第4話 大阪の夜景(通天閣)を見ながら湯船に浸る
「やれやれ、とんでもない話を聞いたもんだ」なんて感動しながら玄関を抜け、フロントでチェックインしてエレベーターのあるホールへ向かいました。
すると、そこには男子(大)学生?らしき2人がいて、「ぜんぜんイメージと違ってきれいだね。」なんてことを(関東弁で)話していました。
恐らく、卒業旅行で大阪へ遊びに来たのでしょう。「ちょっと恐いところ」というイメージでやって来たら、意外にもホテルの外観・入り口・ロビーも(夜ということもあり)きれい安全ぽいので、ホッとしているようでした。
人間の運命とは、どうしてこうも違うものなのか。 初めて釜ヶ崎へ来て、いきなり「刺されて血まみれ」なんて話を聞いてしまい「やっぱり・・・」と、緊張する私。
かたや「釜ヶ崎って、思ったよりきれいで安全」と、すっかり安堵している若者たち。
「男と女、あやつりつられ、細い絆の糸引き引かれ、稽古不足を幕は待たない、恋はいつでも初舞台・・・」(梅沢富美男「夢芝居」)。
運命の糸とは、なにかの意図のことなのか。
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「心ウキウキ・ワクワク」の彼らは、途中の階で楽しそうにエレベーターを降りていきました。
私の部屋は最上階で、廊下の先30メートルには、このホテル自慢の展望風呂があります。風呂好きの私は、部屋で一服するや早速、浴衣に着替えて外に出る。「血まみれ」のことなど廊下を歩いている内にすっかり忘れ、ガラリと風呂の扉を開けました。
すると、さっきの学生たちがいて、一人はすでに裸になり浴場の戸を開けて入っていくところです。
私は浴衣を脱ぎ、手拭い代わりの褌を手に浴場の扉の前へ行くと、もうひとりの学生が扉に手をかけたところでしたが、そのとき扉が開き、先に入った学生がこわばった顔で出てきました。そして、「ちょっと・・・」と言いながら浴場の方を顎で示します。すると、中を覗いたもう一人も、ビクンと緊張した顔になり「(風呂に入るのは)後にしようか」と言うと、2人して自分たちの脱衣籠の方へ戻っていきました。
私は「何がいるんだろう?」なんて、ワクワクしながら中へ入る。
浴場は、左右に数個ずつのカラン(シャワーと蛇口)が並び、奥には10人が入れそうな大きな浴槽、その左手にはガラス窓越しに、いかにも大阪らしい「通天閣のそびえ立つ見事な夜景」が広がっています。
そして、と言うか、ところが、と言うべきか。
各カランのところには、10名ほどのお兄さんがたが座っていらしたのですが、なんと、全員が背中一面の「総入れ墨」。
まさに、大阪らしいというか、これが釜ヶ崎と言うべきか・・・。
大学時代、土曜のオールナイトで観た東映ヤクザ映画、刑務所の風呂の場面を思い出しました。
私が子供の頃というのは、銭湯に行けば一人や二人は入れ墨をした人がいるのは当たり前、という時代でした。
6歳の頃でしたか、お祖父ちゃんに連れられて浅草へ遊びに行き、帰りに寄った銭湯で、全身に総入れ墨というおじさんの背中を流して、祖父と二人でコーヒー牛乳をごちそうになった、なんてこともありました(子供や年寄りには優しい)。
そんなわけで、入れ墨には「免疫」があるのです。
湯船にひたり通天閣を眺めていると、つい「きれいなお姉さんと夜景を見る」なんて夢を思い浮かべたのですが、現実は、目の前に強面のお兄さんたちの「桜吹雪に富士山、般若におたふく」なんてステキな絵柄に囲まれて、ちょっと緊張しながらの垢流し。
これも運命なのか、日本(人)らしい楽しみ方、と言うべきなのでしょうか。
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