第5話 真剣勝負の世界に浸る

  いま思えば、ですが。


  全身に入れ墨を入れるなんていうのはもの凄い苦痛で、しかも完成まで半年~1年くらいかかるらしい。(広辞苑によると)入れ墨の別名は「我慢」というくらいで、よほど辛抱強い・人間としてしっかりとした人でないとできないのだそうです。

  ですから、昔の人は、総入れ墨の人を「人徳者」「任侠」といい、尊敬していました。チャラチャラしたアクセサリーである、西洋のtattooなんてのとは訳がちがうのです。


  なぜ、そんな人徳者が刑務所に入るようなことをするのか、と思うかもしれませんが、そこが、そんじょそこらのチンピラが引き起こすゼニカネのトラブルではなく、義理(物事の正しい筋道。道理)一筋の世界であり、私たちのような俗っぽい世界とは一線を画している故にこそ、なのです。

  その意味では、フランスの騎士道精神である「noblesse oblige」に通じる精神性があるといえるでしょう。

  自分の姓名どころか、世界中にたったひとつしかない名前(絵柄)を背中に背負って生きるというのは、まさに天上天下唯我独尊の境地。このオレは逃げも隠れもしないぜ、という心意気なのです。


  昨今の日本では、警察の取調室やパトカーの中で婦警さんとセックスをしていた不倫警察官や、交番の中で勤務中何十時間もゲームボーイをやっていたなんて警察官でさえ、悪事が発覚しても(新聞に)名前すら出ない。「厳重注意でお終い」なんていう警察世界の方が、世界中誰が見ても「狂気」でしかない。

  まるで、「警察官は何をやってもお咎めなしですから、上から下まで、みんなで悪事を働きましょう。」「赤信号、みんなで渡れば恐くない。」と、警視総監殿が全警察官に向かって奨励しているようなものです。


  自分の名前を大切にしない、名無しの権兵衛でもかまわないというのは、(在日)韓国人的ともいえるでしょう。


  しかし、そうやって自分たちの住む世界を自分たち組織ぐるみで甘やかすというのは「一個の腐ったリンゴが全体を悪くする。」「悪貨は良貨を駆逐する。」という社会を作り出していく。日本の社会を守るという、偉そうなご神託を掲げた警察という組織自身が日本を腐らしている、ということなのです。


  悪いことをした(仕事に失敗した)ら、指を詰めて一生罪の重荷を背負うという真剣勝負の世界に生きるヤクザの方が、大学日本拳法で真剣勝負をしてきた私からすれば、よほど正気といえます。


  まあ、あの時、湯船の中でそこまで考えはしませんでしたが、いま思えば、一泊1400円の宿で真剣勝負師たち10人に囲まれて身体の垢を落としたとは、なんて私は果報者、人生における数少ない貴重な体験であったと、今更ながら自分の運命というものを感じます。

  あの日あの時あの場を逃したら、よもや真剣勝負師が10人も揃う(歌舞伎の「白浪五人男、大川端揃い踏み」)なんていう場面に出くわすことは、今生にも来世にもないことでしょう。

まさに、

「人心受け難し今すでに受く、仏法聞き難し今すでに聞く。今生に度せずんば更に、いずれのところに向かってか、この身を度せん」です。


  昨年11月26日第68回全日本学生拳法選手権大会で、もの凄い真面目な人・超がつくくらいの真剣勝負師と出会ったり、商社時代、かの西澤潤一氏(ノーベル賞級の発明を幾つもされた)と東北大学で同級生であった方と、半導体設計装置の関係で真剣勝負のお付き合いさせて戴いたりと、拳法も強くない・頭も悪い私のような人間が、素晴らしい人たちに出会い、魂が震える体験をしてこれたのは、ひとえに私自身が真剣勝負の心で生きてきた(期間や時期や瞬間があった)からなのかもしれません。


  今やプー太郎の私ですが、また大学日本拳法時代、練習をサボったり、いい加減なことばかりやっていましたが、少なくとも練習でも試合でも、ひとたび殴り合いになれば、(技術だの駆け引きなど考えず)、ただひたすら死に物狂い・殺し合いの気迫で相手をぶん殴っていた(殴られていた)。

  その一瞬・一瞬の積み重ねが様々な僥倖を呼んでくれたのでしょうか(出刃包丁で刺されそうになったり、なんていう不運にも、同じくらいたくさん出遭いましたが)。


  「スタンド使いはスタンド使いと出会う」「類は友を呼ぶ」とは、まさにこの謂なのでしょう。


2024年4月2日

V.2.1

平栗雅人

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