第9話 我が旗艦の仲間たち

 現在。

 私は、我が旗艦アーヴァデルチェの会議室にいる。

 ってカッコつけました。

 俺は、今。

 会議室の席に着席してます。

 アーヴァデルチェの今回俺が呼び出した船員たちは俺と同じ会議室に集まり、我が艦隊の艦長らは、艦長室での通信連絡を待っている。

 総勢千人以上の人の前で、俺は演説をしないといけない。

 学校でも登壇して話したこともないんだけど……。

 だから、めっちゃ緊張してます。

 はぁ。少佐像を崩さないように冷静に事を進めないと。


 「諸君。今回集まってもらったのは他でもない、此度の戦に関係することで事前に皆に聞いてもらいたいことがあったため召集をかけた。召集に応じてくれてありがとう」


 こんな感じか?

 大体、アニメでもこんな感じだよね。

 少佐くらいの人の話し方ってさ。


 「時間もないので、早速本題に入る。今回の戦争。私の艦隊は音声通話だけではなく、重要な指示を出す際に、文章での指示を送ることがある。だから、あらかじめ準備をしておくことにする。文章を送る際はこの暗号を組み込む。これが暗号キーだ。このキーを使って、解読して指示を理解してほしい。あとは大尉たち向けに連絡網を作ったから、通常時はこの連絡網で連絡する。大尉から中尉に連絡していって、軍全体に伝達することになるから、この通りに動いてくれ。それで大尉たちは質問はあるかな。なければこのまま会議から黙って抜けてよし」


 大尉たちは質問をせずに、無言で音声通話から抜けていった。

 会議場は、我が艦隊の艦長の大尉と中尉たちが抜けたことで、現在会議室に集まっているメンバーのみとなった。

 顔見知りになりつつあるメンバーだ。

 と言うよりも俺はこの人たちの事を必死になって覚えた。


 「それでは皆、気を楽にしてほしい。私たちは同じ艦の仲間だからね。会話も砕けた感じでいきたいんだ。肩の力を抜いてほしい」


 正直な話。

 俺はこのまま演技を続けるよりも、自分の普段通りの状態を知ってもらった方が、今後が上手くいくと思った。

 この艦の人々は、アルトゥールさんのことを良く知らない人たちで構成されているから、俺流の接し方でも大丈夫だと思う。

 それに、無理があるじゃん。

 取り繕っている俺だと、いずれはボロが出るよ。

 だったら普段通りの方がいいに決まってるんだ。



 「少佐、あんたはわかってんね。うちも堅苦しいの嫌いでね。ただのエリートじゃないね。面白い」


 咥えた煙草をふかしながら、かっこよく言ってる女性は整備長のララーナ・バルデス。

 態度は横柄だが。仕事も手も早いと有名らしい。

 めっちゃカッコいい、ファンキーなドレッドヘアの女性だ。


 「よ、よいのですか少佐。でも僕は気が引けるので、敬語でいきたいです。………それより僕のようなものまでなぜ呼ばれたのでしょうか」


 自信のなさげな男性は艦隊航行運用の管理人。

 少尉のウーゴ・モンロイ。

 おかっぱで可愛らしい女この子みたいな男性だ。

 華奢で小柄でもある。


 「それ、本当ですか~。敬語じゃなくていいなんて、やったね……それに私なんかも、何故に呼ばれたのでしょうか?」


 素朴な彼女は通信指令の責任者。

 1等兵のイネス・メリノ。

 切れ長の目元に赤い髪がチャームポイント。


 「少佐。楽にいくならアルさんって呼んでもいいのかい。俺も堅苦しいの嫌いでね」


 馴れ馴れしくいきたい男性は宙空機部隊の隊長フェルナンド・リアバ・バルガス。

 飄々とした態度で、サラサラの金髪で手足が長い。

 イケメンである。

 この世界、イケメンと美女が多くね!



 以上こちらの4名を招集して、これに加えてカタリナさんと俺の計6名で会議を行うことにした。

 本当はもう1名も呼んでいるが断られた。

 まあ、いなくともたぶん大丈夫な人なんで見送った。


 「皆は私を好きなように呼んでもいい。アルさんでも大いに結構。皆がここに呼ばれた理由は君たちの役割がこの艦隊運用で重要なんだ。だから戦争の前にあらかじめ聞いておいてほしいことがある。さて、最初の議題はこれだ。この紙に書いてある陣形を作りたいんだよ。この3つ出来そうかい…ウーゴ?」


 俺の言葉を聞いてから、4人は自分の役割が重要だと悟って姿勢を正しくし始めた。

 しっかり聞いてくれるらしい。

 ありがたい人たちだ。

 ララーナさんは咥えていた煙草を消して、あれだけ馴れ馴れしく会話をしていたフェルナンドさんですら背筋を伸ばして椅子に座りなおしたのである。


 「ふ、複雑ですね。陣形というのは場所の配置変換と捉えていいんでしょうか。それだと難しくはないと思います。ただこの陣形から陣形へと変化させるとなると運行パターンをいくつか作らないといけないですね。複雑です」


 ウーゴ君は、こんなのは今までに見たことがないという表情でいる。

 他の3人は紙を見て、目を丸くしていた。

 やっぱりこの世界は横陣が基本だな。

 これは覚えておいた方がいいかもしれない。

 今のに驚くということは、敵もそういう陣形を使用したことがないってことだよね。

 ということは、敵も知らない陣形を使えるという事は、いざという時にこちら側が有利に働くかも。


 「1日で出来るかい? 開戦前には皆に運航方法を教えて、シミュレーションだけでもさせてあげたいんだけど」

 「厳しいですけど、何とかやってみます」


 ウーゴ君は俺の無理難題でも了承してくれた。

 ブラックでごめんね。あとで何か奢るからさ。

 


 「次にアーヴァデルチェに実装されている特殊装置が知りたいんだ。これは詳しくはどういうものなんだ。ララーナ」

 「あんた。実物見てないのかい。なら教えるよ。あれは……一回きりの特殊発光弾だよ。敵の視認能力を奪う特殊弾だね。ま、近距離で爆破しちゃうと敵味方、両方の目がやられるね」

 

 ララーナさんは両手を目に当ててアピールした。

 ここが見えなくなるんだぜっていうアピールだろうね。


 「なるほど。要は使いどころに気を付けなきゃならんのね。そうか。直接視野を奪うほどの白光を作り出すってことか」

 「そういうことだよアルさん、俺たちの目もやられるから宙空機部隊にも気を使ってくれよ」


 宙空機部隊のフェルナンドも答えてくれた。


 「うん。わかった。気を付けるよ」


 アーヴァデルチェに実装されていた特殊装備は閃光弾であったらしい。

 高度な文明に対して、なんて原始的な物を積んでいるんだ?

 目を奪って、モニターを見る事ができないようにするってことかな。

 もって1分間くらいの一時停止ってとこか。

 一回戦闘してみないと分からない効果だ。使い道があるのか。

 覚えておいて損はないからメモはしておこう。

 



 「アル少佐、質問で~す。さっきの通信の暗号化はなぜなんですか? 音声の方が速くて便利だよ。なんでわざわざ文書通信なの?」


 イネスさんは率直に質問をしてきた。

 可愛らしい人ですね。 


 「うん。音声の方が圧倒的に便利なんだけど、念のために文章での暗号化をしたいんだ。音声通信ってオープンチャンネルだよね。相手も盗聴できたりするのかな?」

 「連邦と帝国では技術が違うので、たぶんできないかと思いますよ……あとオープンですね」

 「でももしだよ。相手が盗聴してきたら、こっちの情報が筒抜けだよ。戦争で一番重要なのは情報なはず。あとは補給、士気。それに兵数かな。ここだと装備もか。だから用心して損はないはずだ。イネス。通信を面倒にしてごめんね」


 これ基本だよね。

 戦争の歴史にあったような気がするし。

 それにRTSやSLGゲームのマルチでも音声使うけど、声をブラフにしたりして、チャットで連絡をしたりするよね。

 相手を混乱させるには、あらゆる手を使って戦うよね。

 この世界じゃ、常識じゃないのかな。

 

 「いえ、私は大丈夫ですよ。私なら、ちょちょいって、すぐにできますからね」


 イネスさんは、通信に関して凄い自信家であった。

 気軽に頼んでもらってもいいわよという雰囲気が出てる。

 優秀じゃね!?



 「それにしてもあんたは珍しいタイプの指揮官だね。命令のみじゃなく、相談みたいな会議をするなんてな。本当にただのエリートじゃねぇな。面白いぜ」

 「それ俺も思ったぜ」「私も」「僕も」


 ララーナさんの意見に3人が首を縦に振りながら呼応した。

 ええ~。それはですね。

 自分的には、自分に自信がないから、誰かに聞いてもらいたいだけなんだよね。

 だって本当はただの高三だよ。

 ここに来るまでに一生懸命勉強したけどさ。

 まだまだ自分の思い通りにいくとは思ってないからね。

 身の程をわきまえているつもりなんですよ。

 

 ですからこの戦争!

 神様、どうか運だけでもください。

 頼むよね。何も力をくれなかったんだからさ。

 この人たちの事、守りたいじゃん。

 アルトゥールさんが頑張ってこの人たちを守ろうとしてたんだもん!

 俺にも守らせてほしい。



 「まあ、次回から気にせず私に相談してほしい。そして私も君たちに相談するから、これから先も力を合わせて頑張っていこう。よろしく」

 「はっ、少佐」


 俺の本心を言ったら、皆が敬礼しながら気持ちよい返事をしてくれた。

 顔つきも凛々しく、皆は俺を信頼してくれたようで、俺は嬉しかった。

 


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