第66話
このままじゃカノンが保たないと思い、私はハナを引き剥がした。
乱れた呼吸を整えると、カノンに近づいたが彼女は危機を察知したのか後退りながら壁際へ追い込まれた。
「や、やめ……」
「小さいのも可愛いくていいわね」
「ですね!」
「ハナまで!?」
「まあ洗礼とでも思って……」
「うう……何か大切なものを失う気分だわ……」
カノンはそう言いながら私の手を受け入れた。
私は服の下から手を入れ、直接小ぶりな乳房を掌で包み込んだ。
「あれ……」
「どうしたんですか?」
「ま、まさか胸がないとか言い出すんじゃ……」
「いや違う」
私はすごく真面目な表情をすると、何か只事ではない事をハナは察知した。
「な、何? ハナまでなんでそんな真剣な顔してるのよ」
「いや……まさかね……」
私のこの感触が確かなものか確かめたかったが、身近にそれができる者がいない。
「ねえ、ハナはわかる?」
「やってみます」
「ハナまで……」
ハナは私と同じようにカノンの服の下から手を入れると、胸元に手を置いた瞬間「あっ」と声を上げた。
「なんかザワッとしたものが……」
「うん。多分これ……」
カノンは何が何だかわからない状態で放置され、私とハナはあれこれ議論を始めた。
「ちょ、ちょっと二人とも?」
「ああ、ごめん。ねえカノンは覚悟はある?」
「覚悟? 何の?」
「天使になる」
その言葉にカノンは仰天し、腰が抜けていた。
「わ、私にもなれるんですか? さっき確率の話をしましたよね?」
「どうしたの急にまた口調が変わってるわよ」
「カノンは昔から動揺するとこういう話し方になるんです」
「なんで二人ともそんなに冷静なのよ……」
私はまるで悪い科学者のような笑みを浮かべていた。天使を増やすことは悪いことでもない。それに、滅多に立ち会えない機会だ。逃すわけには……。
「わかりました……私もハナと同じなれるなら!」
「じゃあこっちに来て」
私はカノンを寝室へと誘う。ベッドの上で私は下着姿になり、その胸の中にカノンを抱いた。
「あ……何この感覚……」
瞼を重たそうにしているカノン。そして徐々に体が発光していき、その眩しさが部屋を包み込む。
光が収束すると、ハナと同じように瞳の色が紅くなり、どこか清々しい表情をしたカノンが馬乗りになり私を見下ろしていた。
「これが……天使の力……」
「まだ成り立てだから不安定かもしれないけど」
「ハナのようにはどうしたら……」
「長時間、私の力を浴びなければならないわ。さっきみたいに胸元が最も供給しやすいから……体を重ねるのが手っ取り早いわよ?」
「じゃあハナは……」
カノンは何か良からぬ想像をしたのか、顔を赤くさせていた。
「私はセレスティア様の胸の上で寝てしまって……」
「ああ、そういうのでいいんだ」
カノンはそう言うと、しばらく私の胸の上にいた。
「そう簡単じゃないわよ?」
「でも、こうしていると安心する……」
すうっと寝息を立て始めたカノンを起こすことなく、私とハナも眠ることにした。
そして翌朝、見事にハナと同じくらいに体が成長したカノンは自分の胸の大きさに驚いていた。
「伸び代しかなかったのか……」
「邪魔じゃない?」
「邪魔じゃないですよ!」
私はカノンの胸を揉んでみるが「ハナの方が大きいわよ」と言った。
「だけどこれで私も二人目かぁ」
「多いと何かあるんですか?」
「そもそもね、天使ってのは神様の代わりに下界で暮らすのよ。で、下界の様子を報告するんだけど、天界の人間で下界に降りられるのが神様クラスじゃないといけないから、下界の人間から選定するの。だから神様皆んなが持ってるわけじゃないのよ。こうして、天使にするための儀式も下界でしなきゃだし」
私がそう言うと、カノンは頷いて少し考えていた。
「なるほど。神様が下界に降りていなければならないと……」
「でも、神は下界に降りようとしない。だから天使は増えないのよ。それにお側付きの者なら天界で調達できるからね」
「ルカさんとリカさんですね」
ハナの言葉に私は頷いた。
「それから昨日居たルティスは特別で、バハムートっていう竜族の中でも神に近い存在の竜でね。今は人の姿に化てるけど、彼女も天界の住人よ」
「ヒノモトにも神龍という伝承に残る竜がいるが……」
「私は知らないけど、ミヤなら知ってるかもね」
私はそう言うと、着替えを始めた。
「ハナも用意しないと遅れるわよ?」
そう言うとハナは振り子時計を見て慌てて支度を始めた。
「私はどうすれば……」
「そうね。ここに居てもいいけど、とりあえず一緒に来てみる?」
「わかった」
カノンは着る服をハナに借りて一緒に学院へと向かった。
「主人……まさかその娘は……」
ルティスはカノンを見て驚くと同時に溜息を吐き捨てた。
「何人天使を作れば気が済むのだ……」
「天使は何人いても役に立つからね」
私はそう言うと、ハナとカノンを片腕ずつに抱き寄せた。
シャノンが遅れて合流すると、ルティスと同じく溜息を吐いていた。
「今更驚かねーけどよ。そんなポンポン天使が生まれるものなのか?」
「幸運かもね。これまで徳を積んでいて良かったわ」
「はぁ……」
呆れた様に言葉を吐き出したシャノンはさっさと歩き始めた。
学院に着くや否や、私を見つけて飛んでくるフィリスを受け止めると、カノンを紹介した。
「実は……この子が通り魔事件の……」
「犯人ということですか? しかし……手懐けていらっしゃるところが、流石セレーナ様です」
カノンに掛けられていた洗脳魔法について話すと、以前の邪神教のこともありフィリスは飲み込むのが早かった。
居合わせたマージェリーは少し気まずそうにしていたが、私は肩を叩いて「あの時のことは気にしないで」と耳打ちした。
「あら、学院長どうされました?」
「セレナ君……いや、セレーナ様だったな。その子は?」
「私の新しい側使いです」
「またかね……まったく君は……」
学院長は呆れ笑いを浮かべると、何かに気付いてカノンを凝視した。
カノンも警戒した様子で立ったままだが身構えていると、学院長はふっと笑いを含んだ息を吐き中へと入って行った。
「それじゃあ、カノンは私の隣に立ってればいいから」
「わ、わかりました」
教壇に立ち、授業を始めるとカノンはジッとその場で後ろで手を組み、足幅を肩幅ほどへ広げて視線を真っ直ぐのまま逸らさずに休憩時間まで過ごしていた。
「あ、あのーカノンさん。もう少し動いてもいいのよ?」
「そういう訳にはいきません。セレスティア様は立ってろと仰ったので」
「はぁ……。じゃあ、楽にしていて」
「わかりました」
私が差し出した椅子に腰掛けると、姿勢を正したまま、また次の授業中もそれをキープし続けた。
その日二度目の鐘がなり、昼休みなるとカノンを連れて食堂へ向かった。
「シャノン殿の飯も中々だったが、ここのも美味いな」
「それはアタシも認めてる。おばちゃん、また腕を上げてるから、アタシも負けてらんねーんだ」
「ルティスがいるから、料理する機会は増えるでしょ?」
シャノンは頷くと、ルティスの方を見て「大飯食らいだけど、繊細な味はわからねーもんな」と嫌味を言う。
「……最近、味がわからなくなってきたんだ」
「そうなの?」
私はルティスにそう問いかけると、彼女は浅く頷いた。
そして私の方を真っ直ぐ見て「今日一度、天界へ帰ってみようかと思う」と述べると、シャノンは驚いて固まってしまった。
「か、帰ると言っても、また戻ってくる!」
「わ、わかってるよ!ほらセレナがたまに帰るみたいな感じだろ?」
「んーちょっと違うかな。あれは私だから簡単に行き来出来るだけで、ルティスだと天界へ戻る転移魔法に結構力使っちゃうから、戻ってくる分の回復を待たないといけないけど……」
「セシル様の力を得られればすぐに戻って来れる筈だ」
ルティスはシャノンに向かってそう言うと「心配するな」と付け加えて、彼女の頭を撫でた。
「ただ……一つ懸念がある。私との契りの影響がどこまで出るか……。念の為、私もついて行くね」
「助かる……正直、今の私には天界へ戻る魔力も残っていな胃だろうから、そもそも頼もうと思っていた」
「いいのよ。飼い犬の始末は飼い主の仕事なんだから」
私はそう言うと、ハナとカノンも天界へ連れて行こうか迷ったが、二人はシャノンと一緒に居てもらうことにした。
「大丈夫……だよね?」
「もちろんです!シャノンさんに料理を教えていただきます!」
ハナはそう言うと、シャノンに笑みを向けた。シャノンも満更じゃないようで、少し照れながらも「任せろ!」と言っていた。
「じゃあ、放課後すぐに天界へ行こう」
「ありがとう。主人」
「いいのよ」
放課後になり、私とルティスは私の転移魔法で天界へと戻った。
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