第7話 解放戦争会議

 「会議を始める。議題は今回の戦争についてだ」


 マジでそんなことで呼んだのかよ。

 ここに来る前からさきにやっておけよ。っていうくらいの議題だよ。


 「皆も目的は分かっていると思うが、今回の戦争は元ダルシア共和国の解放が目的で。この国の最前線の星。ハープーン。テルト。ミルトンの奪取が儂らに課せられた任務じゃ」

 

 だからそこを取って、その先はどうすんだよ。

 奪っても、この後ろにあるデルタアングル宙域が狭くてな。

 俺たちの援軍が一気に来ないんだぞ。

 おい。物資とかで次第にジリ貧になるぞ。

 って言いてえ~~~~。

 でも無理だよね。

 この会議の中にいるメンバーで俺が一番の下っ端らしいし。

 

 「しかし、このデータ。向こうは野戦を仕掛ける気じゃ。星に籠っておらんぞ」


 そうなんだよ。

 俺もビックリしたんだけど、あの偵察で得た情報は、この三つの惑星よりも手前で敵軍が待ち構えていてさ。

 通常、惑星防衛戦であれば星の兵器を利用して戦うって資料に書いてあったからさ。

 なんで敵は、前の世界で言う籠城戦をしないんだ。

 でもたぶん敵の思考としては、野戦をした方が勝つ確率が高いと予想しているんだろうな。

 っていうことは、これは想像以上に悩ましいぞ。

 正直俺のゲーム歴からいっても、こういう自信に溢れる行動を起こす時は、確実な勝利を手にしている時だ。

 こちらの想像を超える物量を隠し持っている。

 もしくは単純にぶつかり合っても相手の質を上回っている兵器がある。

 それとも、意表を突く作戦がある。

 それしか考えられないんだけど・・・・。


 「帝国軍は、2万隻。こちらは3万3千隻。我が軍優勢で野戦をするのは少々不可思議じゃが、まあ、問題なく勝てるじゃろう」


 楽観視しすぎじゃないお爺さん・・・。


 「内訳はワシが2万隻、フローシアとトリスタンが5千隻、ケインズとタルマーとアルトゥールが千隻じゃ。よいな」


 ケインズ中佐がいきなり立ち上がった。

 それよりも気になったのが、この人タルマーって人だった。

 名前ゲットしたよ。

 嫌味おっさんのだけど。


 「少将閣下。この小僧と艦隊数が一緒なのが、私は納得ができません。中佐の私なら2千5百まで指揮できるはずです。タルマー中佐も千隻などもっての外です」


 タルマーのおっさんもうんうんと頷く。

 俺の事が相当お嫌いのようだ。

 

 「まあ落ち着け。ケインズ。儂の2万から削ってお主らに2千5百をやってもいいが。この戦争。あまり頑張る必要もないのじゃ。こっちには猛将トリスタンと勇将のフローシアがおるからな」


 筋肉モリモリのトリスタン大佐が猛将ですか……。

 たしかにそう見えるけど。

 でもこっちの豊満女性フローシアさんが勇将?

 随分大層な肩書があるんだな…‥。

 

 「こやつらを前面左右に出して、お主らは真ん中で待機してくれればよい。独立遊軍の形で本陣にいてほしい。そのために、お主らにはそれほど多くの艦隊数が必要ないのじゃ。今回はな」


 なるほど。

 つまりは、前は二手に分けて、左右を大佐。

 真ん中に中佐二人と俺。

 後方に少将の布陣で行くんだな。

 ということは、この戦争は左翼と右翼で戦うつもりか。

 二人が左右に突撃して行って、俺たちが中央軍として最初の布陣を維持する。

 そんな形だろう。

 ということはだ。これって・・・


 「で、でも。閣下・・・この小僧と同じとは」

 

 ああ、まだ言い張るのね、このおっさん。

 戦場の事をよく分かってないんじゃないか。

 この場合。

 俺たちはバランスを取らないといけないんだ。

 左右両翼を助けに行くかどうかを各自で判断するんだぞ。

 お爺さんが、独立友軍のような形をとるって言ってんだからな。

 2千5百よりも千の方が機動力もあるしな。

 援軍として妥当な数だろう。

 

 このおっさんたち。頭の中でシミュレーションしてるのか。

 大切なんだぞ。

 勝つイメージから逆算して行動を起こすんだぞ。

 この人たち、そこを考えているのか。

 

 「もうよいな。この布陣で3日後に戦をするぞい。左前にフローシア。右前にトリスタン。中、左にケインズ。中、中央にアルトゥール。中、右にタルマー。後ろにワシで行くぞ」

 「もうそれでよろしいのですわぁ。ケインズ中佐たちの出番はたぶんないのですよぉ。私と脳筋のトリスタンちゃんで勝負がつきますわぁ」

 「俺だけ脳筋にしやがって、お前だって脳筋だし、俺よりも強いじゃねぇか」


 え、このお姉さんは武闘派なの。

 この世紀末モヒカンマッチョおっさんさんよりも脳筋!? 

 そう言えばおじいさんが勇将と猛将って言ってたもんね

 すげえ強え人なのか。


 会議が終わりそうな雰囲気だったので、ずっと考えていたことを俺は質問した。


 「あ。あの……少将。質問よろしいですか?」


 学校でも陰キャの俺がここで意見を言うなんて、すっごい勇気がいるんだからな!

 皆、俺を褒めてよね!


 「なんじゃ、少佐。ゆうてみい」

 「それでは失礼します。戦闘配置はわかったんですけど、陣形や作戦はないんですか? 勝つための算段は?」

 「「「え!?」」」


 全員が声を揃えてこっちを向いた。


 「え!?」


 俺も一緒になって驚くしかない。


 普通はさ。

 作戦とか陣形ってあるよね。

 例えば、戦争で言えば、中央の敵陣突破するために左右で集中攻撃するとか。

 だから本当はこの両大佐が囮である。

 とかの作戦だよ!

 

 それから相手を粉砕するために、挟撃状態を作り出すのはどうやるの?

 あ。囮で言ったら、有名なので釣り野伏せとかもあるじゃん。

 ああ、でもあれは逃げる時だし、あれは危険だから使いたくねえし。

 だったら、魚鱗とか鶴翼とかの陣形もあるよね。

 艦隊戦だとしてもあるはずだよね。

 もしかして、シンプルに艦隊を並べただけで、ただビームを出し合うだけなの。

 ひょっとして基本の横陣のみで戦うの?

 もしかして、勝手に大佐たちが前に出て、向こうの両翼も前に出て戦うのか?

 マジでか!?

 なんでこんなに全員が見事に混乱してんだよ。

 当たり前だよね。

 俺は、当然のことを聞いたよね。

 なんでこんなびっくりした顔してるのよ皆!

 誰か声を出して~~~~。




 怪訝そうな顔をしている少将が話しだした。


 「お、おぬしは何を言っておるのだ。頭でも打ったのか」

 「恐れながら閣下。発言をお許しください」


 俺の後ろからカタリナさんは必死な顔をしていた。


 「な、なんじゃ。ああ、少佐の部下か。いいぞ」

 「カタリナ中尉であります。少佐は以前頭を強く打たれてから、若干様子がおかしいのです。ですからお気になさらずにお願いします………」


 あ~でもない、こ~でもないと。

 カタリナさんは、色んな言い訳を発動させていた。

 だけど。

 俺的には普通のことを言ったよ!

 何もおかしくない発言をしたよね。

 

 間違ってない。陣形ないとかありえんよな。

 そういえば、資料を読んでいた時から疑問だったけど、以前の戦闘記録の中にも、戦いの方法が書いてなかったな。

 戦果だけが書いてあった。

 それってもしかして、この世界、武器とか精密機器だけが高度に発展していて。

 戦術や戦略がないのか!

 もしかして、ただの原始人みたいに殴り合ってる世界なのか。

 そんなの銃持ってるのに撃たないで、銃口で殴り合ってるみたいじゃん。

 それじゃ全員が脳筋じゃん。

 待てよ。

 この人たちの脳筋の基準も気になってきましたよ。

 俺は恐ろしい世界に来ちゃったかもしれませんよ。

 

 ―――めっちゃ心の中で泣いてます。誰か助けてください



 憐れんだ瞳を俺に向けて少将が話しだした。


 「そうじゃったか頭を打ってしもうたのだな・・・それなら、まあよいじゃろ・・・少佐、驚いて悪かったのう。体調に気をつけなさい。これで会議を終了するぞい」


 俺、ほんとは頭打ってないからね。

 失礼しちゃうわもう。

 不満げな顔だけはしないようにした。

 納得もしてないけど。 


 「はっ」


 全員が敬礼をして会議は終わった。


 はぁ。でも仕方ないか。

 日本のサラリーマンもこんな感じなんだろう。たぶん。

 上官の命令は絶対なんだよ! たぶん。

 俺、高三だったからさ。

 命令されるってこんなに大変だなんてわかんなかったよ。

 ………会社員の皆さんご苦労様です。

 大人の皆さんありがとうございます。

 俺も子供から大人になって見せますよ。

 こんな訳の分からない世界でね!

 出来たら地球で大人になりたかったよ!


 心の中で俺は、大人の大変さに気づいたのであった。



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