エルフたちのために
警察署に連行された真人は、竹下やラフィナたちとは別個に取り調べを受けた。
不法侵入についてはきっちりお叱りを受けたものの、その件よりも警察の関心はラフィナたちエルフの存在に向いていた。
軽い身体検査を行った結果、やはり彼女たちはコスプレなどではなく、その耳も自前のもので間違いないのだという。
しかし真人も配信で流したこと以上の情報は持っていないことがわかると、刑事たちはあっさり真人と竹下を解放した。
エルフたちはそのまま勾留し続けることになったようだ。
彼女らが本当に異世界から来たのだとすれば、その身元を保証してくれるものは何もない。これからどういう扱いをされるのか、真人は心配でならなかった。
警察署を出る頃には午前6時を回り、朝日が昇っていた。
すぐ隣でスマホを弄っていた竹下が画面を覗き込んで、驚きの声をあげる。
「おい小田原。俺らの昨日の配信、ネットニュースになってるぜ」
「嘘だろ? もう?」
「生配信は途中で警官に切られたけど、アーカイブも10万回以上再生されてる。あの翻訳……魔法って言ってたっけ? 動画越しにも有効みたいで、ラフィナちゃんが言ってたことも全部伝わってるみたいだ。こりゃあ、マジで大ごとになるぞ」
その時、まだ早朝だというのに、1台の車が警察署の駐車場に入ってきた。
腕章をつけたスーツ姿の男女が降りてきて、小田原と竹下の横を早歩きで通り過ぎようとする。そのうち男の方が突然足を止め、こちらに振り向いた。
「ん……!? あなた、おだっちさん? おだっち怪奇潜入チャンネルの?」
「え? ええ、そうですけど……」
「太陽新聞の者ですが、昨日、廃病院でエルフを発見されたそうですね? 詳しいお話を聞かせてください」
強引に名刺を手渡され、ボイスレコーダーを向けられる。
面倒なことになりそうな予感がした。
「すみません、余計なことは言うなって警察に止められてるんで……! 失礼します!」
口から出任せを言って、真人は強引に取材を振り切り、その場を離れた。
記者の男も、元々は警察に用事があったらしく深追いする気はないようで、追いかけてはこなかった。
代わりに早歩きで追いついてきた竹下が、怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「なあ小田原。あいつら、エルフのことを警察に取材しに来たんじゃないか?」
「……たぶんそうだろう。異世界から来たエルフなんて大ニュースだ。マスコミが飛びつかないわけないよな」
「でも、このまま引き下がったら俺たち、
「……引き下がるなんて、誰が言った?」
竹下の顔を睨みつけながら、真人は低い声で言い返した。
手柄だの、配信者としての名声だのは二の次でいい。
あの時、真人の手を握ってすがるような目を向けてきたラフィナの姿が頭から離れない。
「俺はラフィナさんの友達でも家族でもない。でも彼女がこの世界に来て初めて、頼りにした人間のはずだ。それを世界中の人たちが、画面越しに目撃してる」
「……だな。確かに」
「俺には、ラフィナさんたちエルフを守るために行動する義務と権利がある。彼女もそれを望んでいるんだ。そのことを全世界に訴える!」
「うまくすれば、世論が味方してくれるかもな。それができなきゃ、たまたま最初にエルフを見つけただけの人で終わっちまう。……このチャンスに賭けようぜ、小田原。のし上がる絶好の機会だ」
ニヤリと不敵に笑う竹下に、真人は大きく頷き返した。
真人には竹下ほどの打算はなかったが、どちらにしてもやるべきことは同じだ。
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