第62話
「あなた達、いつも一緒ね。式には呼んでね」
「しないわよ……ってセレナなんか雰囲気違うわね?」
「ああ、セレーナの姿だから。今はこの姿で教員やってるのよ」
エリゼにそう説明すると、ハナの姿に二人は驚いていた。
「実は天使になって、昨日私の力に結構な時間触れてたせいで一気に成長しちゃったのよ」
「なるほど……」
ジェダはそう言って考え込むと、エリゼを見遣ってから溜息を吐いた。
「姉さんは無理じゃない?」
「ですよね……」
「何が?」
「天使になるの。本当に一握りしかいないからねぇ。素養がなけりゃなれないし」
「じゃあハナちゃんは稀有な存在って事なのね」
私とハナは二人と相席すると、邪魔をしてはいけないとそそくさと食べてすぐに帰った。
帰り道、店仕舞い中だった屋台スイーツ店の売れ残りを買い占めて、屋敷でお茶を淹れて食べた。
ハナは満足そうにお腹を摩ると、少し太ってきた事を気にし始めた。
「まあ、あれだけ食べればね。でも、私は少し肉付きが良い方が好きよ?」
「でも……」
「じゃあもう抱いてあげないから」
「それは……困ります」
ハナはそう言うと、溜息を吐いてお腹の肉を摘んでいた。
私はそんなハナのお腹を揉みしだくと「そんなに付いてないけどなぁ」と呟いた。
「ここの方が付いてるよ?」
「や、やめてください!擽ったいです……」
ハナの胸を揉みながら私は鼻息を荒くしていた。身を捩るハナは私の手をどうにか剥がそうとしていたが、私は負けじと胸を掴み続けた。
「セレスティア様……」
「んー?」
「……怒りますよ?」
「ひえ……」
私は手を離すと、頬を膨らませたハナは眉間に皺を寄せて私を見た。
「ごめんごめん。ほら、これで機嫌直して?」
「……セレスティア様の姿がいいです」
私が両手を広げてハナを迎え入れようとすると、そう言って断られた。私はセレスティアの姿になると、また両手を広げた。
「ほら」
「うう……抗えないものなのですね」
悔しそうに私の胸の中に入ってくるハナは、私の胸に顔を埋めると、大きく息を吸った。
「お昼の、大丈夫でしたか?」
「ああ、あれ? まあ大丈夫じゃなかったかな。あのままだと死んでた」
「私……無意識だったんです。どうにか通用する攻撃をしなきゃって……」
「仕方ないわよ。それに、その神殺しの力が使えるのは天界の人間だけだから、ハナが正真正銘の天使ってことになるわね」
ハナの頭を撫でると、嬉しそうに私の顔を見上げた。
そのままお風呂に入ろうと言うと「温泉がいいです……」とハナが我儘を言ったので、仕方なく天界へ帰った。
「うわ!セレスティア様にハナ様!?」
「ルカ……何してるの?」
「最近の流行りですよ!こういう踊りが流行ってるんです」
「へぇ。それより、お風呂だけ入りに来たの。入れるかしら?」
「勿論です!」
ルカはそう言って私達を案内すると、私の背中を流そうとしたので、リカも呼んできて一緒に入らないかと提案した。
「いいんですか?」
「いいわよ」
暫くしてから二人が入ってくると、恥ずかしそうにタオルで体を隠していた。
私はそれを顰めっ面で見ると、二人は慌ててタオルを外した。
「普段見せないので……少し恥ずかしいんですが」
二人はそう言って手で胸と恥部を隠しながら歩いてくると、急いで体を洗ってから浴槽に入った。
「ハナ様……」
「な、なんですか?」
ルカはハナの白い肌を見つめると、指で突いた。それを受けたハナは驚いて飛び上がった。
「綺麗な肌ですね。黒い髪も素敵ですし……濡れていると尚更……。以前と違って体もしっかりと大人になっていますし」
「もうルカ、ハナ様が困ってるじゃないの。セレスティア様!なんとか言ってください!」
「えー、今はパス。ハナも嬉しそうだし」
「ルカさんの指が冷たくて気持ちいいです」
「ルカ……あなたこっそり冷却魔法使ってるの?」
私は呆れながらそう言うと、ルカはてへっと言いながら舌を出した。
風呂から出ると、その冷却魔法で冷やされた牛乳を飲むと、その快感が癖になりそうだった。
「はぁ、やっぱりお風呂上がりの牛乳は美味しいです」
「ハナは昔からやってたの?」
「いえ……でもヒノモトでは割と古くからある習慣ですよ」
「そうなんだ。ヒノモトってどんなところなの? 私、行った事ないかも」
「私がいたところは山奥でしたけど、山から下りれば街とかは結構栄えてましたよ」
「へぇ……今度行ってみたいな」
私はそう言うと服を着て下界へ戻る準備を始めた。
ハナも同じように身支度を済ませると、ルカとリカに挨拶をして屋敷へと転移した。
「あ……」
ソファーに座るルティスが気まずそうにこちらを見た。
「あ……」
私はセレスティアの姿のままだったことを思い出して、セレーナの姿に変えた。
「どうしたの? こんな時間に」
「いや……たまには顔を出そうかと思ったら誰もいなくて……」
「ごめん天界でお風呂入ってた」
「すごいです。セレスティア様の神殿のお風呂は気持ちいいので好きです」
ハナが自慢げにいうと、ルティスは苦虫を噛んだような顰めっ面でハナを見ていた。
ハナは図体と共に精神も図太くなったのか、ルティスに対して強気な態度でいた。
しかしルティスも、昼の私との戦いを見ているのでそこは弁えていた。
「そうか……」
「どうしたんですか、ルティスさん?」
「いや……本当に天使なのだと思ってな」
ルティスはそう言うと、ハナに対して頭を下げた。
「主人の使いとなれば、ハナも主人同然だ」
「いやいや、私なんかの未熟者なのでそんなこと……」
「いいじゃない。それに、近々私との契りも解消しようと思ってるし、今のうちだよ?」
「待て主人、それは初耳だぞ!」
「だってあなた、セシルのとこのじゃない。いつまでも弟から借りっぱなしってのもね」
ルティスは少ししょんぼりした様子を見せ、私はルティスの肩を叩いた。
「でも気付いているでしょ? このままじゃあなたは力を消費するだけで、新たに共有されない。それができるのはセシルだけだから」
「……わかっている」
「それかたまにはセシルのところに顔出すかだね」
「それはそうだな。一度も戻っていないからそろそろ……」
ルティスはそう言うと、俯いたまま何かを決心したような様子だった。
「シャノンは?」
「もう寝ている。色々今日は考えることがあったからな」
ハナが用意してくれたお茶を飲んでいると、ルティスはヒノモトのお茶を珍しがっていた。
「香りが違うな。これはどこか落ち着く味だ」
ほっと一息吐きながらルティスはそう言うと、窓の外へ目を向けていた。
「夜は冷えるようになってきたからね」
「そうだな」
少し懐かしい感じがした。ルティスの横顔を見ながら話していると、そう感じた。
私は少し落ち着いて呼吸をすると、そのままルティスの目を真っ直ぐに見つめた。
「ねえルティス。あなたは寂しいと思っていた?」
「きゅ、急に何を言い出す……」
「だってさ、あなたが出て行くって言ってから、私は一人ぼっちになったわけじゃない。結構寂しかったんだからね」
「それは……すまない」
「シャノンが心配だったってのは理解できるから……」
私はそう言うと、隣に座っているハナを抱き寄せてみせた。
ルティスは少し反応を見せたが、それを押し殺しているように見えた。
「今はこうしてハナもいるから、私のことは気にし過ぎないでいいからね」
「……わかった」
そう言うと、ルティスは立ち上がり、屋敷から出て行った。
「ルティスさん……」
「どうしたの?」
「いえ、ルティスさんも寂しいんじゃないかなって思って。セレスティア様の愛を受けられなくなって」
「そんな……子供じみたことを思うはずないでしょ。まして、バハムートよ?」
「それでも、心を持っていることには変わりありませんよ」
ハナがそう言うと、私も同じことに気づいた。女神だからと言って、心がないわけではない。
この心が赤く腫れることもあれば、傷つき血を出すこともある。誰かに優しく撫でられることもあれば、ギュッと締め付けられることもある。
「ちょっと行ってくる」
私は屋敷を飛び出してルティスを追いかけた。
走る私に気づいたルティスは振り返ると、驚いた表情のまま私に抱きつかれていた。
「な、なんだ!」
「ルティス、私はあなたのことが大好きだからね」
「な、何をいきなり……」
「それをちゃんと伝えたかったの」
ルティスの顔を見ると、まるで赤く腫れ上がったようになっていた。そして、私の顔を手で押して背けようとすると「べ、別に、そんな言葉で……」と何かを言いかけてやめた。
「言葉じゃ足りない? キスでもする?」
「こ、こんな往来でだなんて……破廉恥だぞ!」
「いいじゃない。それに、誰もいないし」
私はそういうと、物言いたそうにするルティスの口を唇で塞いだ。
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