第65話

「私は依頼内容を確認している最中に薬で眠らされて……それからは奴らの傀儡のような状態だった。嫌なものだな。意識も記憶もあるというのに……。奴らの命令を欲する犬のような状態だった……それに悦びさえ覚えていたんだ……気持ちが悪い」


「そう……あなたの体格的にも、きっと汚い仕事ばかりさせられたんでしょうね」


「奴らに都合の悪い人間や、時には善良な市民すら手に掛けた……。操られていたとはいえ後味が悪すぎる」


「魔法学院の生徒を狙ったのは?」


「最近、化け物のような生徒が入ったという情報だった。なんでも、教師を瀕死状態にするほどの逸材だとかで、命を受けて殺しにきた」


 私はその言葉を受けてハナを見た。


「顔は知らなかったの?」


「ああ。だから一度切り付ければそれで実力を計れると思ったんだ……」


「そう。まあ、その化け物のような生徒は目の前に居るんだけどね」


「目の前……」

 

 カノンは辺りを見渡した。私とルティス、それにハナを見ると、ルティスを指差したがルティスは「私ではない」とそれを否定した。


「ではまさか……」


「ハナだよ」


「ハナが……そうか、さっきやり合った時、こちらの人間にしては短剣術に慣れ過ぎていると思ったんだ……そうか……」


「ある意味目的は達成できてたってことね」


 私はそう言うと、カノンの足に治癒魔法を掛けた。折れた足が見る見るうちに再生されていく様を見てカノンは驚いていた。


「これほどの治癒魔法……あなたは一体何者なのだ……」


「セレナよ」


 私はそう言うと、治った証にカノンの足を叩いてみせた。

 そしてハナにカノンの服を用意するように言うと、私達はリビングへと移った。


「……いいのか。このようなもてなしを受けて」


「洗脳は解いたんだからいいでしょ。それともその人達にまだ忠誠を誓うの?」


「それは……」


「どの道、帰るに帰れないでしょ。身寄りがなければうちで面倒見るし」


 私はそう言うと、服を持ってきたハナは嬉しそうに「やったぁ」と喜んでいた。

 そしてキッチンから香るいい匂いにカノンは腹を鳴らしていた。


「とにかく、食事にしましょう」


「……かたじけない」


 カノンと並ぶようにハナは座ると、まるで姉妹のように見えた。

 話を聞くと、幼馴染で優秀なカノンと落ちこぼれのハナというはっきりとしたコントラストのある二人だったらしい。


「つまり、あのままだと幼馴染を殺してたかもしれなかったということか」


「果たして殺せてたかな? 実際殺し合いをしたら、贔屓なしでもハナの方が上じゃないかしら」


 目の前に置かれたシャノンの料理を取り分けながら言った。

 すると、シャノンが「そういうのはアタシがやるから!」と言い私からトングを奪い取った。


「というか、ハナのフルネーム初めて聞いたよ」


「すみません……ずっと名乗ろうとは思っていたんですけど……こっちでは名字と名前の順番が逆なので……」


「そんな違いもあるのね。じゃあ、カノンはなんていうの?」


「私はハルカゼ・カノンという」


「へぇ、綺麗な名前ね」


 私はそう言いながら鶏のトマトクリーム煮を口へと運んだ。


「その……私も聞きたいことが……」


「どうぞ、何なりと」


「ハナはどうして……こうなっているんだ?」


「ああ……ハナはね、もう人じゃないの」


「人ではない……?」


 私は自分の正体を明かした。そしてハナも同じようにその正体を明かすと驚いたようにカノンは手に持っていた匙を落とした。


「すまない。驚いたあまり……」


「気にすんな。ま、驚くのも無理はねーだろうがな」


 新しいスプーンを手渡すシャノンにカノンは礼を言うと、ハナの全身を見渡した。


「そうか……でもハナにとってはよかったことだな。あのまま里に居ても自由なんてなかっただろう」


「うん。私はセレスティア様に感謝してる。ここに来て本当によかった」


 ハナはそう言うと、私に満面の笑みを向けた。そしてカノンはそれを少し羨ましそうに見てた……。


「私はこれからどうすればいい? 無差別に人を傷つけた罪人として生きていくのか?」


「そうね……ここは直談判しかないでしょうね。それに、事件の犯人があなたという証明は誰にもできないし、気にしなくても大丈夫だと思うわよ」


「そうなのか……」


 食事を終えて食後のお茶をハナが淹れてくれると、カノンは久しぶりに飲むヒノモトのお茶に感動していた。


「これだけでも帰って来た気がする……」


「ここを家だと思ってもらってもいいけどね」


 カノンは申し訳なさそうにしているが「ハナの友達を放っておくわけにはいかないわよ」という言葉を添えると、少し嬉しそうに頷いた。

 ルティスとシャノンを家まで送り、屋敷に戻るとハナとカノンと一緒にお風呂に入ろうと提案した。


「湯浴みなんて久しぶりだ。ずっと水浴びだったから最近は辛かった」


「そう。ならゆっくり入りましょう」


 私はそう言うと脱衣所で服を脱ぎ捨てて、浴場へと入った。 

 後を追うように二人も入ってくると、体を洗いあってから、湯船に浸かった。


「天界にはもっとすごいお風呂があって、カノンも入れればいいのに……」


「天界って神様の世界でしょ? 私は行けないよね」


「ん? カノン、口調変わってない?」


「あ……しまった」


「うふふ。その方がカノンっぽくて私は好きだけどなぁ」


「うるさい!」


 カノンは照れながらハナにお湯を掛けた。そこからはお湯掛けバトルになり、私も巻き添えを喰らった。


『あ……』


 二人は私に掛けてしまったのと同時にそう声を溢すと、私は魔法を使って二人にお湯を浴びせた。


「魔法は狡いですよ!」


「使っちゃダメって決まりはないでしょ?」


「そうですけど……」


 ハナはそう言うと、魔法を使おうとしたので、私はそれを打ち消した。


「ハナ……あんなに魔術も使えなかったのに……成長したね」


「でしょ?」


 色んな意味でお風呂を楽しんだ後、冷えたレモン水をグッと飲み干す。渇いた喉に染み渡るそれは、体を潤しどこか軽くなった気分だ。


「私も天使になれたらな……素養ってそんなに珍しいんですか?」


「そうね……今生きてる人間に一人くらいしかいないって感じかな。それに神様が下界に降りてくること自体が珍しいことだから、そうそう天使は生まれないのよ」


 私の言葉を聞き気を落とすカノンだったが、ハナの体を改めて見てそれに見惚れていた。


「本当に天使って感じ……」


「どこが?」


 私は意地悪っぽくそうカノンに訊ねた。


「ハナは昔から肌も白いし柔らかくて……」


「胸も柔らかいよ。あと、お腹も最近……」


「気にしているんですから言わないでください!」


「ごめんごめん」


 ハナはそう言うと素早く寝巻きに着替えた。

 残念がるカノンに対して、私が相手をしようかと訊ねるも断られた。


「天使になると少し人とは変わるんだ……瞳の色とかも」


「そうね。体が力に応じた形になるからね。そういう意味では体が大きくなったのもそうよ」


 ハナは恥ずかしそうにすると「まあ、手放しに喜べないけど」と言いながら自分の体をギュッと抱き締めていた。


「いきなりだったからね。仕方ないよ」


「なるほど……」


 カノンは何を思ったのか、自分の胸を揉み始めた。


「私はそこまで大きくなりそうにないと思うな……」


「さあどうだろうね。意外と大きくなるかもよ」


 私はいやらしい手つきをカノンに対して伸ばすと嫌がるカノンはハナを差し出した。


「おお柔らかい……」


「や、やめてください!あっ、そこは……」


 ハナは擽ったいのか喘ぎ声に似た声を上げた。それを聞いたカノンは照れて耳を塞いでいた。


「意外とウブなんだ……」


 私は手を止めてカノンを見ていると、ハナは仕返しをするように私の胸を揉んできた。


「ちょっとやめなさいよ!」


 ハナの指が乳房の突起に掛かる度、私はこそばゆい感覚に苛まれる。

 その様子をもはや顔を手で覆い、指の隙間から見ているカノンは顔を真っ赤にしていた。


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