12.散りゆく花弁を天に還す
第64話
「セレーナさんも聞きましたか?」
「すみません、何の事ですか?」
「いや……朝から3人も通り魔に切り付けられたということですよ。しかも被害にあったのはうちの生徒ばかりで、犯人像も同い年くらいの子だったということです」
アルテミアはそう言うと、悲壮感を露わにした。
私はその時、特に思うことはなく、自分の身の回りで起こった事だったが、どこか他人事のように感じた。もちろん、当事者ではないからもあるが……。
「はーい席についてー」
私はいつものように名簿片手に教室に入ると、深刻そうな顔をしたクラスの人間を見ると、何事かと思った。
「なあ、事件のこと、何かわかったのか?」
「事件? ああ、別に。犯人が同い年くらいってことかな」
「だったらさ、朝にハナとぶつかった奴が怪しいと思うんだが」
シャノンはそう言うと、まるで自分で事件を解決したがっているように見えた。
私は眉間に皺を寄せつつ、どうしようもない面倒臭さを覚えていた。
「警備隊とかがどうにかするんじゃない?」
「でもよ、うちの生徒ばかりが狙われてるんだぞ?」
シャノンは机を叩いてそう言うと、私はシャノンを睨みつけた。
「じゃああなたは自分の周りを飛ぶ虫をいちいち殺すっていうの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「私が動く動機になるのは親しい人間が被害に遭ってからなのよ」
「じゃあ、アタシに何かあったら……」
シャノンのしつこさに苛立っていると、アイリスが遅れて教室に入ってきた。
「すみません……お取り込み中でしたか?」
「姫さんは何か知らないのかよ。朝の事件について」
「ああ……幾つか情報は入っています。今警備隊総出で町中を捜索中です。私の学友に手を出したのですから、放ってはおけません」
「ほら、アイリスは動いてるじゃん。なんでセレナは動かねーんだよ」
私は溜息を吐いた後、シャノンに説明した。
「じゃあ、私が私の力を持って捜索するとしましょう。神の目を使えば足を使わずあらゆる所を探せるわ。そして捕まえるのも簡単だし、処するのもそう。それだと、今後私に頼りきりになるでしょ? だから、線引きが大事なの」
シャノンは納得していない様子を見せつつも、言葉を引っ込めた。
アイリスが席に着くと、授業を始めた。
そして放課後になると、教員は学院近くを徘徊し生徒を見守った。
「だからって、私がここじゃなくていいのに」
「仕方ありません。私が襲われて仕舞えば一大事ですから」
アイリスはそう言うと、少し嬉しそうに私の隣を歩く。
ハナは私の反対を歩き、アイリスを二人で挟むようにしていた。
「で、警備隊長の娘が背後を守るか……」
「セレーナ様をお守りしたいところですが……」
「リディア……私の子孫を守ってくれない?」
「も、もちろんです!」
「フィリスさん……」
アイリスは少し呆れながらフィリスを見ると、フィリスは真面目にアイリスを見返した。
ハナは無駄に警戒しながらキョロキョロ辺りを見渡していた。
「というか、近衛兵はどうしたのよ」
「城内を守っているの。だから、こちらに兵を回せないのです」
「へぇ……その為にセレーナ・エクセサリアを使うなんて、ウォルターも偉くなったものね」
「一応、現国王ですから」
笑いながらアイリスが言うと、ハナが歩みを止めた。
「どうしたの?」
「あの人……朝にぶつかった……」
ハナはその人物に駆け寄ると、その人物は慌てて走り出した。
「アイリスの警護をほっぽって行くわけにはいかない……フィリス、ここは頼むわね」
「わかりました」
私はハナを追って走っていくと、ハナと対峙するフードを深く被った少女がナイフを両手に持ち構えていた。
「あのナイフ……」
少女は早い動きでハナとの距離を詰めると、ハナはその斬撃をサッとかわした。
「何者ですか?」
ハナはそう訊ねるが、相手は答えない。もう一度斬撃を繰り出そうと距離を詰める。
ハナはそれを風魔法で吹き飛ばすと、フードが外れて黒髪が靡いた。
「黒髪……まさかヒノモトの?」
「くっ……見られたからには……」
「え、ちょっと!」
その少女は私にも切り掛かってきて、私はあっさりと剣を召喚しそれを受け止めた。
目にも留まらぬ速さで繰り出される剣撃、それを全て凌ぐと、驚いたように彼女は距離を取った。
「大人しくお縄になってよ」
「断る……」
「じゃあ狙いは何? それだけ教えてくれないかしら」
「言えるわけないだろう……」
彼女は構えた瞬間、小さな玉を二つほど地面に叩きつけると煙に覆われ、彼女は姿を消した。
「二人とも大丈夫でしたか?」
アイリスとフィリスが私達に駆け寄ると、フィリスは私が持っていた剣を見て興奮していた。
「懐かしいセレーナ様の剣ですね!」
「ああ……」
「そちら頂けませんか? 城で飾っておきたいのですが……」
「アイリスまで?」
私は驚きながらそう言うと、仕方なしに剣をアイリスに渡した。
「一応、神殺しの剣ではないからね」
「まだ根にもってらっしゃいますの?」
「そりゃあ……ね。ハナなんか私を貫いちゃったし」
「あ……」
気まずそうにするハナは、とりあえず頭を下げて謝ってきたが、私はグイッとハナの頭を持ち上げて歩き始めた。
「早く行こう。長居は無用でしょ」
「はい……」
城に着くと、門兵にアイリスを引き渡し、私達はそれぞれの帰路に着こうとした。
すると、フィリスにも迎えが来て、私とハナは二人で屋敷まで帰った。
ハナはまだ辺りを警戒していたが、私はすっかり忘れて普段通りに振る舞っていた。
「あら、さっきの……」
「くっ……」
逃げてる最中に怪我を負ったのか、足首を抑えながら蹲っているさっきの少女を私達は見つけて駆け寄った。
「大丈夫?」
「近付くな!」
一生懸命ナイフを振り回すが、怪我がひどいのか、少女は徐々に表情から血色が失われていって意識を失ってしまった。
私とハナは顔を見合ってから、この子を連れて帰ることにした。
「ただいまー」
「あ、主人……誰だその娘は。まさか、人攫いにまで手を出すように……」
「違うわよ……。怪我してたから連れてきたの」
私は少女を客室のベッドに寝かせると、足首の様子を見た。
「これは……折れてるね。慌てて屋根から落ちて受け身を取れなかったんでしょうね」
「うっ……」
目を覚ました少女に私は「いいからじっとしててね」と言うと、そんなわけにはいかず、彼女は暴れ出したのでルティスとハナに押さえつけてもらった。
「くっ……殺すなら早く殺せ」
「何それ。私は別に殺したいわけじゃないけど。それに、殺すならさっきすでに殺せたんだけど」
私は彼女の服を脱がせる。すると、鎖骨のしたの胸元に見覚えのある紋章があった。
「これは最早懐かしいわね」
「何をする!」
紋章を吹き飛ばしたが、彼女の様子は変わらなかった。つまり、別に洗脳魔法が掛かっているのだろうかと、私はそれをも吹き飛ばしてみた。
すると、彼女は再び意識を失ったがすぐに目を覚ました。
「……私は操られていたのか?」
「そのマスクも外してもらえるかしら?」
私がそう言うと彼女はそれを承諾し、マスクを外して顔を露わにした。
「カノンちゃん?」
「な、なぜ私の名前を知っている!?」
「私だよ、ハナ。ヨザクラ・ハナだよ!」
「ハナ? そんな……ハナは私と同い年なはず……」
ハナはカノンと呼ぶ少女を抱きしめると、カノンは何かを察知したのかハナの法要を受け入れるように背中に手を回した。
「ということはあなたもヒノモト出身なの?」
「それは……機密事項だ……」
ハナは抱擁を解き、私にカノンを明け渡した。
「へぇ。じゃあこの足二度と使えないようにぐちゃぐちゃにしようかなぁ」
「ひぃ!ちゃんと話すから!勘弁してくれ!」
私はカノンの足から手を離すと、カノンは「私はヒノモトのシノビと呼ばれる一族だ」と言うと「そこにいるハナも同じ……」と付け加えた。
「え、ハナも?」
「ただ、ハナは昔からトロくて鈍臭くて……それで見限られていたんだ……だから、売りに出されて……」
ハナは涙ぐみながら頷くと「二度と会えないと思っていた」と言いカノンを見ていた。
「で、なんで操られてたの?」
「大陸の国からの依頼で、小さくて素早い者がいいとのことで私が任務に出向くことになった。だがそれは……罠だったんだ」
「罠?」
私がそう訊ね返すと、カノンは頷いて一つ息を吐いた。目を閉じて何か覚悟を決めたようにスッと私を真っ直ぐに見た。
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