第4話 アルトゥールという男
「めっちゃいい男だ・・・信じられん。転生前の俺の顔なんて、平均点なのに。これ満点じゃね」
俺は鏡の前でポーズを決めてみた。
以前の俺だったらカッコつけたポーズをしたら、逆にカッコ悪くなってダサくなってしまうんだけど、この人がやるとモデルのようなポーズに見えてしまうから不思議だ。
この人……美形です。
なんか、ごめんなさい。
俺みたいなのがあなたになってしまって、なんかごめんなさい。
「それにしても何もない部屋だ。この鏡だって、クローゼットの扉の内側にある奴だぞ。手鏡すら持ってないのか・・・まあ、カッコいいから服とかに無頓着だったのかな」
俺はドサッとベッドに座った。
「ん? そういや、このベッド。下になんかあるな」
引き出し付きのベッドだった。
「お。開けられるかな。ふん!」
顔を逆さまにしたまま俺は引き出しを引っ張ってみた。
「開かねえ・・・鍵ついてる・・・はは~~ん。こいつは・・」
思いついた。これは例の物が入っていやすぜ。亮!
って、亮はいないんだったわ。
親友と一緒にここを覗こうと思った俺だった。
「こういう慎重派の人はですね。しかも物がない人はですね。机の引き出しに仕掛けがあるはずなんですよ。無駄に真面目で頭のいい人はさ。そういう仕掛けをしちゃうの。漫画でもあったでしょ。ほらな」
机の引き出しを開けると、底が二重になっているのに俺だけは気づく。
甘いんですよ。アルトゥールさん。
隠すにはもっといいところに隠さねばね。ふふふふ。俺の勝ちだ。
って何を争っているのやら・・・。
アルトゥールさんが唯一持っているペンで、引き出しの底を上げると、隙間には鍵があった。
「名探偵だね。新君! これで、アルトゥールさんの秘密のムフフを暴きましょう!」
カッコイイ人が隠す物はどんなお宝なんでしょうか・・・。
って、亮もだったけど、普通なんだよね。
結局男の子は、イケメンだろうとなんだろうと、男の子なんだよ。
「どれどれ。何が出てくるかな・・・え?」
アルトゥールさんの秘密の扉を開けた。
所々がしわくちゃになっているノートが入っていた。
「ノートだ。この感じは日記帳かも。んんん。人の日記を読むのは気が引けるな。でもこの人を知るにはいい情報だ。ごめんなさい。アルトゥールさん。俺、見ちゃいますよ」
俺は日記を開いた。
◇
宇宙歴1324年1月15日
今日は本営からの命令があった。
少佐としての初任務は、解放戦争。
私専用の旗艦 アーヴァデルチェに乗っての初の任務。
昇進からの初任務は緊張もするが、とにかくめでたいものである。
連邦から直接頂いたものなので、これは私への期待の表れでもあると思うのだ。
戦争に貢献できるように頑張っていこう。
病を隠しながらだがな。
そこがいささか不安でもある。
「病だって!? アルトゥールさん、病気だったんだ。マジでか!?」
宇宙歴1324年2月9日
遠征から数日。
この旗艦に乗るのは、私の新たな部下たちである。
だから、私の表情や容体は隠せるはずだ。
ここに、私の大切な友人の二人がいなくてよかった。
あの二人ならすぐにでも、私の変化に気付くだろう。
次第に悪く調子にだ。
持つか。私の体は。
まだ許容できる範囲の咳だから、何とかごまかしていくしかない。
そうだ。こんな悲しいことばかりを書いても仕方ない。
気持ちを切り替えよう。
今日のご飯もとてもおいしかった。
美味しい食事を提供してくれる食堂の人たちには感謝しよう。
でも一人だ。
部屋で食べるしかないのが少し寂しい気がする。
だが仕方ない。
血を吐いたり、食べ物をむせたりする私を見せてはいけない。
食堂に行って、そうなったら一巻の終わりだろう。
あぁ、部下たちと一緒にご飯を食べてみたかったな。
しまった。結局後ろ向きな事ばかりを書いてしまった。忘れよう。
「な、なに!? やっぱり体が悪いんだ・・・・それに、カタリナさんがご飯を食べているのを見たことがないってのはこういうことだったのか!?」
宇宙歴1324年2月13日
咳のおさまりが悪い。
強引に薬で止めてはいるが、それでも止められない時は部下に悟られないように陰に行って隠れて咳き込んでいる。
病が徐々に体を蝕んでいるのがわかるのだ。
私の時間は残り少ないらしいが、いよいよ帝国との戦争も始まるであろう。
気を張らなくてはならない。
どうか持ってほしい…神よ。
どうか私に時間をください。
それが出来ぬとも、どうか皆に勝利だけでも。
「すげえ。体が限界なのに、みんなの為に戦おうとしてる。なんて人だ」
宇宙歴1324年2月21日
私の命は、もう長くはない。
だから私は戦場の偵察を買って出た。
旗艦アーヴァデルチェなら他の戦闘艦よりもたやすく任務が出来るであろう。
おそらく、これが最後の任務になり、最後に国の為に忠を尽くせるはずだ。
ああ、私の先祖には大変申し訳ないことをした。
子孫を、栄光ある一族の血を、残すこともできずに逝くことを・・・
一族最後の男子であるにもかかわらずだ。
無念である。
まだ齢23という若さでは少佐が限界であったようだ。
これからもっと上を目指して、さらなる先を目指せたのであれば・・・おのずといずれ・・・
ここで日誌は終わっていた。
最後のページは血が滲んでいた。
ペンを持つ手から出たのか。
それとも咳と共に出た血なのかは分からない。
それに紙がよれている部分もあった。
これは、水滴の痕だ。
俺はこれは涙の痕だと思う。
アルトゥールさんは泣きながらこの日誌を書いていたんだ。
俺はただただアルトゥールさんの日誌を持って呆然とするしかなかった。
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