第6話 会議前
デルタアングル宙域を抜け出た先に陣を取っていた本営。
相手領土に対して陣を構えている連邦。
この状況の中で全体会議を会ってするらしい。
俺的には阿保だと思う。
【せめて、そういうことはテルトシア宙域でやっておけよ。自国の領土でやるべきことだろ】と思う激しい怒りの気持ちを押さえて、俺は母艦ゲルドスタンに到着している。
俺はカタリナさんをそばに置き。
目指すは少将のいる会議室だ。
事前に話し合いの内容は知らされてはいるが。
どうやら、俺(アルトゥールさんの部下カタリナさん)が作った資料で会議は進んでいくようである。
「で、どこが、会議室なんだ。ここが大きすぎてどこがどこだか・・・」
「少佐。どうしたんですか。最近、キョロキョロしてばかりですよね。戦争が不安ですか。やっぱり」
「え。あ、まあ。どうだろうね」
正直。
俺のキョロキョロは戦争の不安からくるものじゃなくて、普段通りであるのだ。
結構、俺って人見知りするタイプなの!
不安なんだよね。
顔が見える対人戦の会話になるのがさ。
知り合いならいいけど、これから会う人って確実に知らない人じゃん。
つうかこの世界の人の全部が知らない人だわ。はははは!!!
人見知り全開の俺には、会議なんて向かねえよ。
生徒会とかもやったことねえもん。
◇
会議室に入る前。
二人の兵士が身分確認してくれた。
俺の生体反応チェックらしい。
瞳と指紋を調べると、アルトゥールとして入室が許可された。
やっぱり坂巻新じゃなくなっているんだという寂しさと、アルトゥールさんとして頑張らねばという気持ちが同時に沸いた。
「ガハハハ。アルよ。遅いぞ。お前にしては遅刻じゃないのか」
筋骨隆々のイカツイ顔のモヒカンおっさんが、俺の目の前に現れた。
凄く親しげなので、アルトゥールさんの事を知っている人なのかもしれない。
ボロが出ないようにしなければ・・・。
「時間には来ましたよ」
「いや。今は五分前だぞ。おかしいな」
「?」
「普段のお前なら三十分前には、現地にいるからな。変だよな」
「・・・」
まずいです。俺は普段とは違う行動をしてしまったみたいですぞ。
五分前行動って学校じゃ常識だよね。
社会人では非常識なの!?
それともアルトゥールさんの行動が速すぎなのか!?
「わ、私はですね・・・今回、少々急用ができましてね。いつもよりこちらに来るのに遅れてしまったのです」
「ほう。そうか……珍しいな。用なんて出来ないように先回りする奴が、仕事を後回しにしたのか。珍しい」
「そ。そうです」
「そうか。まあいいや。こっち座れよ。アル! ほれほれ」
自分の隣の席を大柄の男性がバシバシ叩く。
俺にそこに座れと言っているが・・・。
「いえ。私の席はそちらではないようで。失礼します」
「え。席なんてどうでもいいだろ。俺はお前の隣が良かったのに。ここに座れよ」
なんでだよ。
あんたの隣の席にあるネームプレート、俺の名前じゃねえんだよ。
どういう頭してんだこの人!?
勝手に席替えでもしようってのか!?
◇
俺は与えられた席に座る。
すると左隣の人から話しかけられた。
「どうもどうも。あなたはアルトゥール少佐ではありませんか。あなた、どういうことですかね」
「え? どういうことでしょう?」
出っ歯の親父さんが、なぞかけをしてきた。
どういうことでしょうかね?
「これはこれは、アルマダンの英雄ともなると挨拶もしないのですね。私など眼中にないと言っているのですね……私は中佐ですぞ。少佐! あなたからするのが筋じゃありませんか」
「あ。も、申し訳ありません。アルトゥール少佐であります。隣、失礼します」
「ええ、ええ。そうですか。早く出世した方は傲慢ですな・・・・・・」
すげえ嫌味攻撃を受けた。
たぶん、俺とは二回りくらい歳が離れているおっさんなのに、寛大な心をお持ちにならなかったらしい。
「ですよね。ケインズ中佐。私にも挨拶がないとは、失礼な奴だ」
俺の右隣のハゲのおっさんが、出っ歯おっさんケインズと同様に責めたててきた。
「も、申し訳ありません。アルトゥールであります」
「ええ。ええ。失礼極まりない小僧だ。まったく・・・・・・」
嫌だわぁ。
両隣のおっさん。
どうしよう。
中身ただの高校生な俺にさ。
二回り以上も離れている青年にさ。
嫌味を言い続けるなんて、なんて器の小さなおっさんでありましょうか。
って見た目は、アルトゥールさんだからな。
そりゃカッコ良すぎて、妬まれるよな。
おっさんらには特に嫌われるかもしれないわ。
その点、向こうの筋肉モリモリおっさんは、俺に隣の席を断られたせいなのか知らないけど。
悲しそうに首がうな垂れているわ。
どんだけアルトゥールさんが好きなんだよ。あんた。
アルトゥールさん大好きオジサンじゃん。
「・・・・・・」
こういう時は無言を貫くに限る。
余計なことを言わない方がいい気がしてきたので、話を聞いているふりをして、俺はコンコンと詰めるように話してくるおっさんらの声を全く聞いていなかった。
顔は見てるけどね。
そして大事な事をひとつ。
こっちのハゲのおっさんの名前が分からないのである。
誰? この人?
そっちこそ、名前を名乗ってよね。
ネームプレートの反対側って名前書いてないのね。
表面にしか名前がないよ。
どうしよう。このおっさんの名前が分からないや。
ま、いっか!
◇
「あらぁ。お待たせしたみたいねぇ」
扉が開いたと同時に甘い声が聞こえてきた。
俺は目を疑う。
あなたの胸のボタン。
あなたのお胸のせいで、はち切れんばかりであります。
それにお尻も窮屈そうに見えますよ。
スタイル抜群の美女が部屋に入ってきた。
「トリスタンちゃん。会議も始まっていないのに何をそんなにがっかりしてるのぉ」
「……あ? なんだフローシアか。席につけよ。お前、俺の隣だぞ」
うおおお。ありがてえ。
ネームプレート見てたけど名前を憶えてなかったから、ありがたいっす。
こっちの筋肉モリモリおっさんがトリスタンさんね。
そしてこっちの妖艶な美女が、フローシアさんだ。
覚えておこう。
人の名前を聞かずに、相手の名前が知れたのはラッキーだった。
「あらそう。それはいつものことじゃない。あなた失礼よ。それだと私が隣に来るのが嫌みたいに見えるわぁ」
「…べつに、いつものことだからいいだろ。でも、たまには俺たちはセットじゃなくてもいいだろ」
「だからそれだと不満があるじゃない。全く正直に言ってくれるわね。あれ。この子はいつも通りじゃないわ。なら。この子が例の子ねぇ」
フローシアさんが俺の方に近づいてきた。
甘いのは声だけじゃなくて、匂いも甘かった。
爽やかな柑橘系の匂いに近い。
「アルマダンの英雄・・・イイ男じゃない。私は、フローシア大佐ですよぉ」
「は……はい。よろしくお願いします。あ、アルトゥール少佐です」
彼女の目を見て挨拶が出来なかった。
それと、目以外だと胸を見そうになりそうだから、そっぽ向いたみたいになった。
「あらぁ。シャイボーイのようね。可愛い子ねぇ」
いいえ。シャイじゃありません。
陰キャ過ぎて女性と会話をして来なかっただけです。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』
なんか、聞こえてきた。
地響きみたいにゴゴゴゴゴって何かが鳴っていた。
だからちょっとだけ後ろを振り返る。
「んんんんん」
カタリナさんがタブレットを両手に抱きしめて、俺とフローシア大佐を睨んでいた。
おいおいおい。
俺たち君の上官だよ。
なんで睨んでいるのこの子!?
「席につけ。フローシア。何をしておるそんなところで」
会議室にいつの間にか小さなお爺さんが入って来ていた。
フローシア大佐に座れと命令が出来るのならば、おそらく大佐よりも偉い人だ。
だから、あのお爺さんが少将なんだろう。
「あら、ロル爺……もう来たのね」
彼女はぼそっと言った。
「可愛い坊やにはあとでお礼をしてあげるわぁ」
「は、はい」
どんなお礼でしょうか!?
エロいお礼でしょうか!?
というか、なにかお礼をしてもらうことしてないんですけども。
自分の席に帰ろうとするフローシア大佐が、俺の事を見ながら親指と残り四本の指を何回も合わせて、バイバイってやってきた。
よく見たら、この人もめっちゃ美人だった。
「全員そろったな。会議を始めるぞい」
色んなことが起きた会議前、お爺さんの挨拶で会議は始まったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます