。
ここは我慢だ。
だって相手の戦略を読めていないのに、敵に突っ込んでいったって今のトリスタン大佐と同じように罠に嵌るだけだぞ。
阿保なのか。
あのおっさん。
「おっちゃん、駄目だろな」
そこから数十分後、タルマーのおっさんの艦隊は壊滅状態になった。
救援に向かうと同時に最前線に出て、トリスタン大佐を守る形になったが、一瞬で艦隊が壊滅して、彼の生死は不明となった。
おいおいおいおい。大丈夫かよ。あのおっさん!
「でも今ので、わかったぞ。おっさん、あんたの勇気は無駄にはしないよ」
◇
俺はタルマーのおっさんの艦隊の突撃を観察していた。
動きからいって悪い動きには見えず。
敵の側面を削ってトリスタン大佐の動きを良くしようとする補助の役割をしようとしていた。
だが、あっちの軍はタルマー艦隊の動きを全て読んでいた。
攻撃してくる位置を予知したような相手の艦隊の首の振り方に、俺は違和感を覚えた。
「あれはまさか……敵はこっちの行動を把握しているかもな。よし、イネス!」
「はい」
俺は通信専門のイネスに指示を出す。
「今のタルマー艦隊! 攻撃の指示。攻撃の位置を。音声で通信していたか!」
「……遡ります。10秒下さい」
「頼む」
「・・・・少佐。そのようです。タルマー中佐からの指示が全艦隊にありました。トリスタン大佐の左翼から右に30度で突撃と」
「わかった。ありがとう。仕事が早くて助かるよ」
「い。いえ。どういたしまして」
イネスはちょっぴり戸惑って、ちょっとだけ嬉しそうな顔をした。
そうか。こういう時って、あんまり部下を褒めたりしないのか。
でも。ま、いっか。
俺は俺らしくでいこう。
もう少佐らしく戦闘するなんて無理だわ。
そんなところに気を遣って俺の頭の回転を鈍らせるわけにはいかない。
ここはもう戦場だからさ。
◇
頭を整理するために戦場を確認。
まだ左の戦場は……。
たぶん、まだ膠着状態が続くと見た。
数の有利があってもフローシア大佐の猛攻をひらりひらりと躱されている現状がある。
あっちの右翼の将軍は中々の曲者だろう。
俺のイメージでは囲碁だな。
陣取りが上手いとみていい。
そこに上手く敵を嵌めこんだり、味方が下がる位置をキープするのが上手い奴があっちにいる。
だから、あそこは逆にそのまま戦わせた方がいい。
維持してもらって、戦場の左側を気にしない方向で戦いたい。
問題は右翼。
トリスタン大佐の艦隊がまずい。
俺の予測はあと40分もあれば全滅する。
そんで、こっちが全滅すれば、逆に包囲戦を仕掛けられるから、ここは助けに行かないといけない。
そしてそれは、中央左にいるケインズ中佐じゃなくて、中央の中にいる俺だ。
そんで奴らの狙いを壊せるのは俺しかいないわな。
よし! やるしかねえ。
勇気を出して、俺が行かないと、この戦争はここで終わるわ。
「はあああ。よし。やるぞ」
バチンと顔を叩くと、皆が俺の事を一斉に見た。
何事かと、みんなが驚いた顔をしていた。
◇
「イネス!」
「はい。少佐」
「ここから音声を繋げ。アルトゥール艦隊に指示を出す」
「わかりました。三秒後に繋げます。少佐の準備がよろしければ、モニターのスイッチを押してください」
「ありがとう」
彼女が言ったように三秒後、俺のモニターの画面に赤いボタンが出現。
ボタンを押すと全艦隊に声が届くように設定されていた。
「アルトゥール艦隊の艦長たち。これから我が艦隊は、トリスタン大佐の救援に向かう。移動の指示は文字で、攻撃指示は音声でやる。いいな。事前の動き通りでいくぞ。気を引き締めてくれ。準備を頼む」
ボタンを再度押し、音声を遮断した。
そこから俺はウーゴ君を呼ぶ。
「ウーゴ。事前の陣形は大丈夫か」
「…は、はい。少佐、艦隊運航データは作成済みです。これは各艦長にも伝えております」
「よし。戦闘中、仲間の艦が負傷とかしたら、もう君の指示だけで配置をしていい。俺にいちいち許可を取らなくていいよ。君を信じるからさ」
「・・・あ、は、はい。わ、わかりました。やってみます」
ウーゴ君は椅子に座りながら緊張した面持ちで俺に敬礼してきた。
「うん。まかせた。俺は全体の指揮だけに集中する。では、イネス。もう一度音声通信を頼む」
「はい。準備します・・・・どうぞ」
俺の声が旗艦アーヴァデルチェに響く。
「我が艦の仲間たち。これより大佐を救援するために突撃を開始するが、俺の指示を守って欲しい。この突撃は防衛だ。攻勢に出るわけではなく、態勢を整えるための突撃なので、気持ちを落ち着かせてくれ。いいな。俺たちの目標は大佐の艦隊を救うことだ。これが目標だ。ではいくぞ」
アルトゥールさん。
俺に勇気をください。
戦場って超怖いんですけども、俺、頑張ってみせますからね。
「アルトゥール艦隊、出撃だ!」
俺は震える手を上にあげて、勇ましく声を出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます