第8話 会議後

 あまり実りがあったとは思えない会議が終了した。


 筋肉大佐が満面の笑みで俺に近づいてくる。

 なんか、後ろが荒野とかだったら世紀末を感じるよ。

 ヒャッハーみたいな感じだ。


 「おいアル、飲みに行こうぜ。明日から戦場に向かうんだから。休みは今日しかねぇだろ。なぁ行こうぜ」

 

 トリスタン大佐がジェスチャーした。

 クイクイっと飲む動作が、グラスじゃなくてコップに見える。

 飲むのは焼酎かな。日本酒かな。

 

 まあ、どっちでもいいけど。

 俺、酒飲めないよ。

 二十歳じゃないんでって言えないしさ。

 ……どうしようか。上手い言い訳が必要だぞ。

 そもそも、アルトゥールさんはお酒が飲める人なのかな。


 と悩んでいたら豊満妖艶美女もやってきた。


 「私もあなたと交流したいから、その席に入りたいわぁ。トリスタンちゃんだけ彼を独り占めではずるい!」

 「独り占めなんてしてねえ。お前は早く帰れよ」

 「あら、トリスタンちゃんは怒りん坊ね。それにしてもこの子は私と目が合わないわね。どれどれ、こうすれば緊張が取れるわよ」


 フローシア大佐が俺の顔を掴んだ直後。

 俺の世界は真っ暗になった。


 【ぽよん】


 あれ? 何この柔らかい物は……。

 まさかこれは!?


 あらま、ワタクシ

 今、天国に埋もれたようです。

 もう俺とは偉そうに言えません。

 天にも昇る。

 いい気持ちであります・・・・。

 っておいいいいいいいいいいいいいいいい。


 俺、今。

 大佐の胸の中に沈められてるぞ。

 苦しい。息出来ねえ。 

 でも幸せや~~~。 

 いやいや、でもセクハラになるだろこれ。

 でもでも、俺からやってくれって言ったわけじゃないからいいか。


 にしても、大佐の手が外れねえ。

 両手の腕力が凄いのか。

 これが皆から脳筋と呼ばれる力なのか!?


 「フ、フローシア大佐、少佐がお困りです。やめてください」


 カタリナさん。 

 俺は決して困ってはないです。

 むしろ嬉しいです――ただ恥ずかしいだけです。

  

 「いい加減にしてください。フローシア大佐。・・・・。・・・・」


 見えないし、聞こえずらいから、カタリナさんの様子はわからないが。

 どうやら大佐に対して、必死に抵抗しているようだ。

 ――しかし、声に怒りがあるのは気のせいでしょうか。

 俺としては、ずっとこのままでもいいんだけど。

 でも、だ、誰も見ないでお願い!

 なんか恥ずかしい! でも幸せです!

 

 「フローシア、その辺にしてやれよ。その格好のアルじゃ、話せなくなっちゃうじゃないか。俺はこいつと話がしたいんだよ」


 おお、脳筋大佐がまともなことを言ったぞ。

 なんでこんなにこの人はアルトゥールさんのことが好きなんだ?

 俺は天へ召される前に、素晴らしき胸の天国から解放された。

 残念である。


 「仕方ないわねぇ。はい少佐……でも、まだ目が合わないねぇ。また今度会った時にでも私に埋もれてもいいのよぉ」


 ハイ、お願いします――じゃなかった


 「いえ、遠慮しておきます」


 本当はお願いしたかったわ。

 でもしょうがない。

 恥ずかしいし、なんかアルトゥールさんに悪いや。

 たぶん、アルトゥールさんなら冷静に断るはずだしね。

 んんんん。

 でも悔しいな

 でもでもしょうがない。しょうがない。

 でも悔しいな。

 俺の思考は堂々巡りしていた。

 俺は悔いが残る返事をした。


 「だからさ、飲みに行こうぜアル」


 脳筋大佐は飲みに行くのをやっぱり諦めてなかった。

 どんだけ飲みてえんだよ!


 「いえ。私、これからすぐに艦に帰還して、作戦会議を開くので今日は遠慮しておきます。戦争に勝ってから、飲みに行くなら付き合いますよ」

 「そうか、それもそうだな」


 上手い言い訳が発動。

 これなら誰も傷つけない返答でしょう。


 「それにしてもお前、見つけることがほぼできないとされる帝国のステルス機を破壊したんだろ、すげぇじゃねぇか。大手柄だよ」

 「いえ、あれはたまたまですよ。運が良かっただけです」


 実際あれはただ帰りたいだけだったんです。

 あれを賞賛されるのは恥ずかしいであります。

 頼みます。胸の傷をほじくり返さないで!


 「あらら、あなた本当に謙遜屋なのねぇ。本当に可愛いわぁ。私の彼氏にならない?」


 か、かかか彼氏!?

 無理無理。女性と付き合ったことないっす。

 俺の頭は、彼氏と彼女で一杯になり頭が狂った。

 俺の頭がシューっと音を立てている。


 「止まっちまったぞ、アル……アル、アルーーー」

 「少佐、少佐しっかり」


 2人の声も届かない。

 

 「あらまぁ。こんなに止まるなんてねぇ。初心な子なのね。まぁいいわぁ。いつかは考えておいてちょうだいね」


 フローシア大佐が出て行ったのは見えていた。

 あとはカタリナさんが俺の頬をペチペチ叩いているのも見えている。

 だけど物を考えられなかった。


 「戦争後にまた会おうな、アル。美人の中尉さん、アルのことを頼むぞ」

 「は、はい」


 トリスタン大佐は、カタリナさんに全てを任せて去って行った。

 ………5分後。

 

 ああ、目を覚ましたよ。

 突然の告白に思考停止。

 だって高校でもいや、人生でも女性から告白なんて受けたことないわ。

 こういう時はどうしたらいいんでしょうか?

 【私と付き合うにはまだ早いよ子猫ちゃん】

 っとか言えばアルトゥールさん像になるのかな。

 いやいや俺には無理だよ。

 次こんな場面が来たらどうしよう。

 

 あとで考えておこうかと思ったのである。

 無駄になりそうだけどね。

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