11.隠れた才能〜ハナの覚醒〜
第59話
「向こうの屋敷とは比べものにならないでしょ?」
「はい……お城くらい広いです」
「ああ……多分エクセサリアの城より広いわよ」
「すごいです……天井も高くて装飾も凄いし……」
ハナは天井を見上げた拍子に尻餅を突いてしまった。ハナに手を差し伸べて体を起こさせると、音を聞きつけたリカが大慌てで救急箱を持って駆け寄ってきた。
「お怪我はありませんか!?」
「大丈夫です。お尻をついちゃっただけなんで」
「汚れてしまっています!申し訳ございません。もっと尻餅を突きにくい構造にしておけば……」
「リカ、それは私への批判かしら?」
私は冗談めかしくそう言うと、リカは怯えた表情を浮かべながら慌てて頭を下げた。
「め、滅相もございません!汚れてしまったのでしたら、私どもの清掃が行き届いていなかった証拠。すぐに替えの衣服をご用意いたしますので!」
「あ、じゃあ先にお風呂をいただこうかしら」
リカに案内されながら浴場へ向かうと、その広さにハナはまたしても驚愕していた。
服を脱いで体をリカに洗ってもらい、浴槽に身を沈めると、一気に疲れが溶け出した。
「このお湯はどこから来てるんですか?」
「天界にも大地があって自然があるのよ。別の星みたいなものかしらね。下界と同じような世界が広がっているの。で、このお湯は火山の麓にある温泉から引いてるのよ」
「すごいです。お肌がすべすべです」
「そうね。だから長湯は厳禁。あんまり顔も洗いすぎると肌が傷んじゃうから程々にね」
「分かりました」
湯浴みを楽しんだ後、服を着替えて食堂へ向かうとルカの手料理がテーブルに所狭しと並んでいた。
「たくさん召し上がってください!」
「ありがとうルカ。久しぶりね、ルカの手料理」
ハナはそわそわしながら椅子に座ると、目の前の料理に目を輝かせた。
「こう見えてハナはめちゃくちゃ食べるからね」
「わかりました!パンのおかわりも用意しておきます!」
「そこまで食べないですよ!」
食事が始まると、ハナは物凄い勢いで食べ始め、目の前の皿が空になっていく光景を見ながら、私も食べ進めていく。
甘いタレを絡めた鶏肉や、丁寧に火入れされた焼き魚。ヒノモトの料理が多く、恐らくハナを考慮したものだろう。
「どれも食べてみたかったものばかりです」
「そっか。よかったねハナ。あと、この内容だとパンよりお米がいいわ」
「わかりました。用意します!」
リカはそう言うと走って部屋を出て行った。
ゆっくり食事を進めていくと、ハナは殆んどの料理を食べ尽くし、お米が炊けると胡瓜のぬか漬けをおかずにして白米を頬張っていた。
「本当、美味しそうに食べるわね」
「そ、そふでふか?」
モゴモゴしながらハナは答えると、ルカが「ちゃんと飲み込んでから喋ってくださいね」と言って少しお姉さんな所を見せた。
私は食後のワインを嗜んでいると「セレスティア様がお酒飲んでるところ、初めてみました」とハナが意外そうな目をして私に言うと「流石に、下界じゃ十七歳だからね」と笑いながら言った。
少し酔いが回り、私はうとうとしてくるとリカが寝室へと連れて行ってくれた。
「ごめんね。久しぶりに呑んだものだから……」
「構いませんよ。ハナ様も後でご案内しますね」
私はほろ酔いの心地良い状態で夢の世界へと旅立った。
不思議な夢だった。まるで蜃気楼のようにそこにあるようでない。まさに儚いものだった。
そんな少し心を逆撫でされたような夢を見て起きると、お腹の上でハナが寝息を立てていた。
ハナの頭を軽く撫で、髪を指で梳かすと少し喉を鳴らして薄っすらとハナは目を開けた。そして一つこちらに向かって笑顔を見せた後、また眠りへと戻って行った。
私も再び眠りに落ちると、次に目が覚めたのは鳥の囀りが合図だった。
「おはよう」
「おはようございます」
「……ハナ?」
着ていた寝巻きがギチギチになっているハナを見て、私は絶句していた。
「あれ……なんか胸が重いです……」
「ちょっと……エロ過ぎる!」
私はハナを抱えてルカとリカの元へ連れて行った。
二人はハナを見て驚くと、急いで採寸を始めて大急ぎで服を見繕った。
「よかったら私の服着てもいいから。サイズも同じくらいだろうし」
「わかりました!ではハナ様こちらへ……」
ハナはルカに衣装部屋へ連れて行かれた。私とリカも後から向かい、お人形遊びに似た状況を眺めていた。
「こちらも似合いますし……こっちはセクシー過ぎますがこれもいいですね!」
「あ、あんまりえっちぃのは……」
「じゃあこちらは? 布の面積は広いですよ。あと、髪も少しアレンジしましょう!」
ハナはルカにされるがままで、おめかしが済んだ頃にはすでに疲れ果てていた。
「うう……」
朝食を食べながらハナはいきなり大きくなった体にまだ慣れておらず、上手く食べれていなかった。
「流石に難しいよね」
「はい……」
年不相応な体に戸惑いつつ食事を摂るハナは、少し腕の長さによる距離感の誤差に困っていた。
こぼしながらサラダを食べているハナの口元をリカがナプキンで拭いていた。
朝食を食べ終えると下界に戻り、私はセレーナの姿に変わり急いで学院へ向かった。
「え、誰?」
エリンがハナを見てそう言うと、ハナは俯きながら「ハ、ハナです」と答えた。
「いやー驚いたんだけどね。めちゃくちゃ食べた分の反動かな?」
「もう私達より年上のお姉さんって感じというか……色気が凄いわね」
「うう……セレナ様もずっとそれを言うんです」
エリンはそれを聞いて大笑いをし「セレナは昔からそうだったからね」と私に向かって言った。
「それじゃあ私は教員室へ行くから」
エリンにハナを預け、私は教員室へ向かう。
いつものように先輩教員に挨拶を済ませ、教材を持って再び教室へ訪れると、キッと睨みを利かせるシャノンと居心地の悪そうなルティスがこちらを見てきた。
流石の私も瞬時に察知した教室内の気まずい空気に、どうしたものかと考えたが、一旦は無視をした。
「えっと、今日は当番誰?」
「あ、わ、私です……」
「リジー・コールマン? 黒板どうして汚れているのかな?」
「そ、それは……」
「……まあいいわ」
私は黒板に擦り付けられたチョークの跡を魔法で瞬時に綺麗にし、淡々と授業を始めた。
いつものようにお昼の鐘を合図に休憩時間に入ると、私はそのまま教室を出て教員室へと向かった。
「はぁー」
「どうしたのかね、セレナ……いや、今はセレーナ君か」
「どうもクラスで虐めが……」
「そうか……。まあ、多感な年頃だからね。誰かより優位に立ちたいと思う気持ちもわからんでもないが、思うだけに止まれないものかね」
「それは同感です。まあ、行動力があると言えば綺麗に聞こえますけどね」
虐めとは限らないが、恐らく、ハナが何かしら嫌がらせを受けたということはわかる。
その犯人はシャノン……という訳でもないのだろう。疑いたくはない。クラスの誰一人として、私は疑いたくなかった。
「午後の授業、模擬戦場を使ってもいいですか?」
「空いているから、もちろん構わないが……。一体何をするのかね?」
「ほら、うちのクラスに私が連れてきた子がいるじゃないですか。多分、その子が原因だと思うんですよ。だから、実際模擬戦をして白黒つけさせようかと」
「……大丈夫かね。その子、魔法を上手く使いこなせない、ということではなかったか?」
「なんとかしますよ、教頭」
私はそう言って教頭の机にコーヒーを置くと、食堂へ向かった。
肩が少し重だるかったので、今日も神殿で温泉にでも浸かるかと考えたりしながら歩いていた。
食堂に入り、エリンとハナが並んでパスタを啜っているところに合流すると、エリンから今朝の詳しい話を聞いた。
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