第5話刹那の舞踏

飛び出したと同時に迫り来る斬撃を放つ異国女子。それを躱すことなく、右拳を振りかぶって破壊する。


「ほぉ!お主、私の斬撃を容易く打ち砕くか!さては力を隠していたな?」


「生憎様、生徒に力をひけらかす趣味はねーんだよ!」


そもそもなんで斬撃を飛ばせんだよ、その歳で!


「くっく、おもしろい!!」


「こっちは気分だだ下がりだっつーの」


止めどなく繰り出される斬撃の嵐に集中しながら、目の前の戦闘狂…もういっそのこと変態狂の域にいる生徒との会話は精神がゴリッゴリに削られるな…。


放たれる斬撃、舞うが如くの剣技はどれも一級に等しく、まだまだ訛っている俺には少しキツい連撃なのは間違いない。拳で破壊すんのも痛いしなるべくやりたくないけど、正直、これが手っ取り早い。しかも、ちょっとでも注意を逸らしたら一発どころか三枚に卸されて終わるっつークソ難易度もオマケ付きときたもんだ。


今も連撃の中に潜むフェイントに対応が迫られており、逆にそのフェイントに意識が行き過ぎると二手三手…より多くの攻撃が来て俺の体にダメージを入れる魂胆も未来視によって丸わかりだからなんとか助かってるが……マジなんで10代なの?やばいだろ。


ちょっとずるい事してるけど、マジで未来視使わないと避けきれねぇ。


「なぜ本気を出さない!」


「はっ、こちとら腹の底から絞りきってんだよ」


「嘘をつけ、お主……まだまだ余力がある。なぜ足枷を自らつけている?」


「マジか、君目良いね」


横から見舞う刃を屈んで躱し、足に力を入れて距離を取った。流れる静寂が物理的干渉となって俺の体に刺さっている気がするのは、それだけ目の前の異国女子から放たれる殺気がえげつないってことだろう。


今にも殺すと言わんばかりの迫力を放出している。一体どれだけ戦うのが好きなのか……俺には分からない問題だ。


…さっき理由話したんだけど、まぁ……納得するわけねぇか。


肩を竦めて、溜息を吐いた。


「なぁ、名前教えてくれよ」


「……今言わないとダメなのか?」


「大事な事だよ」


「………………カグナ」


めちゃくちゃ嫌そうに顔を歪ませて名前を告げてくれたが、名前を言うだけなのに、なんでそんな葛藤してますみたいな感じになんだよ。


「ナンパ野郎に連絡先を交換したくないけど渋々渡して逃げようとする女の子みたいな対応すんなよ、先生ガラスハートなんだよ」


「…ふん」


完全に機嫌を悪くしたようで、そっぽ向いて俺と目線すら合わせてくれなくなった。本当に自由な生徒しかいねぇなここ…急に喧嘩吹っかけて来たかと思ったら、急に不貞腐れるし。


…ったく、手のかかる。


「じゃあカグナ。今から俺と踊るか」


「なに?」


お前らも散々引っ掻き回したんだ、なら俺もやりたいようにやってやる。覚悟しとけよ、問題児。


「───今から俺と踊ってください、お姫さま」


手を差し出すポーズをしたその時、俺は自身に課した九つの封印の内二つを解放した。その瞬間に俺を起点に膨大な魔力が吹き溢れて周囲を轟かす。体に巡る魔力が、感覚があの頃に戻っていくような、そんな全能感に浸りそうになるのをぐっと堪える。


まだあの頃の感覚を掴めていない、もっと抑えろ。力を戻したとて、訛りきった体に鞭を打っても慣れるのに時間が掛かる。


「やはり、お主…!!最高じゃ!!」


「俺のお気に入りの音だ、いっぱい踊ろぜ」


「あぁ!!果てるまで踊ろう!!」


勢いよく飛び付く異国女子を迎え入れるように、俺も腰に差した剣を取り出し、鞘に入れたまま走り出した。













「ねぇ、ミエ」


穴の空いた廊下の壁、その先で闘う二人を見詰めながら、銀髪の少女レイサは隣に佇むミエに問うた。


「どうしたの?」


「カグナ、勝てるよね」


それは別に、カグナの力を心配してるからこその確認じゃなかった。カグナの実力は知っている、近接に関してはカグナはこのクラス最強…冒険者学校の教師ですら、カグナに敗れ、もはやカグナの実力に異を唱える者は存在しない。彼女達全員が安心して背中を預けれる友達…だからこそ、今回の奇襲もとい、不意打ちを任せたのだ。


…なのに、今目の前に広がっている光景は俄に信じ難い光景があった。鞘に収めた状態で、なおかつ鞘が壊れることなくあのカグナと、対等に渡り合えている冒険者なんて見た事がない。


「弱い、んだよね」


「魔力の感知が苦手だった…そういう感じかな。でも、あの動きなら私の魔法を避けれても不思議じゃない…わざと?」


マイペースかつ陽気なミエの目は、確かに二人を捉えている。いつものような元気な声に隠れた剣呑さを孕んだ言葉にレイサ達は冷や汗を垂らす。もし、仮に意図的にミエの魔法を食らったのなら、それはこの先訪れるかもしれない結末を想起させるに十分の理由だからだ。


でも、まだ確証は無い。どうせカグナに敗れるだろう。そんな一筋の藁を掴む中──ミエだけは違っていた。有り得るかもしれない結末が濃厚かもしれない、と。


そう思うに至った原因の一つは、魔法を放った時だ。あの魔法はミエの想定よりも弱かったら魔法の威力を下げるつもりだった。しかし、実際は威力を下げる事をせず、通常の約6分の1程度まで絞っただけの威力を持っていた。


名のある冒険者なら死にはせず、火傷。そこそこの力しか持たない冒険者なら病院送り程度の威力で、一般人ならば即死するぐらいの調整はしていた。ここにくる人は冒険者学校を卒業した人じゃないと教鞭を執ることが出来ず、感じ取った魔力量的にも安全面は考慮し、敢行した。


そして、もう一つの原因…突如として魔力量が増幅したこと。戦う前は精々中堅ぐらいの魔力量しか無かったはずが、カグナに手を伸ばした途端に魔力量が一気に膨れ上がった。平均の数十倍もの魔力量を誇る、ミエに迫るほどの勢いを。


他にも隠している可能性も捨てきれない。なら、それらの情報を含めて吟味したら、今行っている勝負はカグナの……。


───負ける可能性が、高い。


「よくよく思い返してみれば、完全に当たってたのにピンピンだったね」


「ど、どうしよう…怒られる?」


「大丈夫!カグナなら問題ないよ!」


金糸の髪をなびかせた少女──リラの横でオドオドと慌ただしく動く、黒く蒼みがかった髪の少女──ジュリが不安の声を上げた。対して、リラは漂う変な雰囲気を払拭するように、少し大きな声で言う。


傍から見れば確かに、接戦に見える戦況…だがここに在籍する少女達は奇跡の世代と謳われる実力者揃い、セラという稀代の英雄を育て上げたシズルを前に、英雄にも負けない才能を有してると言わせてみせたほど。


ゆえに今行われてる戦闘に対する理解度は同年代と比べても突出している。だからこそ、カグナが少しづつ押され始めてることをより理解していた。カグナが負けるかもしれないと、一抹の不安が拭えきれず、目の逸らしようもない、非情な現実がそこにはあった。


それでも、リラは答える。


「───きっと、勝つよ!」


カグナは勝つはずだと。





 

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