第3話 君の名は!

 『ピンポンパンポン』


 ようやく自分の名前を入手した俺の耳に、学校の連絡チャイムみたいな音が入ってきた。


 「皆さん、食事休憩の時間です。A班からです。一時間後にはB班になりますので、A班は急ぎ、食堂に来てください」

 

 お食事休憩の連絡だった。


 「俺、A班? それともB班!?」


 これは重要な問題である。

 今すぐにでもご飯が食べたい。

 それくらい俺のお腹が減っているのだが、自分がどっちの班なのかがわからない。

 ここで俺が食堂に行って、あなたはB班なんですよって言われたらマズいし。

 このままB班の食事時間まで、部屋で待ってても、もし俺がA班だったらご飯は無しなのか?

 すげえくだらない事で、俺はめっちゃ悩んだ。

 

 『ギュルルルル』

 

 「ああ。腹減ってるわ。いくしかないね」


 俺はコッソリと部屋を飛び出した。


 

 ◇


 廊下はメタリック!

 ピッカピカの地面だった。

 俺の顔が反射しそうになるくらいに綺麗な廊下だ。

 

 「・・・食堂どこすか!」


 独り言が勝手に出た。

 そうなんだよ。

 俺って、文字は読めたけど、この船の地図が頭になかった。

 誰かに聞きたいけど、俺が少佐じゃないってバレたくない。

 会話してボロを出したくないから、食堂を目指す人を探して後をつけることにした。


 廊下の曲がり角から二人組がやってきた。

 俺は反対側の曲がり角で待機して盗み聞きする。

 

 「あのさ。さっきの少佐、変じゃなかった」

 「ああ。俺も思った。お前も思ったんだ」

 「ええ。いつもの冷静さを感じなかったよね」


 やべえええええええええええええええええええええええ。

 アルトゥールさん。冷静なタイプの人だった!!!!

 俺と反対だよ。俺はあわてんぼうタイプなんだけど!!!


 「ああ。それってでもさ。風邪だったんじゃないのか。熱出して倒れたって聞いたぞ」

 

 おお。熱ってことになってる!

 そうです。風邪ってことにしておいてください。


 「そうかな。中尉におでこをくっつけられたから倒れたように見えたけど」


 うおおおおおおお。

 女性にはバレている!!!

 俺が女性に緊張してたことを!?


 「はははは。なんだよそれ。それじゃあ、ガキじゃん。初心過ぎるだろ。彼女の一人や二人くらいいるぞ。少佐のカッコよさならさ」

 「まあ、そうよね。少佐モデルみたいにカッコいいものね。彼女なんてたくさんいるわよね。でもそんな男だったら許さないけどね。あははは」


 ごめんなさい。

 彼女いません。一人もいません。

 出来たこともありません。

 あなたたちの言うハーレムなんて築けません。


 「まあ、それはいいとして。知ってる? 少佐のおかげでステルス機を撃破したのよ」

 「ああ。聞いた聞いた。すげえよな。ステルス機って肉眼で確認しないと駄目な奴だろ。少佐には敵の位置が分かっていたのかな。やっぱすげえよな」

 

 全然知りません。

 振り向いたらそこに敵がいました。


 「私たちとは違う次元の考えをお持ちなのよ。きっと達観しているんだわ」

 「そうかもな。英雄だもんな」


 ある意味、別な次元から来ましたよ。

 別世界って奴ですよ! 


 「早く食堂に行こうぜ。あっちだな」

 「ええ。いきましょうか」


 と俺たちの間にある廊下を彼らは曲がっていった。

 俺は忍び足で彼らについていって、無事に食堂についたのである。



 ◇


 『ガヤガヤガヤガヤ』


 食堂は、学食のように騒がしかった。

 なんだか学校に来たみたいで、少しホッとする。


 「お兄ちゃんは何にするの。うんうん。じゃあ、こっちね。はいよ!」


 列の前の男性に向けて、食堂のおばちゃんは元気一杯だった。


 「じゃあ、お次のお兄ちゃんは」

 「ええ。それじゃあ、オススメありますか」

 

 俺はシンプルに聞いてみた。

 こう言う美味しいものを求める際は、おばちゃんに聞くに限る。

 

 「今日はいつものように二種類だけど。少し豪勢なんだよ。何でも少佐のおかげで、先勝祝いだとかね。先勝だけじゃなくて、次は戦勝祝いもしたいよね」

 「へ~。少佐のおかげでね・・・それで、オススメは?」

 「ああ。ごめんね。えっと、今日は焼き魚定食か。とんかつ定食だね。どっちも美味しいから、好みで選びな」

 「う~~~ん。じゃあ、とんかつで」

 「はいよ」


 おばちゃんは威勢が良くて助かる。

 さっきの女性には緊張したけど、この人からは俺の母ちゃんの匂いがするから話しやすかった。


 「どう! 美味しそうでしょ。元気いっぱい食べるんだよ。あんた細いからね」

 「え? ああ、どうも」


 食堂のおばちゃんのご飯の盛り付けが異常だった。

 茶碗からごはんの塔が出来ている。

 俺にトレイを渡してくれた時におばちゃんは俺の顔を見た。


 「はいよ。全部食べな・・・よ・・ええええ・・・しょ、少佐!?」

 「…ありがとう。おばちゃん!」 

 「……え、ど・・・どういたしまして」


 俺はぼんやりしているおばちゃんから食事を受け取った。

 一時停止してそうなんだけど、俺は彼女を無視して、空いている食卓テーブルに座る。


 

 ◇


 手を合わせて挨拶を決める。


 「いただきます!」

 

 俺の周りには人がいなかった。

 この食堂。

 結構込んでいるのに、誰も周りには座ってこない。

 俺が上司だからか。

 アルトゥールさんは、嫌な上司だったのかな。

 どうしよう。この人、人当たりが悪い人だったのかな。

 皆からの信頼度がないのかも。


 「うめえ!? なんでか知らんけど。ソースもついているし。ほぼほぼ日本食じゃん」

 

 衝撃的だった。

 異世界に来て日本料理が食べられるとは思わなかったのだ。

 これだけは神に感謝しよう。

 飯だけでも日本食でさ。


 「おお。漬物だぜ。すげえ。キャベツも、とんかつも。日本の料理そのもの・・・めっちゃ、うめえぞ」


 箸は止まらない。

 それほど美味しいご飯だった・・・。

 だが、ここで異常事態が発生した。


 俺がご飯をかきこんでいる時に話しかけられた。


 「少佐。珍しいですね。食堂でご飯を食べるなんて、今までありましたっけ?」

 「ぶはああああああ」


 俺は、テーブルにご飯を噴火させた。


 「ああ。ああ。もったいない。少佐、何やってるんですか。食べ物を粗末にしてはいけませんよ。ほらほら」


 超絶美人が俺の目の前に現れた。

 衝撃が凄すぎて、反応に遅れる。


 「ごほごほごほ・・・す・・・すまない」


 なんとなく少佐っぽい言い方で話す。


 「大丈夫ですか。ほら、ほっぺにもご飯を食べさせてますよ。少佐」


 彼女は俺のほっぺについたご飯粒を取ってくれた。

 クソ美人にそれをやられると、陰キャの俺には効きすぎる。

 効果抜群の攻撃に、俺の頭はショート寸前に・・・なっている場合じゃない。


 「いや、すまない。今朝ね・・・頭を強く打ってしまったようでね。所々記憶がないんだよ。はははは」

 「え!? 少佐。それは大変です。今すぐ医務室にでも」

 「いやいや。大丈夫だ。ところで、君。名前なんだっけ?」

 「え!? それすらもお忘れに・・・それは大変です。私はカタリナですよ。少佐、本当に大丈夫ですか!?」

 「はははは。まさか。さすがに君の名前が、カタリナ君だってことくらい知ってるよ。私が知りたかったのは、姓の方だよ。頭を打ってしまってね。そっちを忘れてしまったのだよ」


 どんな頭の打ち方だよ。都合が良すぎだわ。

 なんて自分にツッコミを入れていた。


 「ああ。そうでしたか。私は、カタリナ・アルバ・サンチェスですよ。少佐。本当に大丈夫ですか」


 超絶美人は心配そうな顔をしてくれている。

 この人。めっちゃいい人です。どうしましょう。

 騙しているみたいで心苦しいでありますが、ここは彼女のその心を利用して上手く立ち回っていかねば。


 「大丈夫だ。カタリナ君。心配しなくてもいいぞ」

 「そうですか。ですが不安ですね。少佐はいつもなら中尉と言ってくれるんですけどね」

 「ああ。そうだったね。でも今後は、カタリナ君でも慣れてくれ」

 「え。あ・・・はい・・お願いします」

 「????」


 何がお願いしますなんだ。

 まあいいや。

 とりあえず、目の前の超絶美人が、カタリナさんという名前である事はゲットしたぞ。


 俺は、初の食堂で重要データを集めることが出来たと満足したのだった。


 

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