第4話挨拶は手短に、好戦的に


「まじかよ、うっそだろ…開始早々に魔法を撃たれるって…しかも上位魔法…とんだ問題児クラスってことがよくわかった…!」


赴任初日、なんなら教育者として素人に毛が生えた程度の俺に任せるクラスじゃねぇだろこれ。なんだ、扉を開けたら上位魔法って?二コマ漫画でもこんな鬼畜なことしねぇだろ。


育て親はどこだよ。鼻に熱した鉄を突っ込むぞ。


俺が被弾した魔法は難易度的にはそこそこだが、冒険者学校の生徒が軽々しく人に向けていいランクの魔法ではない。基礎→初級→上級と来て、基礎はこの際ザコとして、初級魔法は初心者でも扱える低難易度の魔法。


しかし初級と比べて上位…又は上級魔法は制御の失敗等を起こした時に被害が想定以上に重くなる可能性があり、威力も相応に高くなっていることも含めて容易に放っていいものではない。普通に人を殺せる魔法の領域だ。


てかあの人、全校生徒が5人しかいねぇのに人手不足で願ったり叶ったりって…もしかして、生徒がやらかした際の各方面に謝り倒す為の人員確保と問題児共を押し付けたいがための方便じゃねぇだろな…なんか、本気でそんな気がしてきた。


先生、あんた本当にやってくれたな。ぜってぇに後で抗議してやる…。


恨み言を心の中で吐きつつ、上に乗っかってる木々を退けて立ち上がった。一応周りに被害が無いかを見てみるが、案の定周りは黒焦げ。しかし火は燃え移ってないようで、瞬間的な熱量によって焦げただけみたいだ。山火事の心配は無い……が、そんなことはどうでもいい。


「…本当に、先が思いやられるって…」


過去の俺でも初日で人様に対して上位魔法をぶっぱなすことはしなかった。仮にやったとしても、威力は最小限にとどめるぐらいの処置はする。これは明らかに死人が出るレベルの威力だ。


…だが、この行為に対して擁護するわけじゃないけど、術師本人との魔力リンクが確立されていた痕跡があったから、もし俺が術師の想定していた実力よりも弱かったら威力を下げていたのだろう。通常、術師から離れた魔法は支配権を失って予め指定された法則に従って発動される。


簡単な例えが浮かばないから分かりやすくは言えないが…でも、あれだ。放った魔法の内容や方向を書き換えってやつが出来る人は高位魔術師だ。だから、途中で指定を変えることが出来ないことがほとんど。


だが、高位の術師ともなるとそれらの制約は無いも等しく、支配権を維持したまま魔法を放つことが可能なのだ。このことから、術師としての練度は相当高い。正直、教えることある?もし仮にこのレベルの子だらけだったら、ヤバくない?教えることなくない?


そういう意味でも問題がある……と。先生でも教えれる事が限られるもんな。てか、先に生徒の情報ぐらいくれや。1年生ってことしか知らねぇよ。


「…はぁ、取り敢えず行こ」


とぼとぼと教室まで歩く。さっきまで穴の空いた壁に5名程の人の気配があったのに、いつの間にかそれは消え失せて教室の内部から感じ取れるようになっているし、興味失せるの早くない?先生も先生で職員室にいるしよ…。


てか、この穴後で修理しといた方がいいよな…。


溜息を吐きたい気持ちを抑えて、穴の空いた部分を見つめるも…今後のことを考えたら溜息を吐きたくなった。











ニュルっと、穴の空いた前の壁から入ってきた俺に特に反応を示すことなく席に座ってる5人の生徒達の顔を見渡した。


「あー、これから担任になるセラだ。よろしくな」


「わー!生きてるー!」


「指指すな」


「よろしくお願いします」


「「「……」」」


何事も無かったように教壇に立った俺は色々言う前にひとまずは自己紹介を始めた。特に俺の状態に疑問を持つ者や興味を示す者はおらず、クラスの3分の1…ていうか半分は興味がなさそうに窓の外を見たり、自分の装備…刀を磨いたり、上の空で天井を見つめたりと、本当に好き放題な連中である。


逆に残り二人はこっちをキラキラとした瞳やら興味深そうに俺を見詰めているため、なんだか調子が狂いそうだ。


しかも5人しかいないため、このだだっ広い教室に前が2人、その後ろが3人って感じの席順だが…これ完全に悪意しかねぇだろ。上位魔法をぶっぱなして来た子が俺の真ん前って…後ろ向いた瞬間放つ気満々だろ。魔力が空間に集中してるし…なんなんこの子。なんでその歳で空中展開出来んねん。普通、身体展開するやろその歳だと。


手を前に突き出して、ファイヤボール!!みたいな感じで。


その時、先生の挑発的な目を思い出した。俺たちに負けないぐらい可愛い子ってそういう意味か……ってことをたった今理解した。たしかにすごい才能だ。1年でこの練度なら、将来A級を確実に取れる程の逸材になれる。


だがそれと同時にクソガキ度はS級だけどな。現段階で。


「俺が担当する科目は戦闘科目が主になるけど、よろしく。じゃあ5人の自己紹介を始めてもらってもいい?」


「はいはいー!私からね!私はミエ!魔術師だよ!」


勢いよく挙手した目の前の女の子───もとい、ミエは茶髪のボブといった具合の見るからに活発そうな元気っ子。常に笑顔を振る舞う体育会系の子みたいだ。このクラスのお調子者兼盛り上げ隊長って感じかな。


全ての言葉のシリに!!を付けてそうなほど元気があってよろしいが、君…その性格に反してめちゃくちゃ怖いことしてたって自覚ある?僕に魔法ブッパしたよね?何でそんなに無邪気でいれるんだい?もしかしてあれ?邪気なき悪意みたいな感じ?悪いことを悪いと思ってない…うん、まぁ次行こう。


「おっけ、ミエ。よろしく」


「うん!よろしく!」


「じゃあ、次───「ねぇ!お兄さん!」先生ね、どうしたミエ?」


隣の席に話を振ろうとした瞬間にミエが両肘を付けながらニヤニヤと何かを企んだような様子を湛えて遮った。既に嫌な予感が脳裏を過ぎる。


「お兄さんはお兄さんだよ」


「先生な」


「でね、お兄さん」


「先生って言えや」


「実はね、私たち事前に決めてたことがあるだよ」


あるだよって何処の方弁だよ。


「頭かち割るぞ」


「ひっどーい!」


演技派女優もブチギレる、わざとらしい涙を見せた。


「…ったく、それで決めてたことって?」


「そ!もし、私の魔法を対処出来たら今日は大人しくしていよーねーって決めてたんだけど〜!」


この時点で、俺の嫌な予感が100%まで登った。涙引っ込むの早ぇなおい。


「お兄さんさ、もんね!」


「…どうなんの?それ」


「んーとね!さよならってこと!」


「そっか、え?さよなら?」


「うん!さよなら!強い人が来るって言うから、期待してたんだけどね」


さよならって、なに?そんな疑問が頭を占めていたその時。不意に


「は───っ!?」


突然、目の前に現れた音速の斬撃を何とかしゃがんで躱すと、真下の地面に手を置て、前に押す要領で真横へと身を放り込んだ。着地は成功、体勢をすぐに整えて臨戦態勢を取った。だが、腰に差してる剣は使わない。


「歓迎は嬉しいけどよ、ちょっとお手柔らかにしてほしいな」


さよならってこの世界からサヨナラするって意味かよこっわ…!


言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺に斬撃をお見舞いした生徒を見据えた。長い黒髪を後ろに束ねている異国の剣士風な女の子から発せられるオーラは尋常ではなかった。人を斬ることにも躊躇いがねぇ…慣れてる。剣呑な雰囲気に隠された絶対に斬るという意思がひしひしと伝わってくる。


他4人はミエとすっげぇオドオドしている子を除いてこの展開に興味は無さげ…いや、金髪の子も一応はこの展開に興味があるみたい。なんか不安そうだけど。なんだか、あの子からは他の4人から感じ取れる問題児臭がしねぇんだよな…まぁ、そこはいい。今は目の前の子に集中しよう。


「おいおい、君はバロットか。完全に孵化する前に生まれちまったから喋れねぇのか?」


「ほぉ、挑発か?挑発だな?私には通用せぬぞ、この戯け者!!!」


「面白いぐらいブチ切れてんじゃん。やっと俺の話聞く気になった?」


「…っ、ふぅ…それはすまぬな、先程まで考え耽っていた。無視したことは謝ろう」


くそ、あの見た目でこの言動は脳がバグる…さっきから調子狂うなここは!


「じゃあ、これも次いでに謝ることは無しかな?」


「必要なことでな、許せ」


「好戦的過ぎない?」


「これが私の生きがいでなっ!!」


そう言うや否や、地面を蹴り此方に急接近して、手に持っている刀を下から掬うように斬り上げた。が、身体を横にして回避してから、広さを確保するために壁を蹴破って、穴の空いた壁から外へ行こうと俺も地面を蹴った。


「む?外へ往くのか!お主も大概だな!!」


「一緒にすんな戦闘狂!!」


「ははっ!褒めても斬撃しか出ぬぞ!!」


ヤダこの子!!


生粋の戦闘狂過ぎんだろ!!












頻りに鳴り響く地面が削られる音、遅れるようにして爆発音などの多様な戦闘音が職員室の中からでも聴こえていた。


「始まりましたね……ついに」


「…始まってしまいましたか」


「いいんですか?校長。任せてしまって」


3人の教職員仲間から、心配の眼差しで見詰められる校長ことシズルは特に心配している様子もなく唇を開いた。


「大丈夫ですよ。彼はなんて言ったって、私が一番信頼している生徒の一人ですから」


完全に信じきってる口ぶりと揺らがない瞳を見て、これは何を言ってもダメだと察した3人はやれやれと言いたげに窓の外を見やった。


「左様ですか…ならば見守るとしましょう」


職員室の窓からはグラウンドしか見えないのに、そう宣う男教師1号カイ。この中で一番若いくせに好きな物は塩辛。嫌いなものは甘いものである。


「無事帰ってきた時、労いましょうか」


そう言って体に出来た傷を瞬時に癒す液体(回復ポーション)と少しばかりの賄賂を持って、己一人だけ助かろうと企む男教師2号ヨムギ。最近の悩みは頭髪が徐々に薄まってきた事と妻に家を出ていかれたことである。


「そうですね、最悪校長を差し出せば我々は助かるでしょうし」


何気にいちばん酷いことを宣った女教師リリ。ようやく美容にも気を遣うようになったものの、彼氏が出来ないのが悩みだとよく愚痴る。


「さらっと責任逃れしましたね。何言ってるんですか?連帯責任ですよっ、連☆帯☆責☆任」


そして、上司の責任も部下の責任と遠回しに宣う校長の鏡シズル。この三人にも初めは出来る校長風を装って接していたものの、ものの数分で型崩れして開き直った残念美人である。


はよ仕事しろ。


「しかしなんですなぁ…まさか校長先生のかつての教え子が青薔薇のリーダーだなんて、驚きでしたよ」


「分かります、その気持ち…あの時は一体何を抜かしてるんでしょうかって真面目に思いましたもん」


「あの歳にもなって、あんな分かりやすい嘘を付くとかどんな神経してるんだ一体!?って言いそうになったからね、僕なんて」


「ふふっ、この笑顔が消えた瞬間死ぬと思ってくださいね」


ヨムギ、リリ、カイの三人の会話をモロに聞いているシズルは青筋を浮かべながら笑みを深めた。しかし、カイは未だに納得ができないようで唇を尖らせた。


「いやいや、あんなもんどうやって信じろと」


「散々言ったじゃないですかっ写真だって見せましたし」


「加工と思うのは必然かと」


「うぅ……それは…」


ヨムギの発言した加工、その言葉で何かを思い出したようにカイが不意に口を開いた。


「加工で思い出しました、そう言えば最近は男性でも女性のように盛れるカメラが発売されたらしいですよ」


へぇ…と一同から感心の声が上がる。


「すごいですなあ……それなら詐欺のし放題じゃないですか。お見合い写真とか恐くて覗けませんよそれ…」


「「確かに」」


「え、漁るようにお見合い写真を見てる僕の前でそれを言います?」


またしても確かに、と。ここにいる全員が思ったであろう言葉を最後にシズルは手を叩いた。


「確かにじゃないですよ、カイさんも!大丈夫ですよきっと。とにかく、その話はまた後で話しましょう!今は私の弁解が───っ!?」


突如揺れ動く地面と鳴り響く轟音。直下型の巨大地震でも発生したのかと思うような大きい衝撃がシズル達を襲った。しかし、ここにいるのは腐っても冒険者学校の教師陣、不測の事態が起きようと冷静さを欠くことも、情緒が乱れることもなく、まるで何事も無かったかのように職員室の扉側……例の問題児クラスのある方角を見やった。


そもそも、この衝撃には心当たりしかないからだ。


「どデカいの来ましたね」


「…終わりましたかな?」


「まだ続いてますね」


のほほんと言い放つシズル含め三人の教師陣。そして。


「戦闘の時間が終わると同時に私達の寿命も終わりに近づいてる事も忘れてはダメですからね…」


苦笑交じりで自分たちの状況を客観視するリリ。


「ははは!面白いこと言いますなぁ!リリ先生!」


「そーですよ!あははは!」


「で、ですよね〜!」


もはや笑って、現実を誤魔化すしか無かった4人だった。


だが、シズルだけはクラスの方に視線を向けていた。


(頼みましたよ、セラくん。貴方ならできると信じてます…どうかお怪我はないように…って、逆に失礼でしょうか?)


なにせ、彼は魔王を打ち破った稀代の英雄…彼にとって見ればこのぐらい試練とも思ってないだろう。教師なんてやったことも無ければ、誰かに教えるなんて事もした経験がないと言っていたはずなのに、連絡を寄越してきた当時、最後に彼はこう言った。


結果的に誰かを救えるのなら、例えなんだろうとやりきる。それが俺の信条だから。


キザっぽくて相変わらずカッコつけるなぁって思ってしまうのに…どうしてか様になってて、いつまでも色褪せない。あの時から聞き馴染んでる言葉は私に自信を持たせてくれる。


でも、こんなこと彼には言ってやらない、言えば付け上がるからだ。だけど、心の中では一番信頼してるし頼りにしてる、大事な教え子。


だから、どうか。





……帰ってきとき、いの一番に謝るから見逃してくださいね!!

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