レッドドラゴンノ…

星見守灯也

レッドドラゴンノ…

 温室に姫が入ってきた。管理人が顔を上げる。


「黒が艶やかできれいな花ね。なんて言う名前かしら?」

「ヘルフレイムブレスです。ドラゴンの吐息のイメージだとか」

「へえ。葉は真っ赤で、とってもすてき……」


 姫はその花を愛でていたが、やがて他に花を見つけて聞いてきた。


「あの白いお花は?」

「スターシャインネイルです。向こうの赤いのがクリムゾンルビーアイ」

「いろいろな種類があるのねえ」


 しみじみ呟いた姫に、管理人はその勘違いに気づいた。彼女の指す花はどれも葉が赤い。


「品種名というか、販売名でして。形も色も様々ですがみんな同じ花ですよ」

「あら、この植物の名前じゃないの?」

「植物の名前で呼ぶ人はあまりいませんねえ」

「何かしら、禁じられた呪われている名前なの?」

「そういうわけじゃないんですけど……」

「ねえ、教えてよ。何と言うお花なの?」

「……姫さまがセクハラで訴えないと約束してくださるんでしたら」


 何のことかと虚をつかれた姫に、管理人は花の辞典を持ってきた。

 パラパラとめくり、指さされたその名は。


「レッドドラゴンノフグリ」


 フグリ……。何を意味するか理解して、姫の顔が赤くなった。


「そ、そんな、でも、何でそんな名前……」

「これの原種によく似たドラゴンノフグリという植物があるんです。葉は緑色なんですけどね」

「へえ……」

「その果実が似ているんですって。その……ソレに」


 なるほどと納得しかけた姫だったが、


「待って。名付けた人は見たことあるの? その……ドラゴンの、ソレを」

「ドラゴンは爬虫類だから陰嚢ではないだろうと思いますよ。おおかた……半陰茎を見間違えたんじゃないでしょうか。ええと、陰囊に似た袋状の器官が二つあるもので……」

「知らなかった……。というか、よく見ることができたわね」


 ドラゴンはこの世界においては希少な生き物だ。滅多に人前に姿を現さない。


「それにしたって、こんな綺麗な花にそんな名前つけることもないでしょうに……」

「ドラゴンノフグリはもっと控えめな花ですからね。大きな二つ連なった果実の方が印象的だったんじゃないでしょうか」


 そう説明して、管理人は付け加えた。


「もっとも、レッドドラゴンノフグリの果実は似ても似つかないんですけど」

「風評被害じゃない!」


「で、どうします? 姫さまは何て呼ぶんですか?」

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